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平均年数は長くても転職意欲は高い傾向にある日本
少子高齢化による人手不足、法定雇用率の引き上げ、ダイバーシティへの理解浸透と企業による取り組みの活発化など、さまざまな要因を背景に、障がい者が働く環境下でも、雇用の流動化は促進されつつあります。外資系や情報通信系などでは中途採用も新卒採用と同様に重視され、特に若い人を中心に、数回の転職は、日本でも多くみられるようになってきました。
とはいえ、能力・業績重視による昇進・昇格制度などの新しい仕組みを浸透させる企業が増える一方で、年功序列や終身雇用、新卒一括など旧来の制度で動いている企業は依然として多く、日本における雇用の流動化はまだまだ道半ばだとの見方があるのも事実です。
厚生労働省の調査(「平成27年転職者実態調査の概況」)では、障がいの有無に限らず、転職者の直前の勤め先での通算勤務時間は、2年以上5年未満が27.1%と最も高く、次いで5年以上10年未満が18.6%、続いて10年以上が18.0%となっています(2015年10月1日現在、有効回答数6090人)。 一方、障がい者の平均勤続年数は、障がいの内容によって差がありますが、身体障がい者(推計値43万3千人)は10年、知的障がい者(同15万人)は7年9カ月、精神障がい者(同4万8千人)は4年3カ月となっております。
障がい者の転職経験の有無は、身体障がい者(回答者数7,507人)が56.0%と高く、平均転職回数は2.2回。知的障がい者(同1,620人)では24.6%、精神障がい者(同552人)では37.0%の人が、転職経験があると回答しました。
障がい者全体では「今の職場で今後も働きたい」人が55.9%を占めますが、「機会があれば転職したい」という人も17.7%に上り、働き盛りの20代から40代では、いずれの年代でも平均値を上回りました。特に20代後半で22.0%、続いて20代前半(19.8%)、30代前半(19.6%)でも高い傾向が見られました。
障がい者の転職理由 賃金・労働条件や仕事の内容、職場の雰囲気・人間関係など
それでは、障がい者は、どのような理由で転職しているのでしょうか。転職理由として、身体障がい者では「賃金・労働条件」(32.0%)を挙げた人が最も多く、次いで「職場の雰囲気・人間関係」(29.4%)「仕事内容が合わない」(24.8%)「会社の配慮が不十分」(20.5%)といった理由を挙げた人が、障がいや育児・介護などの家庭の事情を理由にした人より多くなっています。
「職場で改善が必要な事項」(1人2つまで回答)として、知的障がい者は「能力に応じた評価、昇進・昇格」(28.0%)や「調子の悪いときに休みを取りやすくする」(19.6%)「能力が発揮できる仕事への配置」(17.5%)などを挙げる人が多く、精神障がい者は、「職場での人間関係」(33.8%)「賃金、労働条件に不満」(29.7%)「疲れやすく体力、意欲が続かなかった」「仕事内容が合わない(自分に向かない)」(いずれも28.4%)が多くなっています。
転職経験が多いケース 未来への視点と成長につながったことをわかりやすく説明しよう
障がい者の転職のハードルは下がりつつあるとはいえ、何度も転職の経験がある人は、企業から「長く働いてもらえないのでは」「また転職してしまうのでは」と懸念されるリスクもあります。そのような場合は、どうアピールするべきか、考えていきましょう。
まず、過去の転職は、自分勝手な不満からではなく、客観的に振り返っても、必要に応じて行ったことであると、具体的に説明できるようにしておくことが大切です。単なる待遇や制度の不満で終わらせるのではなく、「こういう内容の仕事や働きをしていたので、もっとキャリアアップしたい」「将来はこのような仕事をして能力を発揮していきたいので、それができる職場を探している」と、先の見通しにつなげるような説明が有効でしょう。
また、それぞれの職場で学んだり身につけたりした知識やスキル、自分自身にプラスとなった経験をきちんと伝えることで、「この応募者はそれぞれの職場でも精いっぱい仕事をしている」「経験を無駄にせず、自身の成長につなげている」「職場の環境に左右されるよりも、主体的に仕事をしている」と、応募先の採用担当者に好印象を残すことが可能になります。
たとえ人間関係につまずいても、「私は前向きにこうしてきた」「次はこうしていきたい」と、他責的な説明よりも、主体的な発信を心がけましょう。説明の印象はぐっと改善します。
他人や職場に責任をなすりつけず、自らの意志や考えで仕事に向き合えるか、他者との円滑なコミュニケーションを図ろう、仕事をスムーズに進めようという主体的な行動ができるか、転職回数や障がいの内容にかかわらず、転職試験で評価される軸を自分なりに、ぶれずに伝えられるよう、しっかりと準備しましょう。
長期的なキャリアを考える 主体的に動いて、次世代への労働環境開拓を
転職活動において、迷ったり悩んだりしたら、同じ障がいのある先輩や同僚、あるいは、障がいの有無にかかわらず、同じ職場や職種で活躍する業界の先輩に相談してみることも役立つでしょう。先輩の状況や考え方に学びながら、「同じように自分もやってみたい」と思うこともあれば、「自分はこうしていきたい」と違う道筋が見えてくることもあるかもしれません。
困ったときほど、その状況を素直に周囲に打ち明けられるか、相談できる人が身近にいるかが、自分らしく自身の能力を活用して働き続けられるかを左右することになります。壁にぶつかったときに、安易な理由からすぐに転職や退職を選ぶのではなく、最も適切なキャリア開拓をしたと実感できる働き方をするためにも、長期的な視点で自身のキャリアをよく考えて、決断・行動していくことが大切です。