呼吸器機能障がいを持つ方は、身体活動の制限や空気環境への配慮などが必要になることから「安心して働ける仕事や職場をどのように選べばよいか」と悩む方も少なくありません。
自分に合った職場への転職を成功させるには、自身の障がい特性や身体活動の制限、職場に求めるサポートなどを明確にして取り組むことが重要です。
この記事では、呼吸器機能障がいを持つ方の仕事の悩みや転職先を選ぶポイント、転職活動のスムーズな進め方について解説します。
目次
呼吸器機能障がいの特性とは
呼吸器機能障がいは、呼吸器の不全や機能の低下によって日常生活に支障をきたす障がいです。病状が進行すると、体に必要な酸素を十分に取り込むことが難しくなり、少しの動作で息切れが生じたり、呼吸困難によって歩行ができなくなったりすることがあります。
症状は人によって異なりますが、一般的に見られる特性として以下が挙げられます。
▼呼吸器機能障がいによる症状の例
- 息切れ
- 呼吸困難
- 慢性的な咳
- 疲れやすい など
障がいの程度や症状には個人差が大きく、酸素ボンベの携帯や吸入薬の服用、人工呼吸器が必要になる方など、幅広い症状のレベルがあります。人によっては日常生活や仕事にも影響を及ぼす場合があります。
身体障害者福祉法に基づく区分と等級
呼吸器機能障がいは、身体障害者福祉法において“内部障がい”の一種に分類されます。
この等級制度は、日常生活における制限の程度を客観的に評価して、適切な福祉サービスを提供することを目的として設けられています。
呼吸器機能障がいでは、重度の1級から中等度の3級・4級まで、それぞれ具体的な生活制限レベルに基づいて区分されています(2級の認定はありません)。
▼呼吸器機能障がいの等級
等級 | 障がいの程度 | 基準 |
1級 | 歩行や身の回りの世話など、基本的な日常生活活動が極度に制限される | 呼吸器機能の大部分が失われ、常に酸素療法が必要な状態 |
3級 | 家庭内での軽作業や移動などの日常生活活動が著しく制限される | 呼吸器機能が著しく低下し、安静にしていても息苦しさを感じる状態 |
4級 | 社会での日常生活活動が著しく制限され、社会参加や就労において配慮が必要になる | 呼吸器機能が低下し、少しの動作でも息切れや呼吸困難が生じる状態 |
障がいの認定は、医師の診断に基づいて決定されます。障がいの認定を受けると身体障害者手帳を取得でき、障がい者のためのさまざまな公的支援を受けられるようになります。
出典:厚生労働省『身体障害者障害程度等級表(身体障害者福祉法施行規則別表第5号)』
呼吸器機能障がいを持つ方の仕事の悩み
呼吸器機能障がいを持つ方は、仕事においてさまざまな課題に直面することがあります。よくある仕事の悩みには、以下が挙げられます。
身体活動を伴う業務に制限がある
呼吸器機能障がいがあると、呼吸が激しくなるような身体活動が伴う業務に従事することが難しくなります。障がいの程度や症状によって身体活動の制限には差がありますが、以下のような動作に影響があります。
▼身体活動への制限例
- 階段の昇降を伴う移動
- 重い荷物の持ち運び
- 長時間の立ち仕事 など
また、満員電車での通勤や長距離の移動によって息切れが起こることもあり、働く場所や通勤手段への配慮が必要になります。
職場の空気環境に配慮する必要がある
呼吸器に負担をかけやすい空気環境は、症状を悪化させる原因になりかねません。そのため、以下のような環境は避ける必要があります。
▼呼吸器機能障がいの方が避けるべき環境
- 粉じんや化学物質、排気ガスなどが発生する場所
- 湿度が低く乾燥している場所
- 冷房や送風機の風が直接当たる場所 など
工場や建設現場、適切な空調管理が行われていない施設などで働く業務については、呼吸器機能障がいを持つ方に適さないといえます。
疲労が蓄積されやすい
呼吸器機能が低下していると、少しの動作でも息切れを起こしたり、体に必要な酸素を十分に取り込めなくなったりして疲労が蓄積されやすくなります。
疲労が蓄積されると、以下のような影響が出る場合があります。
▼疲労の蓄積による影響
- 体力が消耗して体調に波が生じやすくなる
- 体内の酸素が不足して集中力が低下する
- 睡眠の質が低下して日中に眠くなる など
また、身体的な影響だけでなく、「すぐに疲れやすい」「これまでできていた作業が難しくなった」といった理由で精神的な不調をきたすことも少なくありません。
外見では分かりにくい
呼吸器機能障がいを持つ方のなかには、外見だけでは障がいが分からないことがあります。
