
身体障害者手帳1級は、身体上に重度の障がいを持つ方に交付される手帳です。手帳の交付を受けることによって、日常生活や就業においてさまざまな公的支援や福祉サービスを受けられるようになります。
一方で、身体的な機能の制限や体調の問題などから「一般企業で働くことが難しい」と感じる方も少なくありません。自身の障がい特性を踏まえたうえで自分らしい働き方を選ぶことで、社会参加やキャリア形成の道が広がります。
この記事では、身体障害者手帳1級の判定基準をはじめ、利用できる公的支援・サービスの内容、仕事に関して抱えやすい悩み、就職・転職活動のポイントについて紹介します。
目次
身体障害者手帳の等級
身体障害者手帳は、身体障害者福祉法に基づいて、特定の障がいに該当する人に交付される手帳のことです。身体上に一定以上の障がいが永続することが要件とされており、障がいの種類や程度によって重度の1級から7級の等級が定められています。
▼身体障がいの種類別の等級区分
| 障がいの種類 | 1級 | 2級 | 3級 | 4級 | 5級 | 6級 | 7級 | ||
| 1 | 視覚障がい | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | – | |
| 2 | 聴覚・平衡機能の障がい | 聴覚障がい | – | ○ | ○ | ○ | – | ○ | – |
| 平衡機能障がい | – | – | ○ | – | ○ | – | – | ||
| 3 | 音声・言語・そしゃく機能の障がい | – | – | ○ | ○ | – | – | – | |
| 4 | 肢体不自由 | 上肢 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 下肢 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
| 体幹 | ○ | ○ | ○ | – | ○ | – | – | ||
| 脳原性運動機能障がい | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
| 5 | 内部障がい | 心臓機能障がい | ○ | – | ○ | ○ | – | – | – |
| じん臓機能障がい | ○ | – | ○ | ○ | – | – | – | ||
| 呼吸器機能障がい | ○ | – | ○ | ○ | – | – | – | ||
| ぼうこう・直腸機能障がい | ○ | – | ○ | ○ | – | – | – | ||
| 小腸機能障がい | ○ | – | ○ | ○ | – | – | – | ||
| HIVによる免疫機能障がい | ○ | ○ | ○ | ○ | – | – | – | ||
| 肝臓機能障がい | ○ | ○ | ○ | ○ | – | – | – | ||
身体障がいは全部で15種類あり、それぞれ等級の区分が異なります。このうち手帳の交付対象は1級から6級までとなり、7級は対象外になります。
出典:厚生労働省『身体障害者手帳制度の概要』『身体障害者障害程度等級表』
身体障害者手帳1級の判定基準
身体障害者手帳1級は、もっとも重度の障がいを持つ方に認定され、自立した生活が困難な状態や日常生活活動が極度に制限される状態に該当します。
具体的な等級の判定基準は、障がいの種類や箇所によって定められています。
➀視覚障がい1級
視覚障がいは、両眼の視力や視野の具体的な数値基準によって等級が判定されます。
1級については「万国式試視力表(※)」と呼ばれる検査表を用いて、それぞれの眼の視力の測定結果を等級の換算表に当てはめて判定が行われます。
▼視覚障がい1級
| 視力の良い方の眼の視力が0.01以下のもの |
視力0.01とは、50cm先の視標がかろうじて見える状態を指しており、文字の識別ができなかったり、人の顔の輪郭がぼやけたりします。日常生活や就労において大きな支障が生じると考えられます。
※円の中に切れ目がある環(ランドルト環)や数字を使用した視標を基に視力を測定する表
②肢体不自由1級
肢体不自由は、上肢・下肢の欠損や機能の程度によって判定されます。
▼肢体不自由1級
| 障がいの内容 | 判定 | |
| 上肢 |
|
|
| 下肢 |
|
|
| 体幹 | 体幹の機能障がいにより座っていることができないもの | |
| 乳幼児期以前の非進行性の脳病変による運動機能障がい | 上肢機能 | 不随意運動・失調等により上肢を使用する日常生活動作がほとんど不可能なもの |
| 移動機能 | 不随意運動・失調等により歩行が不可能なもの | |
両上肢の機能の「全廃」は、肩関節・肘関節・手関節・手指のすべての機能が失われている状態を指します。両下肢の機能の「全廃」は、下肢の支持性と運動性を失い、立っていることや歩くことができない状態を指します。これらの等級の判定については、関節可動域や筋力テスト、動作・活動の自立度などから総合的に評価されます。
1級に該当する方は、歩行や日常生活動作が難しいことから、身体機能を補助する用具や他人の介助が必要になります。
③内部障がい1級
身体障害者手帳の対象となる内部障がいは7種類あります。
1級の判定基準は、その障がいによって「身の回りの日常生活活動が極度に制限されるもの」または「日常生活活動がほとんど不可能なもの」とされています。
以下では、具体的な判定基準を解説します。
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心臓機能障がい
心臓機能障がいは、心電図の所見や活動能力、ペースメーカーや除細動器の植え込みなどを踏まえて等級の判定が行われます。
1級の障がい(18歳以上)は、次のいずれかに該当するものを指します。
▼心臓機能障がい1級
|
