「障害者手帳」の最新事情と活用方法
障がいがあることを証明したり、各種割引等を受けたりするうえで必要な障害者手帳にも、その使われ方や適用サービス等に変化があるのをご存じでしょうか。自身の状況やニーズに合わせて、正しく便利に使いたい障害者手帳。今回は、2019年4月に解禁された「障害者手帳のカード化」と、手帳の保有により受けられる割引サービスの一覧に関して触れますので、ぜひチェックしてみてください。
2019年4月から始まった障害者手帳の「カード化」
まずは障害者手帳の形態に関して。紙製だったこれまでの手帳に、「破れやすい」「劣化しやすい」「外出先で取り出す際などに手間を取る」といった不便さを感じる人が一定数いることなどを受け、厚生労働省は2019年4月に、カード型の障害者手帳の交付を認めました。
また、手帳代わりに使うことのできるスマートフォンのアプリも登場。持ち運びやすさを向上させることで、当事者の外出を後押しする狙いもあるようです。知的障がい者が取得できる「療育手帳」は以前からカード型が認められていましたが、今回の発表によって「身体障害者手帳」、「精神障害者保健福祉手帳」においてもカード型が認められた格好になりました。
厚生労働省より交付が認められた、身体障害者手帳と精神障害者保健福祉手帳ですが、カード化は義務ではありません。個々の自治体において、導入を検討することができ、その上で当事者自身も、本人や家族が希望すれば、紙製の手帳をこれまで通り使い続けていくことが可能です。このことから、厚生労働省では、「発行主体となる自治体は、カード化に向けた検討を積極的に行って欲しい」といった対応の呼びかけを行いました。
その中、2020年3月30日に大阪府箕面市において、導入が発表されました。実際にカード化されるのは10月からで、全国初となります。手帳の利便性改善が見込まれるカード化において、実施が決定している自治体が1カ所にとどまっている背景の一つには、費用の負担が大きいことにあるようです。「カード型手帳の発行に伴うシステム改修費は莫大になる可能性が高く、国の支援が必要」との意見もあがっています。
すでにカード型が認めれている療育手帳における導入においても、2019年11月1日時点で山口県のみ(2015年度から導入)で、導入には一定の壁があると考えられます。カード型は、利便性が向上する一方で、住所や障がいの状態が変わった場合、追記できる紙の手帳と違って再発行が必要になるのも利用上の懸念点の一つと言えるかもしれません。ただ、それでも山口県においては、約4割の人がカード型を選んでおり、導入した際にはカード型を選ぶ方が多くいることも注目すべき点です。
■カードタイプの障害者手帳とは
障害者手帳の現状について述べてきましたが、カード型の手帳の詳細について紹介します。大きさは免許証やマイナンバーカードと同じで、形状はプラスチック製になります。また、カードに記載される内容は以下の通りです。
- 氏名
- 住所
- 生年月日
- 障がい等級
- 手帳番号
- 交付年月日
- 有効期限
- 写真
以下の内容は身体障害者手帳のみ記載 - 保護者名(15歳未満の児童)
- 続柄(15歳未満の児童)
- 保護者住所(15歳未満の児童)
- 障がい名
- 旅客鉄道運賃減額種別
■カード化のメリットとデメリット
手帳のカード化によって、その耐久性や持ち運びやすさの向上が考えられますが、その他にはどのようなメリットがあるのか、みていきましょう。
- 様式が統一されることで、手帳自体の認知度が高まる
- 偽造しづらいことから、本人確認書類としても有効性が高まる
- 障がいの詳細が記載されないため手帳保持者のプライバシーが配慮される
- 濡れや破れ等への耐久性に優れる
- 免許証と同じサイズになり、持ち運びがしやすくなる
2018年中から検討・議論が重ねられていたこのカード化ですが、財布やパスケースへ入れることができるようになったことの利便性の向上や、手帳の認知度が広がり、本人書類としての有効性が高まることでのトラブル防止など、さまざまメリットが見込まれるといえそうです。
一方で、まだまだ改善の余地があるのも事実なようで、多くの意見があがっているのは、主に2点、「ICチップの搭載がない」「カード化の導入・発行は都道府県による」ことです。
カード化によって、扱いやすくなった一方で、ただカードになっただけとの意見もあり、つまり、ICチップが搭載されていないことで、公共機関の割引制度などの利用の際のカードを提示する手間や利用しやすさなどは軽減されたとはいえない現状があるようです。また、カード化の交付は認められたものの、実際に導入するかは都道府県次第であるため、カード型療育手帳と同様、なかなかカード型手帳の導入が進まないという状況も考えられます。
