身体障がいのある方は、障害者雇用での就労を検討している方もいるのではないでしょうか。適切な配慮やサポートを受けながら働けるため、一般雇用での就職・転職が難しい人でも自身の能力・経験を活かして活躍できる職場と出会える可能性があります。
しかし、障害者雇用は、就労可能な対象者や企業による配慮などについて、一般雇用と仕組みが異なります。「どのような人が障害者雇用で働けるのか」「一般雇用とどちらを選ぶべきなのか」と疑問を持つ方も少なくありません。
この記事では、障害者雇用制度の仕組みや一般雇用枠との違い、障害者雇用で働くメリット・デメリット、選考を受けるポイントなどを解説します。
目次
障害者雇用制度の仕組み
障害者雇用制度は、障害者雇用促進法に基づき、企業に対して障がい者の雇用を義務づける制度です。障がいを持つ方が能力や適性を活かして活躍できる社会を実現するために、従業員全体のうち障がい者の雇用を確保する割合(以下、法定雇用率)が定められています。
障害者雇用の法定雇用率
事業者の区分によって、法定雇用率が異なります。
▼事業者別の法定雇用率
事業者の区分 | 法定雇用率 |
民間企業 | 2.5% |
国・地方公共団体 | 2.8% |
都道府県の教育委員会 | 2.7% |
民間企業の場合、障がい者の雇用が義務づけられる対象となるのは、常時雇用する従業員数が40人以上の会社です。例えば、従業員数が150人以上の企業では、3人以上の障がい者を雇用する義務があります。
出典:厚生労働省『障害者雇用のご案内』
企業における障害者雇用の状況
厚生労働省の『令和6年 障害者雇用状況の集計結果』によると、民間企業の障がい者雇用者数は2024年6月1日時点で約67.7万人となり、21年連続で過去最高を記録しています。
▼民間企業における障がい者の雇用者数と実雇用率の推移
画像引用元:厚生労働省『障害者雇用のご案内』
実雇用率は2.41%と13年連続で伸び続けており、法定雇用率を達成した企業の割合は46.0%にのぼります。このように障がい者の雇用者数は年々増加しており、多くの企業で障がいを持つ方が活躍していることが分かります。
出典:厚生労働省『令和6年 障害者雇用状況の集計結果』『障害者雇用のご案内』
障害者雇用枠での就労条件とは。一般雇用との違い
障害者雇用枠は、障がいを持つ方が一人ひとりの能力に応じて働くために設けられた制度となるため、一般雇用とは就労条件が異なります。
就労ができる対象者
一般雇用の場合では、障がいの有無を問わず企業の応募条件・資格に該当すれば誰でも応募することが可能です。
これに対して障害者雇用は、就労可能な対象者の条件が定められています。応募・就労できるのは、障害者手帳を所有している人に限定されます。
▼障害者雇用の対象となる障がい者
障がい者の区分 | 対象者 |
身体障がい者 | 身体障害者手帳の1~6級に該当する人 |
知的障がい者 | 知的障害者と判定され、療育手帳を所有する方 |
精神障がい者 | 精神障害者保健福祉手帳を所有する方 |
身体障害者手帳の等級については、こちらの記事をご確認ください。
「身体障害者手帳」の等級とは?福祉サービス・転職をスムーズに進めよう
企業による合理的配慮の提供義務
障害者雇用では、障害者雇用促進法に基づいて企業による「合理的配慮の提供」が義務づけられています。合理的配慮とは、障がいを持つ方の特性に応じて就労上の支障への対処を行ったり、業務内容や勤務時間を調整したりすることです。
一般雇用の場合には、このような合理的配慮の提供義務は定められていません。配慮を希望する場合は、自ら企業に申し出る必要があり、その内容が受け入れられるかどうかは企業側の判断に委ねられます。
出典:厚生労働省『障害者雇用のご案内』
障害者雇用で働くメリット・デメリット
障害者雇用には、メリット・デメリットがあります。障がいの特性や能力、希望するキャリアなどによって捉え方が変わるため、自分に合った働き方を慎重に選ぶことが大切です。
メリット
障害者雇用で働くと、以下のメリットがあります。
- 一般雇用よりも就職が決まりやすい
- 職場の人からの理解を得やすい
- 企業による就労上の配慮や支援を受けられる
- 障害者控除の適用を受けられる
- 障がい者向けの支援制度や福利厚生を利用できる など
障害者雇用では、企業が法定雇用率の達成を目指すことから、一般雇用枠よりも就職がスムーズに決まりやすいと考えられます。