1級に該当する人は、安静時や身の回りの生活動作でも症状が現れたり、ペースメーカを装着していたりするため、重労働や強い磁場が発生する場所は避ける必要があります。
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腎臓機能障がい
腎臓機能障がいは、腎臓機検査の結果や所見の有無、人工透析の要否、身の回りの日常生活活動の制限などによって判断されます。
▼腎臓機能障がい1級
| じん臓機能検査において内因性クレアチニンクリアランス値が10ml/分未満、または血清クレアチニン濃度が8.0mg/dl以上であって、かつ自己の身辺の日常生活活動が著しく制限される、または血液浄化を目的とした治療を必要とするもの、若しくは極めて近い将来に治療が必要となるもの |
1級に該当する方は、安静時にも腎不全症状を引き起こす可能性があり、社会活動を行うにあたっては人工透析が必要とされます。
人工透析を受ける方は、週3回・5時間程度の通院(血液透析の場合)が必要になるほか、体力の低下が起きる場合もあるため、就業時には配慮が求められます。
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呼吸器機能障がい
呼吸器機能障がいは、予測肺活量1秒率(指数)や動脈血ガス、医師の臨床所見を総合的に評価して判定が行われます。
▼呼吸器機能障がい1級
|
1級に該当する方は、立ち姿勢での作業や移動などが難しいほか、人工呼吸器の装着が必要になる場合もあるため、就労においては基本的にデスクワークに制限されます。
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ぼうこう又は直腸の機能障がい
ぼうこう又は直腸の機能障がいは、人工肛門や人工膀胱(ストマ)の有無、排便・排尿処理の機能障がいの程度など、複数の組み合わせによって判定されます。
1級の障がいは、以下のいずれかに該当しており、かつ身の回りの日常生活活動が極度に制限されるものを指します。
▼ぼうこう又は直腸の機能障がい1級
|
1級に該当する方は、就労が困難または不可能に近い状態とされており、社会活動については医師の指示に基づいた判断が求められます。
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小腸機能障がい
小腸機能障がいは、小腸の残存長さや機能、中心静脈栄養法(カテーテルによる栄養輸液の投与)の必要性などによって障がいの程度が評価されます。
▼小腸機能障がい1級
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1級に該当する方は、常時栄養輸液の投与を受けるか、携帯型精密輸液システムを併用することになります。携帯型精密輸液システムを使用した場合には、外出先・勤務先でも投与が可能になるため、社会活動の自由度は高くなります。
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障がい
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障がいは、HIV検査の結果が陽性で、臨床症状や検査所見の項目数、日常生活活動の制限などを基に等級が判定されます。
1級の障がいは、次のいずれかに該当するものを指します。
▼HIVによる免疫機能障がい1級
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1級に該当する方は、感染症の集中治療が必要になる場合があり、日常生活を送ることが困難な状態とされています。就労においては、治療との両立や健康状態を考慮して検討する必要があります。
肝臓機能障がい
肝臓機能障がいは、肝臓機能の検査結果や臨床症状、日常生活での活動制限の程度などを組み合わせて等級の判定が行われます。
1級の障がいは、以下のいずれかに該当するものを指します。
▼肝臓機能障がい1級
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1級に該当する方は、日常生活がほとんど不可能な状態とされており、他人の介助が必要となります。活動範囲が大きく制限されるため、就労においては医師と相談のうえで慎重な判断が必要です。
※肝臓機能の検査結果や臨床症状の重症度を3段階に分類して評価する基準
出典:厚生労働省『身体障害者障害程度等級表の解説(身体障害認定基準)』
身体障害者手帳1級で利用できる公的支援・サービス
身体障害者手帳を持つ方は、障害福祉サービスや給付、税金の減免などを受けられます。重度の障がいを持つ方に交付される1級では、より手厚い支援が行われています。
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特別障害者手当
特別障害者手当は、身体または精神に重度の障がいを持つために、日常生活で常時特別な介護を必要とする状態にある20歳以上の人に、精神的・物理的な負担を軽減するための手当を支給する制度です。
身体障害者手帳1級・2級に該当する人は特別障害者に当たり、支給の対象となります。ただし、本人または配偶者、扶養義務者の前年の所得が一定額以上の場合は対象外となります。
出典:厚生労働省『特別障害者手当について』
自立支援医療制度
自立支援医療制度は、心身の障がいを除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公費負担の医療制度です。
身体障害者手帳の交付を受けており、手術や治療によって障がいの除去・軽減が期待できる18歳以上の人は、医療費の補助を受けられます。
▼補助の対象となる医療の具体例
- 肢体不自由がある方が人工関節置換術を行う
- 視覚障がいがある方が白内障のために水晶体摘出術を行う
