
障害手当金は、病気やけがによって軽度の障がいが残った方に支給される一時金です。
障害手当金を受け取るには、年金事務所や年金相談センターへの申請手続きを行い、一定の障がいがあると認定される必要があります。
申請にはさまざまな書類の作成・提出が必要になり、手続きが煩雑になりやすいため、前もって準備をしておくことが大切です。
この記事では、障害手当金がもらえる人や申請方法を5つのステップで解説します。
目次
障害手当金はどんな人がもらえる?
病気やけがによって障がいが残った方への社会保障制度に「障害年金」があります。
障害年金は、「日常生活や労働に著しい制限がある方」に対して障害等級(1級・2級・3級)に応じた年金が支給されます。この基準を満たさない軽度の障がいが残った方には、一時金として「障害手当金」が支給されます。
会社員や公務員などで厚生年金に加入しており、障害等級3級に該当しない程度の軽度の障がいがあると認定された場合に、障害厚生年金の代わりに障害手当金を受け取れます。
▼障害手当金を受け取れる条件
- 厚生年金の被保険者期間に初診日(※)がある
- 初診日から5年以内に傷病が治っている(症状が固定している)
- 障害等級表に定める障害手当金を対象とした障がい程度(3級以下)に該当している
- 障害基礎年金と同様の保険料納付要件を満たしている
なお、国民年金のみに加入している方(自営業の方、学生、専業主婦・主夫など)は、障害手当金の支給対象外となります。詳しい支給要件は、以下の記事をご確認ください。
※障がいの原因となった病気やけがで初めて医師の診療を受けた日
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No69:障害手当金とは
出典:厚生労働省『年金制度の仕組みと考え方 第12 障害年金』/政府広報オンライン『障害年金の制度をご存じですか?がんや糖尿病など内部疾患のかたも対象です』
障害手当金の申請方法
障害手当金を受け取るには、年金事務所や年金相談センターの窓口に年金請求書と必要書類を提出して、申請を行う必要があります。
申請手続きの基本的な流れは、障害厚生年金を請求する場合と同じになります。
ステップ➀初診日を証明する書類を準備する
障害手当金の請求において必須となるのが「初診日の証明」です。厚生年金に加入している期間中に初診日があることを客観的に証明する書類が必要になります。
▼初診日を特定する具体例
| 傷病の状況 | 初診日となる日 |
| 現在かかっている医師で初めて診療を受けた | 治療や療養に関する指示があった日 |
| 同じ傷病でほかの医療機関に転医した | 一番初めに医師の診療を受けた日 |
| 傷病が治癒したあと、同一の傷病が再発した | 再発により医師の診療を受けた日 |
| 健康診断で異常が見つかり療養の指示を受けた | 健康診断を受けた日 |
初診のときと現在通っている医療機関が異なる場合には、初診の医療機関に問い合わせて「受診状況等証明書」の作成を依頼します。
ただし、医療機関の閉院やカルテの廃棄などによって証明書を作成してもらえないケースもあります。その場合は、「受信状況等証明書が添付できない申立書」を作成して、初診日を確認するための参考資料を添付します。
▼参考資料の具体例
- 医療機関の診察券や領収書
- 身体障害者手帳
- 生命保険や労災保険などの申請時の診断書
- 交通事故証明書
- 労災の事故証明書
- 次に受診する医療機関への紹介状 など
ステップ②年金請求書を入手する
近くの年金事務所や年金相談センターの窓口、または日本年金機構のホームページから『年金請求書』を入手します。加入する年金の種類によって様式が異なり、厚生年金の場合は『様式第104号』を選択します。
▼年金請求書(様式第104号)のイメージ

画像引用元:日本年金機構『年金請求書(国民年金・厚生年金保険障害給付)様式第104号』
このとき、年金事務所の窓口やねんきんダイヤルで「受給要件を満たしているか」「どのような書類が必要か」を確認しておくと、その後の準備がスムーズになります。
出典:日本年金機構『年金請求書(国民年金・厚生年金保険障害給付)様式第104号』
ステップ③主治医に診断書の作成を依頼する
障害手当金の請求には、主治医が作成した診断書の添付が必要になります。障がいの内容に応じた所定様式の診断書を作成してもらいます。
▼診断書に関する指定内容
- 障害認定日より3ヶ月以内のもの
- 障害認定日と請求日が1年以上空く場合は、直近3ヶ月以内のもの
障害認定日とは、障がいの程度を定める日のことです。初診日から1年6ヶ月経過した日、またはその期間内に病気やけが治った日(症状が固定した日)を指します。
診断書に記載する傷病の内容によっては、医療機関で実施した検査結果の資料(レントゲンフィルムや心電図のコピーなど)の添付が必要になるものもあります。
ステップ④病歴・就労状況等申立書を作成する
「病歴・就労状況等申立書」は、傷病の発生原因や現在までの経過、日常生活・仕事での具体的な困りごとを本人が申告する書類です。
支給決定の審査において、障がいの程度や診断書との整合性などを判断するための重要な書類となるため、自身の状況が伝わるように正確かつ詳細に書くことが必要です。
▼病歴・就労状況等申立書の主な記載内容
| 項目 | 記載すること |
