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障がい者の正社員割合は?雇用実態を知る
厚生労働省の「平成30年度障害者雇用実態調査結果」によると、身体障がい者の雇用形態別の調査で無期契約の正社員の割合は52.5%となっています。同様に知的障がい者が19.8%、精神障がい者が25.5%、発達障がい者が22.7%という結果でした。これらすべての障がい者の正社員雇用の比率は40%弱という厳しい結果になっています。
一方、2021年の総務省の「労働力調査(基本集計)」労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)12月分 (stat.go.jp)によると、2021年12月現在における全労働力中の正社員比率は62.8%になっており、その統計結果と比較すると障がい者の正社員率は20ポイント以上も低いことがわかります。
さらに身体障がい者の週所定労働時間別にみると、通常(30時間以上)がもっとも多くて79.8%、次いで20時間以上30時間未満が16.4%となっています。
正社員で働くことのメリット・デメリットとは
正社員で働くことのメリット
障がい者の正社員の比率が、健常者と比較するとかなり低いことが統計から把握できますが、では、そもそも正社員にはどのようなメリットがあるのかを考えていきます。
まず挙げられるのが報酬面です。一般的にみても正社員は、契約社員やパートなど非正規社員よりも収入が高くなります。その最大の要因はボーナスの有無とその金額にあります。契約社員でもボーナスが支給されるケースがありますが、金額にかなり隔たりがあるようです。
次のメリットは、昇進・昇格があります。キャリアや能力に応じて昇進することで、やりがいの大きな仕事を任されることになり、報酬面も昇進に応じて上がることになります。
また、福利厚生の充実も魅力の1つです。家賃補助などの補助制度や各種手当、健康保険や厚生年金などへの加入など経済的な支援はもちろん、将来の備えという面でも安心できます。同様に、有期契約ではないため、契約が終了するというリスクがありません。安心して働けるという点も大きなメリットといえるでしょう。
正社員で働くことのデメリット
逆にデメリットにはどのような点があるでしょうか。まず、思い浮かぶのが転勤や異動です。遠方地への転勤は、家族と離れたり、生活スタイルも大きく変化する可能性もあるなど不安がつきものです。ただし、障がい者の場合は、配慮事項として転勤・異動が難しいということを事前に伝えておけば一定配慮してもらうことは可能です。
同じように残業も、正社員の場合は比較的多く発生する可能性があります。ただし、こちらも転勤・異動と同じように配慮事項として申請することで、残業の免除も可能なケースが多いです。
また、正社員のメリットで述べた昇進がある代わりに、それに伴う責任も発生します。昇進するに従って大きな責任を負うことになるので、それをプレッシャーとして感じる人がいるかもしれません。
このように正社員になることで、メリットとデメリットの双方が発生しますが、障がい者の場合、事前に配慮事項として伝えることでデメリットを軽減することが可能なので、正社員になるメリットがより大きいといえるでしょう。
企業側のメリット・デメリット
障がい者雇用を推進する企業側のメリットを考える
では、今度は企業側の視点から、障がい者を正社員で雇用するメリットとデメリットを探っていきます。
民間企業(従業員数43.5名以上)には、「障害者雇用促進法」によって定められた障がい者雇用が義務付けられています。現在は、雇用者全体の2.3%以上の障がい者を雇用する法定雇用率が定められていて、これを上回ると、障がい者一人につき月額2万7000円の障害者雇用調整金を受け取ることができます。
さらに、その他にも障がい者を雇用することでさまざまな助成金を受け取ることができます。例えば、障がい者など就職が困難な人をハローワークなどの紹介により雇用保険の一般被保険者として雇用する時に受け取ることができる「特定求職者雇用開発助成金」、障がい者を試行的に雇用する場合や週に20時間以上の勤務が難しい障がい者、または発達障がいのある人と20時間以上の勤務が可能になることをめざして試行雇用を行うことで受け取る「トライアル雇用助成金」などがあります。
その他にも「障害者雇用安定助成金」「人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース)」など複数の助成金制度があり、これらを利用することで経済的なメリットを受けることが可能です。
こうした経済的なメリットのみならず、障がい者を雇用することはダイバーシティ&インクルージョン(※)に対して積極的な企業というイメージアップにもつながります。