- 心臓機能障がいがある方がペースメーカー植込術を行う
- 腎臓機能障がいがある方が人工透析や腎移植を行う など
出典:厚生労働省『自立支援医療制度の概要』
重度心身障害者医療費助成制度
重度心身障害者医療費助成制度は、心身に重度の障がいがある方が病院を受診する際の医療費について、自己負担額(保険診療分)の一部を補助する制度です。都道府県・市町村ごとに運営されており、助成制度の名称が異なる場合があります。
身体障害者手帳1級・2級(障がいの種類によっては3級まで)を取得している方は、助成の対象に含まれます。対象者の詳しい条件や助成方法などは、住んでいる地域の窓口に確認することが必要です。
特別障害者控除
障害者手帳を持つ方は、一定の金額の所得控除を受けることが可能です。
身体障害者手帳の等級1級または2級に該当する人は「特別障害者」として控除額が引き上げられる仕組みとなっています。
▼障害者控除の金額
| 区分 | 控除額 |
| 障害者 | 27万円 |
| 特別障害 | 40万円 |
出典:国税庁『No.1160 障害者控除』
公共交通機関の料金割引
身体障害者手帳を提示することで、公共交通機関の料金割引を受けられます。
手帳に記載されている1種・2種に応じて、障がい者の特別割引が適用される仕組みになっています。1級の交付を受ける方は「1種」に当たり、割引率が高くなるほか、同乗する介護者も割引の対象となります。
▼障がい者特別割引がある公共交通機関
- JR・私鉄
- 公営バス
- 高速自動車国道
身体障害者手帳1級を持つ方が抱えやすい仕事の悩み
身体障害者手帳1級を持つ方は、障がいによって日常生活活動に大きな制限があります。就職・転職を検討している方は、仕事においてさまざまな悩みを抱えやすくなります。
- 身体的な動作の制約から仕事の内容が限定される
- 公共交通機関のラッシュ時の通勤に体力的・精神的な負担が大きい
- 企業に対して必要な配慮を伝えづらい(どこまで頼めるのか不安)
- 仕事への意欲はあるが、体調の波や慢性的な疲労感により体調管理が難しい など
一般雇用枠で応募されている仕事や働き方が難しい場合には、障害者雇用枠や就労継続支援でサポートを受けながら働くことも一つの方法です。
▼障害者雇用枠や就労継続支援について
| 就労の選択肢 | 働き方 |
| 障害者雇用枠 | 一般企業において就労に必要な配慮を受けながら働く |
| 就労継続支援A型 | 雇用契約を結び、最低賃金以上の賃金で職場での支援やサポートを受けながら安定かつ継続的に働く |
| 就労継続支援B型 | 雇用契約を結ばず、仕事の成果に対する工賃を受け取りながら、短時間から自分のペースで働く |
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自分らしく働ける仕事に就職・転職するためのポイント
重度の障がいを持つ方が自分らしく働くには、障がいの特性や活動制限に応じた仕事選びと、必要な配慮事項を明確に伝えることが大切です。
具体的なポイントには、以下が挙げられます。
➀自身の障がい特性を分析する
自分に合った仕事内容や職場環境を見つけるためには、まずは自身の障がい特性を深く分析することが重要です。
障がいによる身体的な制約だけでなく、日常生活や学校生活などを振り返り、「どんなことに困ったのか」「どのようなサポートを必要としているのか」を洗い出します。自己理解を深めることで、無理なく続けられる仕事内容や働き方を検討しやすくなります。
▼分析する項目
- 日常生活での動作制限・移動方法・介助の有無
- 障がいによる症状の内容や対処法
- コミュニケーションの方法
- 体調の波(良いとき・悪いときの状況)
- 必要とする設備やスペースなどの物理的環境 など
②必要な配慮は具体的かつ明確にする
企業に対して求める配慮については、具体的かつ明確に伝えます。必要な配慮を正直に伝えることは、企業と求職者の双方にとって入社後のミスマッチを防ぐうえで重要といえます。
一方的に要望を伝えるのではなく、「効率的に業務を遂行するため」「体調を安定させるため」など、安定した勤務のための配慮であることを前向きに伝えることがポイントです。これにより、就労準備ができていることや貢献意欲があることをアピールできます。
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③障がい者雇用向けの転職エージェントを活用する
「自己PRや配慮事項の伝え方が分からない」「初めての就職で不安がある」という方は、障がい者雇用向けの転職エージェントを活用することが有効です。
障がいの特性や希望に合った非公開求人の紹介や、企業との労働条件・配慮事項の交渉、面接の同行などを行ってくれるため、就職・転職活動の強い味方になります。
▼障がい者雇用向け転職エージェントを活用するメリット
- 専門的な視点から応募書類の添削や面接対策を受けられる
- 企業の内情や障がい者雇用の実績、職場環境などのリアルな情報を得られる
- 配慮事項や労働条件の交渉について代行してもらえる
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まとめ
身体障害者手帳1級は、重度の身体障がいによって日常生活において大きな困難を抱える方に交付されます。働くことが難しい場合があるほか、就労が可能でも仕事内容や勤務時間が大きく制限されるため、就職・転職に自信を持てない方もいるかもしれません。
しかし、医師と相談のうえで「障がいと向き合いながら自分にできること」や「社会生活を送るための必要な支援」を一つひとつ考えていくことにより、キャリアの選択肢が見つかる場合もあります。
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