
厚生年金に加入している方が病気やけがによって障がいが残ったときには、「障害手当金」を受け取れる可能性があります。
障害手当金を請求することで、一時的な経済的な負担を軽減できるため、生活の安定化や社会活動の準備を安心して進められます。
「障害手当金はどんな人が請求できるのか」「どれくらいの金額が支給されるのか」など疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
この記事では、障害手当金の仕組みや請求するための条件、支給金額、申請方法などについて分かりやすく解説します。
目次
障害手当金とは
障害手当金とは、厚生年金の被保険者期間において、病気やけがによる障がいが残った場合に支給される一時金です。
障がいの原因となった病気やけがで初めて病院を受診した日(以下、初診日)から5年以内に、傷病が治るまたは症状が固定して、軽度の障がいが残った方が受給できます。
対象となる病気やけがには、以下のような心身の障がいや疾患が含まれます。
▼障害手当金の対象となる病気やけが
| 障がいの区分 | 具体例 |
| 外部障がい | 視覚障がい、聴覚障がい、肢体不自由 など |
| 内部障がい | 心疾患、呼吸器疾患、がん、糖尿病、慢性腎不全 など |
| 精神障がい | うつ病、総合失調症 など |
出典:厚生労働省『年金制度の仕組みと考え方 第12 障害年金』/政府広報オンライン『障害年金の制度をご存じですか?がんや糖尿病など内部疾患のかたも対象です』
障害年金制度における障害手当金の位置づけ
障害手当金は、障害年金制度の一種に位置づけられています。しかし、継続的に支給される年金制度とは対象者や支給方法に違いがあります。
ここでは、障害年金の仕組みや障害手当金との違いについて解説します。
障害年金の仕組み
障害年金は、国民年金または厚生年金に加入している方が障害等級1~3級に該当する程度の障がいが残った場合に、生活を支えることを目的として支給される年金制度です。
障害年金制度は「障害基礎年金」を土台として「障害厚生年金」が上乗せされる2階建ての構造となっており、加入している年金によって受給できる障害年金の種類が変わります。
▼障害年金の構造
| 対象者 | 障害等級の区分 | |
| 障害基礎年金
(1階部分) |
国民年金の被保険者
(自営業の方、学生、専業主婦・主夫) |
1級・2級 |
| 障害厚生年金
(2階部分) |
厚生年金の被保険者
(会社員、公務員) |
1級・2級・3級
障害手当金 |
会社に務めており厚生年金に加入している方は、障害等級1級または2級に該当すれば「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の両方を受給できます。一方、障害等級3級や障害手当金は、厚生年金に加入している方のみが対象となります。
出典:厚生労働省『年金制度の仕組みと考え方 第12 障害年金』
障害年金と障害手当金の違い
障害手当金は、「障害厚生年金3級よりも程度の軽い障がいが残った方」を対象とした給付です。厚生年金の被保険者が対象となっているため、国民年金のみに加入している方は受給できません。
障害年金との違いは、以下のとおりです。
▼障害年金と障害手当金の違い
| 障害年金 | 障害手当金 | |
| 支給方法 | 2ヶ月ごとに継続的に支給 | 1回限りの支給(一時金) |
| 障がいの状態 | 日常生活や労働に著しい制限 | 労働に一定の制限
(3級よりも軽度) |
| 請求できる時期 | 障害認定日(※) | 傷病が治った日
(症状が固定した日) |
| 対象の公的年金 | 国民年金または厚生年金 | 厚生年金 |
※障がいの程度を認定する基準日のこと。原則として初診から1年6ヶ月後となる。
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No64:障害年金 ※ピラー記事
出典:厚生労働省『年金制度の仕組みと考え方 第12 障害年金』
障害手当金がもらえる3つの条件
障害手当金を受け取るには、初診日や保険料の納付、障がいの状態について一定の要件を満たすことが必要です。
➀厚生年金の被保険者期間中に初診日がある
1つ目の条件は、障がいの原因となった病気やけがで初めて医師の診療を受けた「初診日」が、厚生年金の被保険者期間中にあることです。
自営業の方や学生、専業主婦・主婦などで国民年金に加入していた方は、初診日のあとに厚生年金に加入したとしても障害手当金の対象にはなりません。
▼初診日の条件を満たせないケース
- 学生だったので働いていなかった
- アルバイト・パートで家族の扶養に入っていた
- 会社を辞めて転職活動中だった など
②保険料納付要件を満たしている
2つ目の条件は、障害基礎年金と同様の保険料納付要件を満たしていることです。初診日の前日において、以下のいずれかを満たしている必要があります。
【原則】3分の2以上の期間で保険料を納付している
初診日がある月の前々月までの被保険者期間において、3分の2以上の期間で国民年金の保険料を納付していることです。
厚生年金に加入している方は、自動的に国民年金の第2号被保険者として保険料を納付していることになるため、「働いている期間」も含めて日数を判定します。
保険料を納付しているとみなされるのは、「納付済み」の期間のほか、保険料の納付義務が免除または猶予されている期間も含まれます。
▼条件を満たしているケース

画像引用元:厚生労働省『障害基礎年金お手続きガイド』
上記のケースでは、被保険者期間が39ヶ月、納付済み+免除の期間が30ヶ月となっており、3分の2以上の期間で保険料を納付していることになります。
【特例】直近1年間に未納がない
被保険者期間の3分の2以上で納付ができていなくても、直近1年間に保険料の未納がない場合には要件を満たせるケースがあります。
未納がないかの判定は、以下のすべての要件を満たしているかどうかで判断されます。
▼直近1年間に未納がないと判定されるための要件
|
