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「定着率」等から見た障がい者雇用の実態に関して
企業等に就職し働く障がい者の数が年々増加している今日、障がい者雇用は拡大傾向にあるといえそうです。実際の数字をみてみると、「令和元年 障害者雇用状況の集計結果」では、2019年6月1日時点で障がい者の雇用義務のある民間企業で働く障がい者数は56万608.5人(前年比2万5839.0人増)、実雇用率は2.11%(前年比0.06ポイント上昇)でともに過去最高を更新しています。また、公的機関や独立行政法人等で働く障がい者数においても、前年を上回る数字が記録されています。同様に、2019年度のハローワークを通じた障がい者の就職件数も10年連続で増加、就職件数は10万2318件で対前年比4.6%増加しており、その職域も広がりをみせています。(「平成30年度 障害者の職業紹介状況等」より)
一方で、就職後の職場定着率についてはどうでしょうか。2017年に独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構から発表されている「障害者の就職状況等に関する調査研究」によると、定着率が高いとはいえない状況がうかがえます。具体的な数字をみてみましょう。
- 身体障がい者:3カ月後77.8% 1年後60.8%
- 知的障がい者:3カ月後85.3% 1年後68.0%
- 精神障がい者:3カ月後69.9% 1年後49.3%
- 発達障がい者:3カ月後84.7% 1年後71.5%
このように1年後の定着率では、身体障がい者と知的障がい者が約6割、精神障がい者は5割を下回っています。
このことからも、障がい者は就職した後、長く働き続けることに一定の難しさを感じていることが分かります。企業においても採用活動中から採用、受け入れにあたっての工夫や取り組みを行うことが重要だといえそうです。
「障がい者雇用」成功事例 ~募集活動~
それでは、企業が障がい者を採用し長く働いてもらうためにはどのような工夫がなされているのでしょうか。ここでは、募集活動中と採用後の場面に分けて、具体的な事例を紹介しています。
事例①
コミュニケーションを重視しているこの企業では、採用面接時に現場の支店長や課長から担当役員も含めて、直接、求職者と会う機会を大切にしているようです。面接回数も3回以上設定しており、求職者の意向をしっかりとヒアリングすることで、選考時からミスマッチを減らすよう工夫しています。
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事例②
求職者が働く上で、企業の考え方や理念に共感できるかどうかも、働きやすさに関わってきます。そこでこの企業では、企業が大事にしている価値観を明文化しました。大方針の下に3本柱となる大切な価値観を具体的に掲げ、この考え方に共鳴してもらえるかを採用で重視することでミスマッチを減らしています。
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「障がい者雇用」成功事例 ~採用後~
このように、採用活動中からミスマッチを減らすための工夫が企業ごとに行われていることが分かります。次に、採用後、実際に勤務が始まってからはどのような取り組みがなされているのかみてみます。
事例①
この企業では、定期的な面談を実施しているようです。業務や職場に対する状況をヒアリングする機会を設けることで、障がいのある社員が感じている課題等を明らかにし、働きやすい職場の改善につなげています。また、通院等の目的で利用できる休暇制度があったり、定期的な避難訓練を行い、車いすの方のスムーズな避難や安全を確保する取組みをするなど、業務以外の面でも障がいに対して配慮し、働きやすい環境を整えています。
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事例②
この企業では、働き甲斐に着目しているようです。採用においては、障がいの有無にかかわらず共通の採用活動を行っており、あくまで「仕事」を中心に据えています。障がいに対する必要な配慮は行いますが、働き方には大きな違いがないようです。正社員登用の機会を設けるなど、キャリアプランの設定に役立つ仕組みがあり、障がいのある社員が担当する職域を広げることで、働き甲斐のある職場づくりをしています。
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障がいへの配慮や働くことに対する考え方など、さまざまな工夫から働きやすい環境や働きたいと思える職場づくりに努めていることが分かります。
ポイントまとめ
ここまで述べてきた障がい者雇用においての採用上のポイントについて、振り返ってみましょう。選考場面においては、求職者と企業との相互理解が重要だといえそうです。そのために、面談の機会を増やし丁寧なヒアリングを行ったり、企業側の理念や価値観を共有したりする工夫がみられます。そうすることで、入社した際に企業と社員が同じ方向を向いて働くことができ、早期に退職してしまうという事態を避けることに繋がっているようです。
また採用後においては、まず、障がいのある社員にとって働きやすい環境を整えることがポイントとなっています。それは、まわりの社員の障がいに対する理解といったソフト面、オフィスの設備といったハード面の両面を考える必要があります。これら、整えるべき環境は、社員一人ひとりによって、また障がいの内容によっても、課題に感じる点は異なるので、入社後も社員との面談の機会を設け、職場環境についてのヒアリングをすることが重要といえそうです。その他では、キャリアを築いていきたいという方のためにも、採用後におけるキャリアプランや担当する職域の幅などを考えることもポイントになります。
募集活動中の工夫や取組み例
- インターン等での職場理解
- 面談等での企業と求職者の相互理解
- 企業理念の共有
- 職場見学等を通じた設備面の確認
採用後の工夫や取組み例
- 定期的な面談、フォロー
- 制度の確認や改善
- 必要な設備、機器導入の検討
- 働き方、キャリアプランの相談
求職者側が意識すべき点と転職エージェント活用のススメ
職場の定着率があまり高くない現状において、障がい者採用に積極的な企業では、さまざまな取り組みが行われており、その改善に努めていることが分かります。こうした企業の工夫は、長く働きたい求職者にとって、転職先を探す際に意識すると良いポイントの一つともいえるでしょう。先の「ポイントまとめ」であげた点などを実践している企業では、比較的多くの障がい者が活躍されている傾向にあります。
実際に転職活動を行う際には、選考段階で面談などを通じて採用担当者とどれだけ相互理解を深めることができるか意識してみましょう。必要な配慮や就きたい職種、自身の価値観などを企業と共有し、企業が求めるものや理念とマッチしているか確認することがポイントになります。また、採用後のことについても、人事や先輩社員の方に確認すると良いでしょう。
しかし、面接に臨む中で、こうしたポイントの確認がしづらかったり、おろそかになってしまうこともあると思います。その場合、転職エージェントの利用が、企業とのマッチングをスムーズにし、自身に合った企業との出合いに役立つでしょう。転職エージェントを利用すると、まず、自身の希望や考え方、障がいに対する必要な配慮などをアドバイザーと面談した上で、アドバイザーが自身に合う企業を提案してくれます。そのため、選考が始まる段階から、マッチしている可能性が高い企業と出合うことができます。また、選考が進んでいくにあたって、気になることがでてきた際にも、アドバイザーを通して確認することができるため、疑問や不安な点も解決できる上、面接にも集中して臨めます。求職者と企業の双方をしっかりと理解した上、媒介役として機能してくれる転職エージェントは、より良い転職活動をスムーズに進めてくれるサービスといえそうです。