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障がい者の雇用状況・転職市場の実態
障がい者の雇用数が年々増加傾向にある今日において、厚生労働省は、5年に1度のタイミングで障害者雇用実態調査を行っています。この調査は、主要産業の民営事業所の事業主に対し、雇用している身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者及び発達障がい者の雇用者数、賃金、労働時間、職業、雇用管理上の措置等を産業、事業所規模、障がいの種類、程度、障がい者の年齢、性別を調査し、今後の障がい者の雇用施策の検討及び立案に資することを目的としています。また、調査方法は、厚生労働省から民間事業者を通じて調査対象事業所に対して、調査票を郵送により配布し、郵送又はオンライン又は調査員の訪問により回収する方法で実施しています。
2018年6月に実施された「平成30年度 障害者雇用実態調査」では、常用労働者5人以上を雇用する民営事業所のうち、無作為に抽出した約9200事業所を対象とし、回収数は6181事業所(回収率67.2%)でした。主な調査項目は、障がい別の雇用実態(雇用者数・事業所規模・職業・賃金など)や、障がい者雇用上の課題と配慮、今後の障がい者雇用の方針などです。この調査結果から、障がい者の雇用状況における概要に触れていきます。
「障害者雇用実態調査」を読み解く
「平成30年度 障害者雇用実態調査」の概要について、ここでは障がい内容別に以下の項目に注目します。
(1)賃金(2)職業(3)産業(4)事業所規模(5)雇用形態
身体障がい者の場合を見てみましょう。
- 賃金の状況は、1カ月の平均賃金が21万5000円でした。
- 職業については、事務的職業が32.7%と最も多く、次いで生産工程の職業(20.4%)、専門的・技術的職業(13.4%)の順に多くなりました。
- 産業別にみると、卸売業・小売業で23.1%と最も多く雇用されていました。次いで、製造業19.9%、医療・福祉16.3%となりました。
- 事業所規模別にみると、5~29人規模で37.0%と最も多く、次いで30~99人規模が28.9%、100~499人規模が21.6%、以下1000人以上規模、500~999人規模の順でした。
- 雇用形態では、無期契約の正社員が49.3%、有期契約の正社員が3.2%、無期契約の正社員以外が19.9%、有期契約の正社員以外が27.2%、無回答が0.4%でした。
知的障がい者の場合は以下の通りです。
- 賃金の状況は、1カ月の平均賃金が11万7000円でした。
- 職業別にみると、生産工程の職業が37.8%と最も多く、次いでサービスの職業が22.4%、運搬・清掃・包装等の職業が16.3%の順で多くなっています。
- 産業別にみると、製造業で25.9%と最も多く雇用されおり、次いで、卸売業・小売業23.7%、医療・福祉21.9%となっています。
- 事業所規模別にみると、5~29人規模で45.4%と最も多く、次いで30~99人規模で30.0%、100~499人規模で18.4%、以下500~999人規模、1000人以上規模の順になりました。
- 雇用形態別にみると、無期契約の正社員が18.4%、有期契約の正社員が1.4%、無期契約の正社員以外が40.9%、有期契約の正社員以外が39.1%、無回答が0.2%でした。
精神障がい者の場合は以下の通りです。
- 賃金の状況は、1カ月の平均賃金が12万5000円でした。
- 職業別にみると、サービスの職業が30.6%と最も多く、次いで事務的職業が25.0%、販売の職業が19.2%の順に多くなりました。
- 産業別にみると、卸売業・小売業で53.9%と最も多く雇用されており、次いで、医療・福祉で17.6%、サービス業で9.4%でした。
- 事業所規模別にみると、5~29人規模で70.5%と最も多く、次いで30~99人規模で15.9%、100~499人規模で9.2%、以下500~999人規模、1000人以上規模の順でした。
- 雇用形態別にみると、無期契約の正社員が25.0%、有期契約の正社員が0.5%、無期契約の正社員以外が46.2%、有期契約の正社員以外が28.2%、無回答が0.1%でした。