周囲からの十分な理解が得られず、必要な配慮やサポートを受けられない可能性があります。また、体調不良で休んだり、休憩を取ったりすることに抵抗を感じて、精神的なストレスにつながる人もいます。
呼吸器機能障がいの方が転職先を選ぶポイント
呼吸器機能障がいを持つ方が無理なく働くには、身体的な負担が少なく、空気環境が整った職場を選ぶことが重要です。転職先を選ぶ際に押さえておくポイントには、以下の3つが挙げられます。
➀デスクワークが中心
デスクワークの仕事は、座った姿勢で業務を進められるため、身体活動による呼吸器への負担を抑えられます。長時間の立ち仕事や重い物の持ち運びが困難な方にとって、安心して働きやすい仕事といえます。
▼デスクワークで行える仕事の例
- 事務職
- データ入力
- コールセンターのオペレーター など
②こまめな休憩をとりやすい
自身の体調や疲労感に応じてこまめに休憩がとれることは、呼吸器機能障がいを持つ方にとって非常に重要なポイントとなります。
転職先を選ぶ際は、「昼休憩を分割して取得できるか」「数時間おきに小休憩がとれるか」などを確認しておくことが必要です。
休憩を柔軟にとりやすい仕事には、以下が挙げられます。
▼休憩を柔軟にとりやすい仕事の例
- チームでの連携が少ない仕事
- 個人の裁量で業務のペースを調整しやすい仕事
- シフト制で柔軟な休憩時間を設定できる仕事 など
③時差出勤やフレックスタイム制を選択できる
呼吸器機能障がいによって満員電車や通勤ラッシュの疲労を感じる人もいます。
時差出勤やフレックスタイム制を導入している職場を選択することで、混雑する時間帯を避けて自分のペースで落ち着いて出社できます。
また、定期的な通院が必要な方にとって、始業時刻を柔軟に調整できることは仕事と治療の両立を実現するために欠かせない条件といえます。
呼吸器機能障がいを持つ方の転職活動の進め方
転職活動を進める際は、自身の障がい特性に応じて働き方や職場を選択するとともに、職場に対して求める配慮について選考段階で相談しておくことが大切です。
➀仕事と両立しやすい働き方を考える
長く安定して働くためには、仕事との両立がしやすい無理のない働き方を選ぶ必要があります。同じ呼吸器機能障がいを持つ方でも、その症状や原因、発作が起きる環境、身体活動の制限などは人によって異なります。
主治医に相談して就労上の条件や制限などを明確にしておくと、自分に適した仕事内容や職場を選択しやすくなります。
▼主治医に確認しておくこと
- 勤務時間の制限
- 身体活動の程度
- 休憩の頻度
- 在宅勤務の必要性 など
②就労形態(一般雇用・障害者雇用)を決める
呼吸器機能障がいで身体障害者手帳を取得している方は、一般雇用のほかに障害者雇用枠での就労が可能です。障害者雇用促進法により、民間企業は従業員の2.5%に相当する障がい者の雇用が義務づけられています。
一般雇用枠と障害者雇用枠のどちらを選ぶか、それぞれのメリット・デメリットを理解して自身に合った就労形態を選ぶことがポイントです。
▼一般雇用枠のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
|
|
▼障害者雇用枠のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
|
|
障害者雇用枠では、障がいを持つ方の適性や能力を生かして働ける環境をつくるための合理的配慮の提供が企業側に義務づけられているため、適切な配慮やサポートを受けやすいことが大きなメリットです。
障害者雇用の条件についてはこちらの記事をご確認ください。
障害者雇用の就労条件とは。一般雇用枠との違いや選考を受けるポイント
出典:厚生労働省『障害者雇用対策』
③転職先の会社を選定して応募する
就労形態が決まったら、転職を希望する会社を選定して求人に応募します。応募条件をよく確認して、自身が求める働き方や職場環境と合致しているか判断します。
障害者雇用枠での選考では、一般的に以下のような流れで進みます。
▼障害者雇用枠での選考フロー
- 書類選考
- 適性検査
- 面接
- 職場実習・トライアル雇用
- 内定
企業によっては内定の前に数日〜数週間の職場実習やトライアル雇用を提案される場合があります。「業務への適性があるか」「職場の雰囲気や環境になじめそうか」などを見極めるプロセスとなり、企業が業務内容や配属先を決定する判断材料になります。
なお、書類選考に必要になる職務経歴書の書き方は、こちらの記事をご確認ください。