| 傷病名 | 障がいの原因となった傷病名(診断書に書かれた正式な傷病名) |
| 初診日 | 初めて医師の診療を受けた日(診断書に書かれた初診日) |
| 傷病の発生時期 | 自覚症状が現れた日、検査で異常が発見された日など |
| 病歴 | ・3~5年ごとの日常生活や学校・就業の状況
・医療機関を受診している期間・しなかった期間 |
| 日常生活の状況 | 身の回りの動作や家事、買い物、掃除などに関する困りごと |
| 仕事の状況 | 就労の有無、職種・仕事の内容、休職や就労していない理由 |
ステップ⑤年金請求書と必要書類を揃えて提出する
年金請求書に記入して、必要書類を揃えて年金事務所の窓口に提出します。申請時に必ず必要になるものは、以下のとおりです。
▼申請時に提出・添付が必要なもの
- 年金請求書
- 年金手帳
- 戸籍抄本または戸籍謄本
- 医師の診断書
- 受診状況等証明書(※)
- 病歴・就労状況等申立書
- 金融機関の預金通帳またはキャッシュカードのコピー
- 印鑑
障がいの原因や本人の状況によっては追加で書類が必要になる場合もあるため、年金事務所に確認しておきましょう。
※初診の医療機関と診断書の医療機関が同じ場合は提出不要
出典:厚生労働省『障害基礎年金お手続きガイド』/日本年金機構『障害厚生年金を受けられるとき』『障害年金ガイド 令和7年度版』
障害手当金を申請してから支給までの流れ
障害手当金の申請から支給までに、4~5ヶ月程度の期間を要します。ここからは、申請が終わったあとの流れについて解説します。
申請~約3ヶ月後|通知書の送付
年金請求書の提出後、日本年金機構で初診日や保険料の納付状況、障がいの状態について審査が行われます。審査の過程で確認が必要になった場合には、請求者本人宛てに連絡がくる場合もあります。
審査の結果が出るまでには3ヶ月程度かかり、以下の通知書が郵送で届きます。
▼審査終了後に送付されるもの
| 審査結果 | 送付されるもの |
| 支給が決定した場合 | 年金証書と支給決定通知書 |
| 不支給となった場合 | 不支給決定通知書 |
通知書の送付~約1~2ヶ月後|障害手当金の振り込み
障害手当金の支給が決定した場合には、通知書が送付されてから約1~2か月後に指定した口座へ障害手当金の振り込みが行われます。
障害手当金は一時金として支給されるため、障害厚生年金のように定期的な支給はありません。口座への振り込みが行われた際は、「振込通知書」が送付されます。
出典:日本年金機構『障害年金ガイド 令和7年度版』
障害手当金を申請する前に知っておくこと
ここからは、障害手当金の申請前に知っておきたいことについて解説します。
障害厚生年金の支給が決定されることがある
障害手当金は、障害厚生年金3級に該当しない軽度な障がいが残った方に対して、一時金として支給する目的があります。
日常生活・就労の状況などによって「どの程度の障がいあるか」が判定されるため、審査の結果によっては、障害手当金ではなく障害厚生年金1~3級に認定される場合があります。
1回限りの支給となる障害手当金に対して、障害厚生年金は継続的な年金の支給が行われるため、生活の安定化を図ることができます。
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No68:障害年金がもらえる条件
同じ傷病で障害厚生年金の請求はできなくなる
障害手当金を一度受け取ると、障がいの状態が悪化してしまった場合でも、追加で障害厚生年金を請求することはできません。
申請する際は、「傷病が治っているか」または「症状が固定しているか」について、今後の変化の可能性も踏まえて医師に相談することが重要です。
障害手当金を請求すべきかどうか判断に悩む場合は、障害年金の申請支援を行っている社会保険労務士事務所に相談することも一つの方法です。
障害手当金の認定件数は少ない
障害手当金を申請しても、障がいの状態によって認定されないケースも少なくありません。
厚生労働省の『令和6年度 障害年金の業務統計』によると、障害年金の請求で支給が決定された件数のうち、障害手当金の決定件数は393件となり、全体のわずか0.3%にとどまっています。
▼障害年金の決定件数(新規)
| 1級 | 2級 | 3級 | 障害手当金 | 非該当 | |
| 決定件数 | 15,995件 | 80,395件 | 30,460件 | 393件 | 18,982件 |
| 割合 | 10.9% | 55.0% | 20.8% | 0.3% | 13.0% |
障害手当金や3級以上の認定を受けるには、日常生活・就労で生じている支障について医師へ伝えて診断書に反映してもらったり、病歴・就労状況等申立書で詳細に伝えたりすることが必要といえます。
出典:厚生労働省『令和6年度 障害年金の業務統計について』
まとめ
障害手当金の申請には、初診日の証明書類や医師の診断書、病歴・就労状況等申立書などのさまざまな書類の作成・提出が必要になります。
記入内容に不足があったり、日常生活・就労の状況を詳細に記載していなかったりすると、不支給と判断されてしまう可能性があるため、不安な方は社会保険労務士のサポートを受けることも検討しましょう。
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