その中、現在注目されているのが、スマホアプリの登場です。施設のバリアフリー化などを手がけるコンサルティング会社「ミライロ」(大阪市)が、スマートフォン用アプリ「ミライロID」を開発し、7月から提供を始めました。利用者が手帳を撮影すると、その画像から内容を読み取り電子化する仕組み。このアプリにより、スマートフォンを提示することで、鉄道運賃や航空券の割引サービスが受けられることになります。スマートフォンであれば、日ごろから携帯している方が多く、また、周りの視線も気にならないなど、心理面での利点もあるようです。サッカーJリーグのガンバ大阪では、東京五輪・パラリンピックの開催に向けて、障がいのある人が観戦しやすくしようと、本拠地での試合で同アプリでの割引を始めています。協力企業は2019年11月1日時点で、ガンバ大阪と西武鉄道、日本航空、全日本空輸、カラオケ店「ビッグエコー」を展開する第一興商を含む計12社に及ぶなど、今後の動向が注目されます。
「障がい者割引」とは
形態や利用方法など、その動向が注目される昨今の障害者手帳ですが、形態の違いにかかわらず、手帳を取得していることで受けられる福祉サービスがあります。医療費の助成や補装具の購入・修理にかかる費用の負担軽減など内容はさまざまで、障がいのある方がより日常生活を送りやすいようにすることを目的としています。ここでは、どのような福祉サービスがあるのか、より具体的にみていきましょう。ただし、障がい内容によって受けられるサービスが異なる場合がありますので、詳細は各HPや問い合わせ先より確認してみてください。
まず、交通機関における運賃の割引があります。
- JRや新幹線などの鉄道
- 路線バスや高速バスなどのバス
- 有料道路
- 飛行機(複数の航空会社にて障がい者割引を行っています)
- タクシー(自治体によって配布されている福祉タクシー券もあります)
- 船、フェリー など
次に、商業施設の割引です。
- 映画館
- 美術館
- 水族館 など
ホテルや旅館などでは、障がい者割引の代わりにバリアフリールームやユニバーサルルームの設置を行っていることが多い傾向にあるようです。その他には、自動車税や国営放送の受信料の減免、携帯電話料金の割引などがあるようです。
これらの福祉サービスによって、障がいのある方の生活における経済的負担の軽減や社会参加が促進されることが期待されます。
■具体的な割引内容
先にあげたさまざまな障がい者割引ですが、それぞれ、具体的にはどれほどの割引がされるのでしょうか。一例を紹介していきます。(※詳細は各HPや問い合わせ先より確認してみてください。)
- JR東日本
身体障がい者および知的障がい者における第一種障がい者とその介護者につき、普通回数券、回数乗車券、普通急行券が、50%が割引されます。
※詳しくはこちら⇒JR東日本「お身体の不自由なお客様へ」 - 都営バス
身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者とその介護者を対象に、普通運賃が50%割引、定期運賃が30%割引されます。
※詳しくはこちら⇒都営バス「障害者の割引」
転職活動における「障害者手帳」
福祉サービスをはじめとした生活に役立つ点や、今回のカード化に伴う利便性の向上など、障害者手帳が便良く使用できるようになっている今日ですが、転職活動における手帳の役割について知っておくことも大切です。
転職活動における手帳の役割について、まず知っておく必要があること、それは、手帳の有無によって、活動内容は大きく変わらないということです。障がいのある方の中には、活動するにあたって、手帳の取得が必須、または、手帳を取得した際には、選考時にそのことを必ず伝える必要があると思っている方もいるかもしれません。しかし、そのようなことはありません。障害者手帳を取得することも、手帳をつかって転職活動するかどうか決めるのも本人の自由です。
そのうえで、手帳を取得・提示することの役割を考えると、自分のことを企業に理解してもらうことといえそうです。障がいがあることをはじめ、障がいから苦手なことや必要な配慮を知ってもらうきっかけになります。
だからこそ、しっかりと自身のことを知ってもらえるような障がいの伝え方や書類の書き方などを知っておきたいと考える方が多いのではないでしょうか。そのような想いを抱える方は、転職エージェントを利用してみてはいかがでしょうか。特に、エージェント・サーナでは、障がい者雇用に長くかかわってきた豊富な経験と実績があり、また、アドバイザーによる親身なサポートがあるため安心して活動することができます。