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聴覚障がいの種類、等級に関して
障がい内容の違いはもちろんのこと、同じ障がいの場合でも等級などによって、必要な配慮や状況は異なるため、転職活動時に留意すべき点もそれぞれ違ってきます。
2019年6月1日時点での従業員数45.5人以上の企業における雇用障がい者数は56万608.5人と過去最高を更新しており、ますます、障がい者の活躍の機会が拡大していることが伺えます。では、障がい内容ごとにみてみるとどうなのでしょうか。2018年6月に実施した「平成30年度障害者雇用実態調査」の結果によると、従業員規模5人以上の事業所に雇用されている障がい者の数は、82万1000人。中でも、最も人数が多かったのが身体障がい者で42万3000人、次いで精神障がい者が20万人、知的障がい者が18万9000人、発達障がい者が3万9000人でした。最も多かった身体障がいにおいて、その内容を分類すると、肢体不自由が42.0%、内部障がいが28.1%、聴覚言語障がいが11.5%、視覚障がいが4.5%となっています。ここでは、聴覚障がいについて詳しくみていき、活動時に注意すべき点などを確認します。
難聴の種類、程度の違い
まず聴覚障がいとは、音が聞こえない、または聞こえにくい状態をいいます。ただ、その原因や種類、状況はさまざまで、生まれつき、ないし幼少時に失聴した場合と、ある程度成長したあと後天的に失聴した場合においても対応は異なります。また、外見からその障がいの状況が判断しにくい面もあるため、周囲の方の障がいへの理解もポイントの一つといえそうです。では、難聴の種類や程度による聞こえ方の違いについてみてみましょう。
どれほどの大きさの音が聞こえているかを示すのが聴力であり、単位は「デシベル(dB)」を使います。身体障害者手帳における等級の基準になるのも聴力です。
具体的には、「軽度難聴」は小さな声が聞きづらい状況で、25~39デシベルをいいます(鉛筆での執筆音が30デシベル)。
「中等度難聴」は普通の会話が聞きづらい状況で40~69デシベル(普通の会話、走行中の自動車内が60デシベル)。
「高度難聴」は普通の会話が聞きとれない状況で70~89デシベル(直近でのセミの鳴き声が70デシベル)。
「重度難聴」は耳元で話されても聞き取れない状況で90デシベル以上(地下鉄の構内が100デシベル)です。
また、聴覚障がいは障がいのある部位、原因によって大きく3つの種類に分けられています。
- 鼓膜などの音を聞き取る器官(外耳から中耳)に障がいがある「伝音性難聴」:音の振動を感じる部分に障がいがあり、音が聞き取りづらい症状。一方で、情報は正しく脳に伝わり、理解できるため、補聴器や人工内耳をつけることで聞き取りやすくなるようです。
- 聞き取った音を脳に伝える聴覚神経(内耳から聴覚神経)に障がいがある「感音性難聴」:音を情報として脳に伝える神経に障がいがあり、言葉が聞き取りづらい症状。補聴器などをつけても、音を感じるだけで、識別し言葉を理解することが難しい場合が多いようです。
- 伝音難聴と感音難聴とが混在した「混合性難聴」
聴覚障がい者の等級
障害者手帳での等級ではどのような基準が設けられているのでしょうか。まとめると以下のようになります。
【2級】両耳の聴力レベルがそれぞれ100デシベル以上のもの(両耳全ろう)
【3級】両耳の聴力レベルが90デシベル以上のもの(耳介に接しなければ大声語を理解し得ないもの)
【4級】
1:両耳の聴力レベルが80デシベル以上のもの(耳介に接しなければ話声語を理解し得ないもの)
2:両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50パーセント以下のもの
【6級】
1:両耳の聴力レベルが70デシベル以上のもの(40センチメートル以上の距離で発声された会話語が理解し得ないもの)
2:一側耳の聴力レベルが90デシベル以上、他側耳の聴力レベルが50デシベル以上のもの
聴覚障がい者の就職・就業実態に関して
聴覚障がいの内容について詳しく紹介しましたが、一言で聴覚障がいといっても、その種類や等級による聞こえ方の違いなど、状況はさまざまだということが分かります。では、聴覚に障がいのある方は就職活動において、何に気をつける必要があり、また就職状況はどのような実態なのでしょうか。
人数や雇用状況の動向
厚生労働省が発表している「平成29年 障害者雇用状況の集計結果」における、「障害の種類別にみた就業の状況」では、聴覚障がい者の具体的な就職状況が紹介されています。まず、就業している人の構成は以下の通りでした。聴覚・言語障がい者42万人のうち、就業者が8万7000人、不就業者は30万4000人(回答なし2900人)。そのうち、生産年齢にあたる15歳から65歳までの人数は、約3割の11万8000人です。
