
障害年金は、障がいを持つ方の安定した生活を支援するための社会保障制度です。国民年金や厚生年金の被保険者で一定の要件を満たす方は、障害年金を受け取ることができます。
これから障害年金の申請準備を始めるにあたって「働いているけれど、所得制限はあるの?」「収入が増えても大丈夫?」などと気になる方も多いのではないでしょうか。
障害年金のうち、国民年金の被保険者が対象となる「障害基礎年金」については、所得制限が設けられるケースが存在するため、注意が必要です。
この記事では、障害基礎年金の所得制限が生じるケースや具体的な仕組み、年金の支給調整・停止が行われるときなどについて解説します。
目次
障害基礎年金とは
障害基礎年金とは、国民年金に加入している方が病気やけがによって一定の障がいが残ったときに支給される障害年金です。
障害年金制度は、「障害基礎年金」を土台として「障害厚生年金」が上乗せされる2階建ての構造になっており、会社に勤めていない自営業の方や学生、専業主婦(主夫)などは障害基礎年金の対象となります。
支給対象となる障がいの程度は障害等級表の1級・2級・3級に分けられており、どれに該当するかによって受け取れる支給額が変わります。
▼障害年金の体系
| 障害年金の種類 | |||
| 2階部分 | 障害厚生年金1級 | 障害厚生年金2級 | 障害厚生年金3級 |
| 1階部分 | 障害基礎年金1級 | 障害基礎年金2級 | – |
障害基礎年金については、国民年金の被保険者期間中にある方だけでなく、加入義務のない20歳未満の方や、被保険者資格がなくなった60歳以上65歳未満の方も対象に含まれます。
出典:厚生労働省『年金制度の仕組みと考え方 第12 障害年金』
障害基礎年金に所得制限はある?
障害基礎年金には、原則として本人の所得制限は設けられていません。
国民年金の被保険者で、初診日(※)における障がいの程度や保険料の納付状況などの一定の要件を満たしていれば、収入にかかわらず全額を受給することが可能です。
ただし、例外的に所得制限が設けられている受給者もいます。
※障がいの原因となる病気やけがで初めて病院を受診した日
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障害基礎年金に所得制限が設けられる例外的なケース
障害基礎年金に所得制限が設けられているのは、20歳になる前に障がいの原因となる傷病を負った方(以下、20歳前傷病)です。
20歳前傷病の方は、20歳に達した時点(※)で障害等級表に該当する程度の障がいがある場合に、障害基礎年金を受け取れる仕組みとなっています。
しかし、国民年金に加入する義務が生じる前に障がいが生じているため、保険料を納付していない状態で年金を受給できることになります。このことを踏まえて、障害年金制度の公平性を確保する観点から、一定の所得制限が設けられています。
20歳前傷病による受給者は、前年の所得額に応じて支給額の減額や支給停止が行われることになります。
※障害認定日(初診日から1年6ヶ月経過した日、または1年6ヶ月以内に障がいによる症状が固定した日)が20歳以後の場合は障害認定日となる
出典:厚生労働省『年金制度の仕組みと考え方 第12 障害年金』
20歳前傷病による障害基礎年金の所得制限
20歳前傷病による障害基礎年金では、受給者本人の前年の所得に基づいて支給の調整が行われるほか、扶養家族がいる場合は所得制限額が上乗せされる仕組みとなっています。
前年の所得額に応じた支給制限
20歳前傷病の受給者には、前年の所得額について2段階の支給制限が設定されています。
対象となる期間は毎年10月分から翌年9月分までとなり、前年の所得が一定額を超えた場合はその期間の年金支給額が調整されます。
▼所得額による支給制限
| 前年の所得額 | 支給制限 |
| 472万1,000円を超える | 全額支給停止 |
| 370万4,000円を超える | 2分の1が支給停止 |
| 370万4,000円以下 | 制限なし(全額支給) |
出典:厚生労働省『年金制度の仕組みと考え方 第12 障害年金』
扶養家族がいる場合の所得制限額の加算
扶養家族がいる場合には、1人につき所得制限額が38万円が上乗せされます。子どもがいる方や扶養する配偶者がいる方は、受給者本人の所得制限が緩和されることになります。
▼所得制限額の加算
| 扶養親族の区分 | 所得制限の加算額 |
| 一般の扶養親族 | 38万円 |
| 老人控除対象配偶者または老人扶養親族の場合 | 48万円 |
| 特定扶養親族または控除対象扶養親族の場合
(19歳未満の人に限る) |
63万円 |
例えば、配偶者と子ども1人の扶養家族がいる受給者は、[38万円×2人=76万円]が加算されます。この場合における全額支給停止になる所得額の上限ラインは、「472万1,000円+76万円=548万1,000円」となります。
出典:厚生労働省『年金制度の仕組みと考え方 第12 障害年金』
20歳前傷病で年金の支給調整・停止が行われるとき
前年の所得額だけでなく、ほかの公的給付との併用受給や本人の状況によって、障害基礎年金の支給調整・停止が行われることもあります。
労働災害保険の年金を受給しているとき
20歳前傷病によって認定された障がいについて、労働災害保険(労災)の障害補償年金を受給できる場合には、障害基礎年金は全額支給停止となります。
なお、初診日が「国民年金の被保険者期間」や「60歳以上65歳未満の期間」にある場合には、障害年金と労災による障害補償年金を併用して受給することが可能です。このケースでは、障害基礎年金の支給額から労災給付の金額が調整されます。
出典:厚生労働省『年金制度の仕組みと考え方 第12 障害年金』
海外に居住したときや刑事施設に入所したとき
障害年金は、日本国内に住所のある方の生活を保障する公的制度となります。
そのため、海外に移住して日本国内に住所を持たなくなったときや、刑務所や少年院などの施設に入所したときには、障害基礎年金の支給が停止されます。
出典:厚生労働省『年金制度の仕組みと考え方 第12 障害年金』
障害基礎年金を受給しながら働く際の注意点
20歳前に傷病を負った方のなかには、障害基礎年金を受給しながら働いている人も多くいます。ただし、所得の限度額を超えると支給の停止または減額が行われるため、職場と相談のうえで勤務時間や出社日数を調整することが大切です。
障がいによる労働の制限を受けている方が、自身の能力や適性に合った働き方を目指すには、仕事内容・勤務形態・職場環境などについて配慮を受けられる「障害者雇用枠」や「就労継続支援事業所」での就労を検討するとよいでしょう。
▼障害基礎年金を受給して働く場合の選択肢
| 就労形態 | 特徴 | 雇用契約 |
| 障害者雇用枠 | 法律で企業に義務づけられた障がい者の雇用枠で働く方法。障がいへの理解を得た状態で入社でき、職場の合理的配慮を受けながら働ける。 | あり |
| 就労継続支援A型 | 一般企業での就労に近い環境で、働く習慣や実践スキルを身につけられる。最低賃金以上の給与が保証されている。 | あり |
| 就労継続支援B型 | 生活リズムの安定や社会参加を目的として自分のペースで働ける。労働の対価として工賃が支払われる。 | なし |
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まとめ
障害基礎年金には原則として所得制限はありません。しかし、20歳前傷病による受給者においては、前年の所得額に応じて支給が減額または停止される例外的なルールがあります。
所得制限の範囲内で安定した生活と就労を両立させるためには、自身の障がい特性や症状、体調などを踏まえて、勤務時間・出社日数を調整できる働き方を選ぶと安心です。
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