障がいがあることをオープンにして働くため、職場の人からの理解を得やすく、障がいの特性や症状、身体活動の制限などに応じて適切な配慮・サポートを受けることが可能です。
また、障がい者控除の適用を受けることによって、所得税や住民税の軽減を図ることも可能です。そのほか、公的な支援制度や企業の福利厚生など、障がいを持つ方が利用できるサポートが充実しており、仕事や生活と両立しながら安定して働くことができます。
デメリット
障がいを持つ方にとってデメリットといえる点には、以下が挙げられます。
- 一般雇用枠よりも求人数が少ない
- 職種が制限されやすい
- キャリアアップの機会が限られる可能性がある など
一般雇用枠に比べると、求人数や職種の選択肢が少ないため、希望に合った仕事が見つからないことがあります。これは、障がいの内容によって対応できる職種や作業内容が限られやすいためです。
また、仕事内容が制限されることにより、部署の異動や昇進の機会が限られてしまい、自身が描くキャリアパスを歩めない場合があります。ただし、必ずしもキャリアアップができないというわけではありません。
専門スキルを磨いて業務の幅を広げたり、ダイバーシティを推進するキーパーソンとして会社に貢献したりすることで、障がいがあってもキャリア形成が可能です。
障害者雇用の選考で企業が重視する内容
障害者雇用の選考では、応募者の障がい特性や能力などを個別的に判断して就労の可能性が判断されます。企業が特に重視するポイントには、以下の3つが挙げられます。
業務の遂行能力
応募者の業務遂行能力は、障害者雇用で企業が重視するポイントです。
障がいの内容や程度、症状によって対応できる業務には個人差があります。そのため、選考時には「どのような業務が向いているか」「どのような支援機器やツールがあれば問題なく作業できるか」といった業務への適性が見極められます。
これまでの職歴や保有するスキル・資格が評価につながりやすくなります。
合理的配慮への対応可否
応募者が求める合理的配慮の対応可否についても、企業が障害者雇用で受け入れを検討する際の重要な判断基準とされています。
合理的配慮は、障がいを持つ方の状態や職場環境などによって求められる内容が異なり、個別性が高くなります。企業側の過重な負担につながる配慮については、対応が難しいことも考えられます。
選考時には「企業が対応できる内容・範囲のものか」「就労に影響するものか」など、応募者の希望を踏まえて個別に判断されます。
勤怠の安定性
障害者雇用では、入社後に長期的に活躍してもらうことを期待しているため、企業は勤怠の安定性を重視します。
例えば、「定期的な通院と業務を無理なく両立できるか」「自身の体調を把握し、適切に管理できているか」といった点が確認されます。応募者の過去の勤務実績や生活習慣は、安定した出勤のための自己管理能力を判断する材料になります。
障害者雇用で選考を受けるときのポイント
障害者雇用の選考では、企業が応募者の能力や適性を正しく理解して入社後に活躍できるか判断できるように、自身の状況を明確かつ分かりやすく伝えることが大切です。
➀過去の職務経歴や就労訓練の状況を詳細に伝える
応募者の職務経歴は、業務遂行能力や仕事への適性を判断する重要な情報になります。
職務経歴書には、これまで経験した職種や具体的な業務内容、身につけたスキルなどを詳しく記載しましょう。その際、単に事実を記載するだけでなく、「その仕事で何を学び、どのような成果を出したか」を具体的に示すと説得力が高まります。
職務経歴がない場合は、就労移行支援事業所での訓練経験や職場実習で取り組んだ内容について伝えることがポイントです。求職中に資格取得やスキルアップに励んだこと、体調管理に努めてきたことなども、応募者の熱意や自己管理能力をアピールする材料になります。
職務経歴書の書き方について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご確認ください。
障害者雇用での職務経歴書の書き方ガイド。基本の記載項目や押さえておくポイント
②必要とする就労上の配慮を明確にする
入社後に安定して長く働くためには、企業に求める合理的配慮の内容について明確にしておくことが重要です。面接を受ける際は、仕事内容の調整や職場環境の整備、通勤時の配慮、通院のための休暇など、具体的にどのようなサポートを希望するか伝えましょう。
自身が必要とする配慮事項を明確に伝えることは、企業が適正に受け入れの判断を行うために役立つほか、入社後のミスマッチを防ぐことにもつながります。
▼就労上の配慮に関する伝え方の具体例
