障がいをお持ちの方の場合、障害者雇用を活用することで特性に応じた配慮を受けながら安心して働ける環境を実現しやすくなります。
一方で、「障害者雇用で働きたいけれど、正社員になれるかが不安」「もし正社員になれなかったら、将来が心配」などとお考えの方もいるのではないでしょうか。
障害者雇用でも正社員になること自体は可能です。一方で、誰もが簡単に正社員になれるとは限らないため、いくつかのポイントを押さえる必要があります。
この記事では、障害者雇用の正社員事情と、正社員を目指すための具体的なポイントを解説します。
目次
障害者雇用における正社員登用の現状
障害者雇用においては、実際にさまざまな方が正社員として安定した雇用を実現しています。ただし、障がいの種類や企業の取り組みにより状況は異なるため、現状を正しく把握することが重要です。
正社員として働く障がい者の割合
障害者雇用における正社員の割合は、以下のとおりです。
障がい者雇用における正社員の割合
障がいの種類 | 無期契約の正社員 | 有期契約の正社員 |
身体障がい | 53.2% | 6.1% |
知的障がい | 17.3% | 3.0% |
精神障がい | 29.5% | 3.2% |
厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」より作成
数値だけ見ると決して高いとはいえない状況ですが、実際に正社員として活躍している方もいるため、障がい者雇用の制度自体が正社員への道を閉ざしているとはいえません。
特に身体障がい者については半数以上が正社員として雇用されており、適切な支援体制のもとで安定した雇用環境が実現されています。
出典:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」
障がい者の正社員登用を推進する制度
国は、障がい者の正社員登用を後押しする制度を設けています。その代表的なものが、有期雇用や無期雇用で働く障がい者を正規雇用に転換した企業が受けられる「キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)」です。
この助成金は、企業が正社員雇用に踏み切る際の経済的な負担を軽減し、障がい者にとって働きやすい環境を整えることを目的としています。
このような制度の充実により、企業と障がい者双方にメリットがある雇用形態の選択肢が広がり、長期的なキャリア形成を見据えた就労が実現しやすくなっています。
出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)」
障がい者雇用で正社員になれない場合に考えられる原因
正社員を目指していてもなかなか内定に結びつかない場合、体力面や業務スキル、企業側の懸念など複数の原因が考えられます。
フルタイムの労働が難しいと判断されている
障がいの特性により体力や集中力の持続が困難な場合、フルタイム勤務が必要な正社員としての採用は難しいと判断される場合があります。
企業としては労働生産性や業務の継続性を重視するため、安定したフルタイム勤務が見込めない場合は慎重になります。正社員での雇用を希望する場合、フルタイムでの安定した勤務が可能であることを、企業に明確に伝える工夫が必要です。
また、近年では短時間正社員制度をはじめとする柔軟な働き方を導入する企業もあるため、このような制度が整っている企業の求人を探す方法もあります。
正社員に求める能力・スキルを満たしていない
業務に対応するための能力やスキルが不足している場合、正社員での雇用は難しくなります。
正社員に登用されるには、障がいに関わらず、社会人としての基礎的な能力や業務遂行に必要なスキルが必要です。具体的には、コミュニケーション能力や自己管理能力、業務に必要な資格や知識などが挙げられます。
加えて、障害者雇用の場合は自己理解に基づいた労働の安定性や、自身の特性を把握し適切な配慮を求められるスキルも欠かせません。
これらの能力やスキルが不足していると判断された場合、採用は見送られやすくなります。総合的な能力の向上が、正社員としての採用可能性を高める重要なポイントです。
短期離職を懸念されている
正社員は、労働負荷や責任が大きいことで短期離職されるリスクもあるため、企業側としては契約社員や派遣社員よりも慎重になりやすい雇用形態です。
特に障害者雇用においては業務負荷により体調不良や適応困難を招く可能性が考えられ、短期離職のリスクにつながります。