発達障がい者の場合は以下の通りです。
- 賃金の状況は、1カ月の平均賃金が12万7000円でした。
- 職業別にみると、販売の職業が39.1%と最も多く、次いで事務的職業で29.2%、専門的・技術的職業で12.0%の順に多くなりました。
- 産業別にみると、卸売業・小売業で53.8%と最も多く雇用されており、次いでサービス業が15.3%、医療・福祉11.6%でした。
- 事業所規模別にみると、5~29人規模で58.5%と最も多く、次いで30~99人規模で28.3%、100~499人規模で9.9%、以下1000人以上規模、500~999人規模の順でした。
- 雇用形態別にみると、無期契約の正社員が21.7%、有期契約の正社員が1.0%、無期契約の正社員以外が31.3%、有期契約の正社員以外が45.9%、無回答が0.0%でした。
平均給与が低くなる傾向の要因について
身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者、発達障がい者についての賃金について触れましたが、障がいのない人の給与はいくらなのでしょうか。厚生労働省が発表している「平成30年分民間給与実態統計調査結果について」によると、賞与を除く平均月収はおよそ30万円でした。月収の平均で比べると障がい者採用で入社した方が給与が低い傾向にあることが伺えます。では、その理由を探っていきます。
主な要因に、以下の点が考えられます。まず、勤務時間・給与形態。フルタイム勤務ではなく、非正規雇用や週30時間未満で働く人が多いため、給与形態が月給制ではなく時給制になる場合もあり、月給が下がる要因の一つといえます。次に、事業所の規模です。6割以上(精神障がい者や発達障がい者の場合は8割以上)が常用労働者100人未満の事業所で雇用されています。一概に事業所の規模で給与は測れませんが、傾向として平均給与では、100人未満の事業所は100人以上の事業所より低くなるようです。
転職の目的に合わせて意識すべきことの違い
これまで、障がい者の雇用実態について、賃金や職業、産業、事業所規模、雇用形態などから探ってきましたが、これらの項目は、転職活動において転職先で何を求めるかというポイントにもリンクしてきます。例えば、給与アップが目的なのか、正社員としてキャリアアップをめざすのか、仕事内容を重視するのか、企業規模や業界にこだわりをもつのかなどです。転職の目的や転職先で求めるものに合わせて、転職活動において意識するポイントも異なりますので、それぞれ意識すべき点についてみていきましょう。
職場の環境を重視したい
障がいの程度が重い方や、職場やまわりの方の配慮を必要とする障がい者には、特に、この職場環境を重視したいという方が多いのではないでしょうか。職場環境を見る際には、障がいへの理解が深いなどのソフト面、施設が整っているなどのハード面の両面から確認すると良いでしょう。ソフト面については、面談時に面接官に関連制度や取り組みについて聞いてみたり、これまでの障がい者の採用実績などを確認すると分かりやすいと考えられます。また、ハード面については、入社前に社内を見学させてもらうなどするとイメージしやすいでしょう。
仕事内容・キャリアアップを重視したい
仕事内容やキャリアップを重視したいという方は、特に、これまでの経験の棚卸しを行い、自己分析を徹底し、自身のことについて整理することが大切です。「できること」と「やりたいこと」を明確にしたり、キャリアップを通して何を実現したいのかをはっきりさせておくと、企業とのミスマッチを防ぐことにつながり、面談等でも自身の考えを正確に相手に伝えることができるでしょう。
企業規模や業界を重視したい
企業規模や業界を重視する方は、規模や業界の違いによるそれぞれの企業の特徴を理解することがポイントの一つとなります。そしてその特徴が自身の希望と合っているかを確認してみましょう。例えば、大手企業と呼ばれる規模の大きな会社では、「ネームバリュー」や「社会的信用」があったり、従業員の多様なニーズに応えるため、福利厚生が充実している傾向にあるなどの特徴から、安心して働くことができ、仕事に集中できる環境といえるかもしれません。また、業界については、外資系企業を例にすると、成果主義の評価制度やスピード感ある仕事環境などが特徴の一つとしてあげられるでしょう。
