「障害者雇用納付金制度」が誕生した背景は?
「障害者の雇用の促進等に関する法律」では、「障害者雇用率制度」が設けられています。この制度によって事業主は、常時雇用している労働者数に対してある一定の障がい者を雇用しなければなりません。それが法定雇用率と呼ばれるものです。2020年3月現在は、民間企業が2.2%、国や地方公共団体が2.5%、都道府県の教育委員会が2.4%と定められています。
では、何故、このような制度が生まれたのでしょうか? まず障がい者を雇用するには、障がい者が働きやすいように作業施設や設備の改善、さらには特別の雇用管理などが必要になります。つまり、障がい者を雇用することは、障がいのない人の雇用に比べて一定の経済的負担が伴うこともあるので、「障害者雇用率制度」に基づく雇用義務を守っている企業とそうでない企業では、経済的負担のアンバランスが生じてしまいます。
そこで障がい者の雇用に関する事業主の社会的連帯責任の円滑な実現を図るという観点から、この経済的な負担を調整するとともに、障がい者の雇用の促進等を図るため、事業主の共同拠出による「障害者雇用納付金制度」が設けられています。この制度に則って、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が、事業主から「障害者雇用納付金」を徴収するとともに、その納付金を財源として「障害者雇用調整金」「報奨金」「在宅就業障害者特例調整金」「在宅就業障害者特定報奨金及び各種助成金」の支給を行っています。
「障害者雇用納付金制度」の仕組みを知る
では具体的に障害者雇用納付金制度はどのような仕組みになっているのでしょうか? まず、常時雇用している労働者数が100人を超える法定雇用率未達成の事業主は、法定雇用障がい者数に不足する障がい者数に応じて1人につき月額5万円の「障害者雇用納付金」を納付しなければなりません。
そして、常時雇用している労働者数が100人を超える事業主で法定雇用率以上の障がい者を雇用している場合は、法定雇用率を超えて雇用している障がい者数に応じて1人につき月額2万7000円の「障害者雇用調整金」が支給されます。
常時雇用している労働者数が100人以下の事業主で、各月の雇用障がい者数の年度間合計数が一定数(各月の常時雇用している労働者数の4%の年度間合計数または72人のいずれか多い数)を超えて障がい者を雇用している場合は、その一定数を超えて雇用している障がい者の人数に2万1000円を乗じて得た額の報奨金が支給されます。
さらに「在宅就業障害者特例調整金」もあります。こちらは「障害者雇用調整金申請事業主」であって前年度に在宅就業障がい者または在宅就業支援団体に対して仕事を発注し、業務の対価を支払った場合、「調整額(2万1000円)」に「事業主が当該年度に支払った在宅就業障がい者への支払い総額を評価額(35万円)で除して得た数」を乗じて得た額の「在宅就業障害者特例調整金」が支給されます。
なお、法定雇用率未達成企業については、「在宅就業障害者特例調整金」の額に応じて「障害者雇用納付金」が減額されます。
同様に「在宅就業障害者特例報奨金」の支給もあります。こちらは「報奨金申請事業主」であって、前年度に在宅就業障がい者または在宅就業支援団体に対して仕事を発注し、業務の対価を支払った場合、「報奨額(1万7000円)」に、「事業主が当該年度に支払った在宅就業障がい者への支払い総額を評価額(35万円)で除して得た数」を乗じて得た額の「在宅就業障害者特例報奨金」が支給されます。
障害者雇用納付金制度によって生まれるメリットとは?
この「障害者雇用納付金制度」によって障がい者雇用に積極的な事業主に対して、「障害者雇用調整金」などが支給されるので、それを障がい者雇用のために必要な作業施設や設備の改善などに充てることができるというメリットが生まれます。法定雇用率を達成し続けることで、障がい者を受け入れる環境整備が進むことになります。
一方、求職者にとっても、「障害者雇用納付金制度」によって、企業などの受け入れ態勢や職場環境が整い、働きやすくなるというメリットがあります。
ただし、法定雇用率を達成している企業は、およそ半数というのが現状です。2019年12月に厚生労働省が発表した「障害者雇用状況の集計結果」によると、2019年6月1日時点の障がい者雇用状況は、民間企業の実雇用率が2.11%、法定雇用率達成企業の割合が、48.0%でした。今後は実雇用率の向上や法定雇用率達成企業の増加が課題といえるでしょう。