また、聴覚・言語障がいで就業している方の仕事内容については、次のような結果がでています。最も多かったのが、「生産工程・労務(21.8%)」(※「その他」「回答なし」を除く)。次いで、「専門的・技術的職業(16.1%)」、「事務(14.9%)」、「農林・林業・漁業(6.9%)」、「サービス職業(5.8%)」、「販売(3.4%)」、「管理的職業(2.3%)」でした。サービスや販売などの接客が伴う内容の仕事が比較的に少ない傾向にあるようです。
職業別の就職状況からみる仕事内容の特徴
上記の「障害者雇用状況の集計結果」のデータから、聴覚障がい者の仕事内容として、接客を伴う仕事が比較的少ない状況が分かりました。その理由の一つには、聴覚に障がいがあることでコミュニケーションに難しさを感じる点があることがうかがえます。一方で、聴覚障がい者が多く従事している仕事においてはどのような特徴があるのでしょうか。
傾向の一つとして、パソコンを多く使用する業務が多いようです。接客や電話対応の必要がない仕事という点が特徴といえるかもしれません。ですが、社内での筆談対応やUDトークの使用、電話対応の配慮があれば、障がいの有無にかかわらず活躍できるフィールドが幅広く、障がいの状況や企業の対応可能な配慮によって、さまざまな仕事に従事している状況もわかります。
聴覚障がい者が転職活動時に気をつけるべきこと、ポイントに関して
聴覚障がいの内容は人によってさまざまであり、また、従事している仕事に関しても一定の傾向はあるものの、配慮や障がいの状況によって幅広いフィールドがありました。では、自身に合った企業への就職をめざす上で、転職活動時にどのようなことに注意すべきなのかみてみましょう。
仕事探しのポイント
仕事を探す上では、事前の職場見学が一つのポイントになるでしょう。聴覚などの障がい内容や障がいの有無にかかわらず言えることですが、求人票やインターネット、企業HPなどの状況から分かる情報には限りがあり、働きやすい環境かどうかを判断するのは難しい場合があります。特に、障がいがある際は、職場の理解や企業が対応できる障がいの配慮、社内設備など、事前に社内確認することで不安要素を解消できる場合が多いようです。
職場見学の他に、同じ障がいのある先輩社員への訪問・面談も自身とマッチした職場探しの有効な手段になります。実際に働いているからこそ分かる職場の雰囲気や障がいへの理解、配慮などリアルな想いを聞くことができます。また、どのように自身の障がいを企業に伝えたのか、企業からの配慮を得る際に大変だったことはあるかなど、活動において不安なことや、就職・転職活動においてのアドバイスをもらうことも良いでしょう。
面接など選考過程でのポイント
ポイントを押さえた上で企業選びを進めたら、選考の場で留意する点を確認しておきましょう。ただし、障がい内容や障がいの有無にかかわらず、選考過程における大事なポイントは共通しています。まず、自己分析を行い、自身の障がいについて、また、やりたいことなどをしっかりと把握することです。その上で面談の場では、自身にできること、貢献したいこと、必要なサポートなどを伝えます。また、面談に際しては、事前にどれくらいのコミュニケーションが可能なのかを伝えたり、必要によっては筆談での面談が可能かなどを確認しておくと良いでしょう。自身に合った企業なのかを知るためにも、企業とコミュニケーションがとれる面談は大切な場といえます。
転職エージェント利用のススメ
企業選びや選考の場面でのポイントに注意しながら、ようやく就職できたとしても「思っていた環境と違った」「長く働けるか不安」という状況が発生してしまうこともあるようです。たとえば、自身の障がいが正しく理解されていない、ないし部署で共有されていないために、遂行・継続が困難な業務を任されてしまった。また、上司の方は障がいへの理解が深かったが、会社レベルでは障がいに対する理解が進んでいなかったため、上司や部署が変わった際に働きづらさを感じるようになったなどです。
転職活動では、自身を客観的にみて自己分析することが大切ですが、一人で活動していると、どうしても主観的になってしまったり、企業を正しく理解することが難しいことがあり、企業とのマッチングは容易とはいえない面があります。
その点、キャリアアドバイザーが活動中に伴走してくれる転職エージェントは、企業とのマッチングを図る上で有効といえます。求職者と企業との間に入り、お互いの理解を深めたり、事前の調整を行ってくれるため、より客観的に自身のことも企業のこともみることができ、自身に合う企業を見極める一助となるでしょう。