出典:政府広報オンライン『障害年金の制度をご存じですか?がんや糖尿病など内部疾患のかたも対象です』/厚生労働省『障害基礎年金お手続きガイド』
②障害手当金の対象となる程度の障がいがある
3つ目の条件は、初診日から5年以内に病気やけがが治った日(症状が固定した日)において、障害厚生年金3級よりも軽度の障がいがあることです。
軽度の障がいとは、「傷病が治ったもので、労働が制限を受けるか、労働に制限を加えることを必要とする程度のもの」と定義されています。
▼障害手当金の対象となる障がいの状態(厚生年金保険法施行令別表第2)
|
引用元:日本年金機構『障害年金ガイド 令和7年度版』
なお、申請時に障がいの程度が「障害等級3級以上」と認定された場合には、障害手当金ではなく障害年金の支給が決定されることになります。
出典:政府広報オンライン『障害年金の制度をご存じですか?がんや糖尿病など内部疾患のかたも対象です』
障害手当金を受け取れないケース
障害手当金をもらえる条件を満たしていても、ほかの公的給付や補償を受けている場合には支給の対象外となることがあります。
▼障害年金の支給対象外となるケース
- 国民年金、厚生年金または共済年金を受け取っている
- 労働災害による補償を受けている
老後の生活を支える老齢年金を受給している方や、労働基準法や労働者災害補償保険法に基づく障害補償を受け取っている方は、障害手当金を受け取ることはできません。
出典:厚生労働省『年金制度の仕組みと考え方 第12 障害年金』
障害手当金の支給金額
障害手当金は、「一時金」として1回限りで支給されます。その金額は、厚生年金における計算の基礎となる「報酬比例の年金額」をベースに算出されます。
▼支給金額の計算式
| 障害手当金の支給金額=報酬比例の年金額×2 |
報酬比例の年金額は、厚生年金に加入していた平均標準報酬額と加入期間の月数によって算出されるため、本人の収入や勤務年数によって変動します。
また、厚生年金の加入期間が短い方や収入が低い方でも、一定の金額が支給される「最低保障額」が定められています。
▼障害手当金の最低保障額
| 障害厚生年金3級に定められる最低保障額の2倍の額 |
2025年度における最低保障額は、124万7,600円(年間支給額)となっています。
さらに障害手当金は、物価や賃金などの変動に応じて年金額が毎年改定され、支給額にも反映される仕組みとなっています。
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No71:障害手当金 金額
出典:政府広報オンライン『障害年金の制度をご存じですか?がんや糖尿病など内部疾患のかたも対象です』
障害手当金の申請方法
障害手当金を請求するには、年金事務所または年金相談センターへの申請が必要です。
申請手続きの流れは、障害年金の請求と基本的に同じとなります。
▼障害手当金の申請手順
| 流れ | 内容 | |
| 1 | 受給要件を確認する | ・初診日の特定
・傷病が治った日(症状が固定した日)の確認 ・保険料の納付状況の確認 |
| 2 | 必要書類を準備する | ・年金請求書の入手
・受診状況等証明書の入手 ・医師の診断書の作成依頼 ・その他添付書類の準備 |
| 3 | 申請書類を作成する | ・年金請求書の作成
・病歴・就労状況等申立書の記入 |
| 4 | 窓口への提出 | ・書類一式の確認
・年金事務所または年金相談センターへの提出 |
請求から支給決定までは3ヶ月程度、支給決定から支給までは1~2ヶ月程度かかります。記入内容の不足や不備があると再提出が必要になるため、必要書類の内容をよくチェックすることが重要です。
手続きの詳しい説明は、以下の記事をご確認ください。
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No70:障害手当金 申請方法
障害手当金に関するよくある質問
ここからは、障害手当金に関するよくある質問に回答します。
障害手当金はいつまで請求できる?
障害手当金の請求には期限があります。障がいの原因となった病気やけがが治った日(症状が固定した日)から5年以内に請求することが必要です。
5年を過ぎると時効となり、たとえ受給要件を満たしていても障害手当金を受け取れなくなるため、早めに年金事務所に相談して請求の準備を始めることが大切です。
出典:日本年金機構『障害年金ガイド 令和7年度版』
傷病手当金も一緒に受け取れる?
健康保険から支給される「傷病手当金」と「障害手当金」を同時に受け取ることは、原則できません。傷病手当金の支給期間中に障害手当金の支給が決定された場合には、傷病手当金の支給調整が行われます。
その場合、障害手当金は一時金として全額で受け取れますが、その金額に該当する支給日数分については傷病手当金の支給が停止または減額される仕組みとなります。
出典:日本年金機構『障害年金ガイド 令和7年度版』
働いていると受給対象外になる?
会社員として働いていても、障害手当金の支給要件を満たしていれば受給が可能です。
障害手当金の受給にあたって「働いていないこと」を定める要件はないため、就労している事実だけを理由に不支給になることはありません。
しかし、支給審査では「労働にどの程度の制限や支障が生じているか」が重視されます。障害手当金を受け取るには、「現在就労している」ことだけでなく、仕事内容の制限や職場での配慮事項などを詳しく伝えることが重要です。
まとめ
障害手当金は、厚生年金に加入する方が障害等級3級に該当しない軽度の障がいが残った場合に支給される一時金です。
傷病が治った日または症状が固定した日から5年以内に請求する必要がありますが、請求手続きが煩雑で提出書類も多いため、早めに準備を始めることが大切といえます。
また、働いている方やこれから就職・転職活動を始める方は、請求する際に「就労において制限が生じる状況」を正確に伝えることが重要です。
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