そのため、最初は契約社員やアルバイトとして雇用し、一定期間働いてもらいながら適性や勤怠状況を見極めてから正社員への転換を打診する企業も存在します。
障がい者雇用で正社員になるメリット・デメリット
正社員として働くことで多くのメリットが期待できる一方で、デメリットもあります。
自分にとって正社員という働き方が最適かを見極めるためには、双方をしっかりと比較することが重要です。
正社員のメリット
正社員のメリットとしては、収入や働き方の安定が挙げられます。
正社員のメリット
- 収入が安定する
- 簡単には解雇されにくい など
正社員は月給制が基本となるため、毎月決まった額の給与が受け取れ、生活の見通しを立てやすくなります。ボーナスや退職金制度が適用される企業も多く、経済的な安定につながります。
また、正社員は解雇されにくい点も重要なメリットです。企業は正社員を長期的に雇用する前提で採用するため、よほどのことがない限り雇用は継続されます。これは、特に障がいがある方にとって、安心してキャリアを築いていくうえで大きな強みです。
さらに、収入や雇用の安定によって、住宅ローンやクレジットカードの審査において有利になるケースも見られ、生活基盤の安定に貢献します。
正社員のデメリット
障がいをお持ちの方の場合、正社員雇用による労働面での負担が特にデメリットになりやすいと考えられます。
正社員雇用のデメリット
- パートやアルバイトと比べて残業が発生しやすい
- 柔軟な働き方が難しい
- 責任が重くなることで精神的な負担になる
正社員は、非正規雇用に比べて業務量が増えたり、残業が発生したりすることも少なくありません。特に障がいの特性により疲労が蓄積しやすい方にとって、長時間労働は体調管理における重要な課題です。
また、勤務時間や働き方の柔軟性が低い場合もあり、障がい特性に合わせて勤務時間を調整したい方にとってデメリットとなります。
さらに、任される仕事の責任が重くなることから、精神的な負担になりやすいと考えられます。ストレスが障がい・病気に影響する場合には慎重な判断が必要です。
自身の障がい特性を踏まえてこれらのデメリットを考慮し、正社員として働くことが自身に合った選択肢なのかを十分に検討することが欠かせません。
障がい者雇用で正社員を目指す際のポイント
障がい者雇用で正社員を目指すためには、ただ求人に応募するだけではなく、適切な対策が求められます。自己理解に基づく安定した就労と、継続的なスキル向上が重要なポイントです。
自身の障がいを理解して就労を安定させる
正社員として長く働くためには、自身の障がいを深く理解し、安定して勤務し続けられることが重要です。体調管理を徹底し、ストレスと上手に付き合う方法を見つけることが欠かせません。
例えば、規則正しい生活を送ったり、適度な運動を取り入れたりすることで、心身の健康を保つことが可能です。定期的な通院や服薬管理も含めた包括的な自己管理により、企業側に対して安定した労働力としての信頼性をアピールできます。
加えて、自身の障がい特性に応じた配慮事項を正確に伝えられるようにしておくことも重要です。「このような配慮があれば安定して働ける」と示すことで採用担当者に安心してもらえるほか、自身にとって働き続けやすい環境の実現にもつながります。
スキルアップや資格の取得を図る
正社員として企業に貢献するためには、担当職種に関連するスキルや資格の習得が効果的です。例えば、事務職を目指すのであれば、パソコンスキルを身につけたり、簿記の資格を取得したりすることで、企業からの評価を高められます。
また、業務に関するスキルだけでなく、円滑な人間関係を築くためのコミュニケーション能力や、社会人としての基本的なマナーを身につけることも重要です。障がいの有無にかかわらず職場での信頼関係構築に直結するため、継続的な改善に努めることで正社員登用の可能性を高められます。
就労移行支援を活用する
就労移行支援は、障がい者が企業での就労を目指すための総合的なサポートを提供する福祉サービスです。
このサービスでは、個々の障がい特性に応じた職業訓練や、ビジネスマナー研修、パソコンスキル習得などの実践的なプログラムを受講できます。また、企業実習や職場見学を通じて実際の業務環境を体験し、自身の適性を確認できる機会も提供されています。
就労移行支援の活用によって、個人で就職活動を行うよりも効率的に正社員登用への道筋を描くことが可能です。
障がい者雇用で正社員への転職に成功した事例
実際に障がい者雇用で正社員として転職を成功させた方の事例を参考にすることで、具体的な取り組み方法を学べます。