※ダイバーシティは「多様性」を表し、インクルージョンには「包括、受容」という意味があります。つまり、ここでは男女、人種、障がいの有無などに関係なく「多様性を認め、受け入れて活かすこと」を表しています。
障がい者雇用を実施しない企業側のデメリットを考える
では、今度は障がい者を雇用しないことで発生するデメリットにはどんな要素があるのかを探っていきます。
まず、法定雇用率を達成していない企業に対しては、障害者雇用納付金を納める義務が発生します。法定雇用障がい者数に不足する障がい者数に応じて1人につき月額5万円の納付金が課せられます。
次に、規定人数に達していない場合はハローワークから行政指導が入ります。さらにハローワークの行政指導が入っても改善されない場合は、企業名が公表されます。公表されることで、その企業の社会貢献度が低いというマイナスのイメージが広く知られるなど企業イメージの低下にもつながります。
【番外】
離職理由から考える“自分に合った仕事”とは
厚生労働省の「障害者雇用の現状等」(平成29年)では、障がい者の継続雇用の課題についての調査結果が発表されています。そこには、障がい者の離職理由と仕事を続ける上で改善等が必要な事項があります。
その結果をみると、離職理由(個人的理由)の上位項目には、「職場の雰囲気・人間関係」「賃金、労働条件に不満」「疲れやすく体力意欲が続かなかった」「病状が悪化した(再発)した」などが挙げられています。
また、仕事を続ける上で改善等が必要な事項としては、「能力に応じた評価、昇進・昇格」「調子が悪いときに休みを取りやすくする」「コミュニケーションを容易にする手段や支援者の配慮」「能力が」発揮できる仕事への配置」「短時間勤務など労働時間の配慮」などが挙がっています。
この結果をみると、障がい者が長く職場に勤めるためには、仕事内容や賃金だけでなく、職場の雰囲気や人間関係を重視した企業選びが重要だと思われます。同様に企業も、コミュニケーションが取りやすい職場づくりや障がい者が体調管理しやすい環境整備に取り組む必要があることがわかります。
障がい者が正社員になるための方法
正社員スタートの求人をめざす場合
ここまで、障がい者も正社員で働くことが収入面や安定性などにおいて多くのメリットがあることがわかりました。では、どのようにすれば正社員になれるのかを探っていきましょう。
まず、初めから正社員をめざすという方法があります。こちらは、企業の総合職、一般職、障がい者枠など、複数の採用枠の中から、自分に適したものを選ぶようにします。勤務条件や仕事内容などと自分の障がい内容を照らし合わせて、もっとも働きやすい採用枠を選びたいところです。
その時に、どんな企業や採用枠を選べばいいのか、さらにはどのように選考過程に臨めばいいのか不安になる人も多いことでしょう。そんな時に利用したいのが障がい者と企業のマッチングを図る障がい者を対象にした就職・転職エージェントです。
「エージェントサーナ」などの就職・転職エージェントでは、多くの企業との繋がりから障がい者の求人情報を多数保有しているため、自分に合った企業を見つけやすくミスマッチを防止できるというメリットがあります。
また、企業選びのポイントから、選考過程における提出書類の書き方や添削、何よりも重要になる面接での障がい内容の適切な伝え方や自己アピールのポイントなどをアドバイス、さらには面接のセッティングまでコーディネートしてくれます。こうした一人ひとりに寄り添いながら適切なアドバイスやアフターケアをしてくれるので、安心して就職活動に臨めます。
非正規社員としてスタートし、後から正社員登用をめざす場合
また、初めは契約社員やパートからスタートして、その後社員への登用を目指すという方法もあります。この方法で重要なのは、「正社員への登用」が制度としてあることを必ず確認するということです。
同時に、実際に契約社員などから正社員へ登用された実績があるのかも調べておきましょう。
その場合、正社員になるための条件も必ずチェックしたい点です。たとえば、どんな勤務形態になるのか、業務内容は変わるのかなどを事前に確認しましょう。
そのうえで、どんなスキルや知識が必要になるのかを調べて、その難易度も把握したいところです。もちろん、必要とされるスキルを身につけることが実現可能かどうかも検討したうえで応募したいところです。
当然、正社員になることで、長く働く職場になりますから、自分なりのキャリアプランを考えたり、周りと円滑なコミュニケーションを図るための努力も大切になります。
まとめ
ここまで、障がい者の正社員雇用の実情から、正社員になるための方法までを取り上げてきました。現在、ダイバーシティ&インクルージョンの推進に取り組み、その一環として障がい者採用にも積極的な企業は増えています。こうした企業のニーズを逃すことなく、自分のしたいことや志向性を振り返りながら就職活動をすれば、きっと自分に合ったマッチした企業をみつかるはずです。