障害者雇用での職務経歴書の書き方ガイド。基本の記載項目や押さえておくポイント
④企業への要望を整理して調整を依頼する
呼吸器機能障がいを持つ方は、業務内容や休憩の取り方、勤務時間、職場の空気環境などのさまざまな配慮を必要とします。
必要な配慮を明確にして採用担当者に伝えることで、業務の進め方や勤務形態、職場環境などを調整してもらいやすくなります。
▼採用担当者への伝え方の具体例
- 「立ち姿勢の維持は負担がかかるため、デスクワークを希望します。」
- 「軽作業は問題なく行えるが、小休憩を1時間に1回取得したいです。」など
また、自身の障がい特性や必要な配慮を伝えるだけでなく「何ができるか(得意か)」「会社にどう貢献したいか」など、前向きな姿勢をアピールすることもポイントの一つです。
転職活動には支援機関や外部サービスを活用しよう
「転職活動の進め方が分からない」「職歴やスキルに自信がなく選考を受けるのが不安」という方は、支援機関や外部サービスを活用することが有効です。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、ハローワークと連携して障がいを持つ方への専門的な職業リハビリテーションを行う施設です。
ここでは、障がいの特性を踏まえた就業評価や、就職に必要なスキルを身につける職業準備支援などを受けられます。職歴がない方やブランクがある方が「自分のペースで就労のための準備をしたい」という場合に適しています。
就労移行支援
就労移行支援は、一般企業への就職を目指す障がい者を対象とした福祉サービスです。
事業所に通いながら、就職に必要な知識・スキルを習得するための訓練を受けられます。応募書類の作成や面接の練習、職場見学の同行など、就職活動全般にわたるサポートが受けられるため、安心して就労準備を進められます。
障害者雇用向け転職エージェント
障害者雇用を専門とする転職エージェントを活用すると、ノウハウを持つキャリアアドバイザーが転職活動をトータルサポートしてくれます。
求職者の障がい特性や能力に合った求人の紹介に加えて、応募書類の添削や面接対策、企業との条件交渉、入社後のフォローまで、専門的な視点から一貫した支援を受けられます。
『エージェント・サーナ』は、障がいを持つ方を支援する転職エージェントサービスです。一人ひとりの希望やスキル、障がいの特性を丁寧にヒアリングしてぴったりな仕事を紹介します。選考対策や企業との条件交渉まで全面的にバックアップいたします。
呼吸器機能障がいの方が転職に成功した体験談を紹介
ここからは、呼吸器機能障がいの方が『エージェント・サーナ』を活用して転職に成功した体験談を紹介します。
【27歳/女性/事務職】就労移行支援事業所からの就職事例
就労移行支援事業所に通いながら初めての就職準備を進め、証券会社の事務職に就職された事例です。
▼就職理由
肺の移植手術によって症状が良化して働ける状態となったことから、就労移行支援事業所に通い就職準備を進めていました。そこで勧められたエージェント・サーナに登録して、本格的に就職活動を開始しました。
▼就職活動の状況
「身体への負担が少ない事務職」「駅から近い勤務先」という条件を優先して希望に沿った会社の紹介を受けました。「自身のスキルや障がい内容を的確に伝える」というアドバイスを踏まえて選考を受けたことで、紹介された証券会社での就職が決まりました。
▼就職後の感想
アルバイト経験はあったものの就職は初めてだったため不安もありましたが、職場の人の声かけや業務のサポートもあり、自分らしく働ける職場と出会えました。残業がなく福利厚生も充実しており、労働条件面にも満足しています。
初めての就職で不安でしたが、懇切丁寧な面接対策で自信がつきました
まとめ
呼吸器機能障がいを持つ方が無理なく働くためには、身体活動が少なく空気環境が安定した環境で働ける仕事や、柔軟な勤務形態を導入している職場を選ぶことが大切です。
呼吸器機能障がいの症状や身体活動の制限などは人によって異なるため、転職活動時には採用担当者に対して自身の障がい特性や必要な配慮を明確に伝えておくことが重要です。
また、一人で悩まずに地域障害者職業センターや就労移行支援、転職エージェントなどの専門サービスを積極的に活用することで、スムーズに転職活動を進められます。
『エージェント・サーナ』は、30年以上の実績を持つ障がい者のための転職エージェントです。独自のネットワークによって非公開求人を多数保有しており、障がい者雇用に精通したキャリアアドバイザーによる精度の高い求人マッチングが強みです。