N.I.(32歳 男性)さんのケース
下肢障がいを持つN.I.さんは前職での正社員登用が難しかったため転職を決意しましたが、転職回数が多いために正社員での入社が難しい状況でした。
成功のポイントは、転職回数の多さというマイナス要素を面接でどのように説明するかを転職エージェントと綿密に準備し、丁寧な面接対策を重ねたことにあります。
面接対策や企業への伝え方をキャリア・アドバイザーから丁寧にサポートしてもらい、希望に沿った求人を複数提案してもらえたことで、事務関連職の正社員として転職を成功させました。
現在は事務関連の職歴とプログラマー経験を活かし、データ入力や集計、電話対応などの業務を担当しています。
S.N.(35歳 男性)さんのケース
心臓障がいを持つS.N.さんは、これまでの経験を活かせる正社員のポジションを希望し、証券会社の総務部への転職を成功させました。
転職エージェントで希望を丁寧にヒアリングしてもらい、非公開求人を含む豊富な情報提供を受けたことで、複数の優良企業と出会えました。
また、S.N.さんの経歴や性格を踏まえたアピールポイントをキャリア・アドバイザーと一緒に検討し、質疑応答の練習を重ねた点も、転職の成功につながった大きなポイントです。これにより、自信を持って面接に臨むことができました。
転職先では取引内容のデータ化や営業利益の確認、コンプライアンスチェックなど、エクセルを使ったデータ処理の経験が直接活かせる業務に従事しています。
T.H.(45歳 女性)さんのケース
視覚障がいを持つT.H.さんは学校の嘱託教師から事務職へのキャリアチェンジを果たし、法務・知的財産部門での正社員転職を成功させました。
T.H.さんは、これまでの職場では障がいをオープンにしてこなかったため、障害者雇用での転職活動は初めての挑戦でした。転職エージェントの専門的なサポートによって、面接での受け答えや障がいの伝え方などを習得することに成功しています。
また、転職エージェントから障害への理解が深い企業を紹介してもらったことで、入社後のミスマッチも防げました。
現在は法務関係の庶務業務を担当し、教員時代のPC経験を活かして早期に業務に適応し、社内の各部署からの相談対応を通じてやりがいを感じています。
U.S(45歳 女性)さんのケース
下肢障がいを持つU.Sさんは、大学での嘱託職員から大手非鉄金属メーカーの子会社へ正社員転職を成功させました。
前職では7年間嘱託社員として正社員登用を目指していましたが、叶わなかったうえに残業も多かったことが、転職を決意した理由です。
転職活動では「正社員として雇用」「給与が下がらない」「駅から近い」という3つの明確な条件を設定しました。転職エージェントから希望条件を満たす求人を多数紹介してもらったことで、妥協なく活動し続けられました。
現在は希望条件を満たす企業の資材部で海外からの原料仕入れを担当し、発注から貿易業務、支払手続きまでの輸入関連業務を管理しています。さらに貿易業務の属人化を解消するためのマニュアル作成や若手社員の育成も担当するなど、主体的に職場改善に取り組んでいます。
正社員雇用を目指すならキャリア・アドバイザーへの相談がおすすめ
正社員を目指す障がい者にとって、一人での転職活動は多くの不安を伴います。そのような場合、障がい者雇用に詳しいキャリア・アドバイザーに相談する方法が有効です。
障がい者のための転職エージェント「エージェント・サーナ」では、30年間にわたり障がい者の転職支援を行っており、専門のキャリア・アドバイザーと二人三脚で転職活動を進められます。
キャリア・アドバイザーが一人ひとりの希望や価値観をじっくりとヒアリングしたうえで、最適な求人マッチングを実現します。面接対策や企業との条件交渉もサポートするため、安心して転職活動に集中することが可能です。
まとめ
障がい者雇用において正社員になることは決して不可能ではなく、適切な準備と戦略的なアプローチにより実現できる目標となります。
自身の障がい特性を理解して安定した就労を維持し、業務に必要なスキルや資格を継続的に習得することが正社員登用への重要なステップです。また、就労移行支援や転職エージェントなどの専門的なサポートを活用することで、正社員雇用を目指すための転職活動を円滑に進めやすくなります。
「エージェント・サーナ」では、プロのアドバイザーがあなたに寄り添い、障がいの特性に合った求人のマッチングや書類作成、面接対策のサポートなどを実施いたします。障害者雇用で正社員を目指したい方はぜひご相談ください。