「業務に集中するため、人通りの少ない席で作業できると助かります。」
「持病の通院のため、月に1回午前休をいただく可能性があります。」
応募書類への配慮事項の書き方についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
障害者雇用での配慮事項の書き方。基本の記載項目や採用担当者に伝えるポイント
③自分の適性を分析して強みをアピールする
障害者雇用枠への応募を考える際には、「何ができないか」という点を気にする方も少なくありません。しかし、企業は応募者の「できること」に期待して採用を検討しています。
面接では、「何が得意か」「どのような工夫や配慮があれば、問題なく業務に取り組めるか」といった前向きな視点から自身の強みをアピールすることが大切です。
単にスキルや実績を伝えるだけでなく「その企業で働くうえでどのように活かせるか」を具体的に説明することで、企業が入社後の活躍をイメージしやすくなります。
▼自己アピールの具体例
「PC操作の補助器具があれば、データ入力の作業を正確に進めることができます。」
「これまでの接客経験からコミュニケーションに自信があり、オペレーター業務でもお客様との信頼関係を築くことができます。」
障害者雇用で働くための就職・転職活動の方法
障害者雇用での就職・転職を支援してくれるさまざまな公的機関や民間のサービスがあります。それぞれの特徴を理解して積極的に活用しましょう。
ハローワーク
ハローワークは、障がいを持つ方の就職活動を専門的に支援する公的な機関です。専門職員や職業相談員が在籍しており、カウンセリングから求人紹介、面接対策、入社後の定着支援まで、幅広いサービスを無料で利用できます。
ハローワークで受けられる支援は、以下のようなものが挙げられます。
▼ハローワークでの主な支援内容
- 職業相談
- 障害者雇用の求人紹介
- 就職支援セミナー
- トライアル雇用制度
- 就職後の定着支援 など
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、ハローワークと連携しながら、より専門的な支援を行う公的機関です。就職を控えた障がい者や、すでに就労している障がい者への職業リハビリテーションを実施しています。
▼地域障害者職業センターの主な支援内容
- 職業評価
- 職業準備訓練を通じた職業指導
- ジョブコーチ支援(専門の支援員が仕事の現場でアドバイスを行う) など
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、一般企業への就職を目指す障がい者のための福祉サービスです。障がい者の適性に合った職場探しや就労開始後の定着支援などのサポートを受けられます。
▼就労移行支援事業所での主な支援内容
- 職業訓練(パソコンスキルやビジネスマナーなど)
- 職場実習
- 履歴書・面接対策
- 就職活動のサポート
- 就職後の定着支援 など
障がい者向け転職エージェント
障がい者向けの転職エージェントは、民間の人材紹介サービスです。求職者の希望や障がいの状況を深く理解したキャリアアドバイザーが、自己分析から選考、内定獲得まで全面的にバックアップしてくれます。
▼転職エージェントの主な支援内容
- 専門家によるカウンセリング
- 非公開求人の紹介
- 応募書類の添削や模擬面接
- 企業との交渉代行 など
『エージェント・サーナ』では、障害者雇用に精通したキャリアアドバイザーが在籍しており、求職者の適性を踏まえた求人紹介や面接のアドバイスなどを手厚くサポートしています。長く安心して働ける職場とのマッチングを実現します。
まとめ
障害者手帳を所有している人は、企業の障害者雇用枠での求人応募・就労が可能になります。障害者雇用枠を選択すると、業務内容や職場環境に関する合理的な配慮を受けられるため、障がいを持つ方が長く安定して働くことが期待できます。
選考を受ける際は、自身の障がい特性や能力、必要な配慮などを明確かつ分かりやすく伝え、「何ができるか」をアピールすることがポイントです。「自分に合った仕事が分からない」「就職活動に不安がある」といった方は、公的機関や民間の支援サービスを積極的に活用しましょう。
『エージェント・サーナ』は、障害者雇用を支援してきた30年以上の実績があります。求職者の適性や希望に沿った求人のマッチングにより、2ヵ月以内の内定率は60%以上、入社後の定着率は99.5%を実現しています。一人で悩まずに、まずはご相談ください。