給与や雇用条件の良さを重視したい
転職するにあたり、給与や雇用条件を向上させたいと考える人は多いと思われます。その際には、まず、企業の給与体系を理解しておきましょう。昇給や賞与はあるのか、また、仕事上の役割やスキル、業績によって手当が出るのかなど、自身の強みとマッチングを図りながら確認すると良いでしょう。また、雇用形態についても確認が必要です。障がいのために、地域限定雇用であったり、時短勤務、契約社員で採用される場合もあるでしょう。その際、症状が落ち着いたり、仕事に慣れてきた後で働き方を変えることができるのか、正社員への登用のチャンスがあるのかなどを知っておくと、転職が雇用条件を向上させる機会になり得るか見極めることができるでしょう。
まとめ ~自分の希望に合う企業に入るための5つのポイント~
- 自己分析・企業分析をしっかりと
転職活動において、何を目的とするのか、そして応募する企業でその目的が達成できるのか、このマッチングが重要になります。そのため、自己分析と企業分析をしっかりと行うことがポイントの一つです。自己分析では、転職活動の目的を明確にした上で、キャリアの棚卸しを行い、何ができるのかを整理しましょう。そして、将来的に何をやりたいのか、入社したらどうなるのか、転職先でのイメージを具体的にすることでマッチングしやすくなるでしょう。また、企業分析では、業界や規模、職場環境などを研究するとイメージが湧きやすくなると思われます。 - 転職活動のタイミングと環境
転職のポイントの一つが、転職活動のタイミングです。なるべく在職中に活動すると良いとされています。退職してから転職活動を行うと金銭面や精神面から余裕がなくなり焦ってしまう可能性があるからです。余裕がある状況で活動できることは、希望に合う転職先を見つけるポイントの一つと言えます。 - 求人探しの効率化
求人探しにおいて、業界や職種、雇用条件など希望を絞りすぎてしまい、数少ない求人の中から転職先を探すケースがあります。しかし、多くの求人を確認することもポイントです。多くの求人をみることは、転職の可能性を広げることにつながります。はじめはあまり関心のなかった求人でも、企業研究し、面談などを行うなかで自身に合う企業と出合えたケースも少なくありません。まずは、ハローワークや採用サイトの活用、転職エージェントへの登録等で多くの求人に触れる機会を設けることが重要です。また多くの求人を確認するにあたっては、転職先の希望条件に優先順位を設け、絶対に譲れない条件や、一方で妥協できたり他の条件次第で補える条件などを明確にしておくと効率的に進めることができるでしょう。 - エントリー書類のブラッシュアップ
選考のはじまりは書類審査からという企業が多いことからも、エントリー書類の重要性は言わずもがなでしょう。書類を作成する際には、自身が伝えたいことが分かりやすく相手に伝わっているか、また企業が求めることをくみ取っているかなどを意識すると良いかもしれません。書類作成のノウハウは、採用サイト等にも掲載されていることが多いので、一度確認すると書類の精度も向上するでしょう。一例をあげると、専門用語や略語を使ってしまっていないか、実績だけでなくその際に工夫したことなどまで書けているかといった点があります。 【詳しくはこちらから】 - 選考時の企業側との適切なコミュニケーション
企業とのやりとりも、最終的にはヒト対ヒトになります。そのため、障がいの有無にかかわらずマナーなどに注意しながら、しっかりとコミュケーションがとれるよう意識しましょう。コミュニケーションが不足したまま活動が進んでしまうと、自身の能力以上のことをいきなり任されてしまった、利用できると思っていた制度が実は対象外だったなど、企業とのミスマッチにつながります。そのため、面談等のコミュニケーションがとれる場では、できるだけ疑問や不安に感じる点をなくすよう努めてみましょう。一方で、雇用条件などの交渉や調整などがしづらい場合には、企業との仲介役になってくれる転職エージェントなどのサービスを利用して、転職活動を進めることも有効です。