
下肢に障害があっても、自分の能力を活かせる仕事は数多く存在します。座位での作業を中心とした職種や、通勤負担を軽減できる制度など、働き方の選択肢はさまざまです。
本記事では、下肢障害のある方が安心して働ける職場環境の条件や、実際の転職成功事例を解説します。
目次
下肢障害とは
下肢障害は、身体障がいにおける肢体不自由の一種で、病気や事故、先天性の要因などによって股関節から足の指までの下肢に障がいを抱えた状態です。
下肢の機能が損なわれることで、歩行や立位保持が困難になったり、可動域に制約が出たりするケースが見られます。
障がいとしての等級は1から7級までありますが、7級単独では身体障がい者手帳を取得できません。7級は二つ以上重複している場合に、6級として扱われて手帳の取得が可能になります。
出典:厚生労働省「身体障害者障害程度等級表(身体障害者福祉法施行規則別表第5号)」/長野県「身体障害者手帳 Q&A 申請編」
下肢障害の種類
下肢障害は部位によって大きく5つに分けられ、それぞれで認定される障がい等級が異なります。
下肢の機能障がい
下肢の機能障がいは、病気や事故などにより下肢の運動能力や支持能力が損なわれた状態です。障がいの程度により、1級から4級、および7級が認定されます。
下肢の機能障がいにおける認定基準
| 等級 | 対象 | 障がいの程度 |
| 1級 | 両下肢 | 全廃 |
| 2級 | 両下肢 | 著しい障がい |
| 3級 | 一下肢 | 全廃 |
| 4級 | 一下肢 | 著しい障がい |
| 7級 | 一下肢 | 軽度の障害 |
東京都福祉局「第3 肢体不自由」を基に作成
「全廃」とは、運動性と支持性をほとんど失った状態です。また、「著しい障がい」や「軽度の障がい」は、歩行をはじめとする動作における困難の程度で判断されます。
下肢の機能障がいの判断材料となる動作
- 歩く
- 平衡をとる
- 昇る
- 立つ
- 身体をまわす
- うずくまる
- 膝をつく
- 座る など
出典:東京都福祉局「第3 肢体不自由」
下肢の欠損
下肢の欠損は、病気や事故により下肢の一部または全部を失った状態を指します。欠損した部位や範囲によって、身体障がい者手帳の1級から4級、および6級が認定されます。
下肢の欠損における認定基準
| 等級 | 対象 | 障がいの程度 |
| 1級 | 両下肢 | 大腿の2分の1以上を欠く |
| 2級 | 両下肢 | 下腿の2分の1以上を欠く |
| 3級 | 両下肢 | ショパール関節以上を欠く |
| 一下肢 | 大腿の2分の1以上を欠く | |
| 4級 | 一下肢 | 下腿の2分の1以上を欠く |
| 6級 | 一下肢 | リスフラン関節以上で欠く |
東京都福祉局「第3 肢体不自由」を基に作成
下肢の欠損がある場合、義足や車椅子などの補助具を利用するケースが一般的です。働く際は、職場のバリアフリー環境が特に重要となります。
出典:東京都福祉局「第3 肢体不自由」
足指の機能障がい・欠損
足指の機能障がい・欠損では4級もしくは7級が認定されます。
足指の機能障がい・欠損における認定基準
| 等級 | 対象 | 障がいの程度 |
| 4級 | 両下肢の指 | すべてを欠く |
| すべての機能を全廃 | ||
| 7級 | 両下肢の指 | すべての機能の著しい障がい |
| 一下肢の指 | すべてを欠く | |
| すべての機能を全廃 |
東京都福祉局「第3 肢体不自由」を基に作成
足指は立位時のバランス保持や歩行時の蹴り出しに重要な役割を果たしています。そのため、足指に障害があると、長時間の立ち仕事や不安定な場所での作業が困難になる場合があります。
出典:東京都福祉局「第3 肢体不自由」
関節の機能障がい
関節の機能障がいは、股関節や膝関節、足関節など下肢の主要な関節の動きに制限がある状態です。この障がいに対しては、4級から7級が認定されます。
関節の機能障がいにおける認定基準
| 等級 | 対象 | 障がいの程度 |
| 4級 | 一下肢の股関節
一下肢の膝関節 |
全廃 |
| 5級 | 一下肢の股関節
一下肢の膝関節 |
著しい障がい |
| 一下肢の足関節 | 全廃 | |
| 6級 | 一下肢の足関節 | 著しい障がい |
| 7級 | 一下肢の股関節
一下肢の膝関節 一下肢の足関節 |
軽度の障がい |
東京都福祉局「第3 肢体不自由」を基に作成
これらは、各関節における可動域の角度や徒手筋力テストによって判断されます。
関節の可動域における制限は、階段の昇降や長距離の移動に支障をきたす原因となりますが、エレベーターやスロープが整備されていれば影響を抑えることが可能です。
出典:東京都福祉局「第3 肢体不自由」
下肢の短縮
下肢の短縮は、病気やけが、または先天的な要因により、左右の足の長さに差が生じている状態です。健康な側(健側)と比べてどの程度の長さの違いがあるかによって、4級、5級、7級のいずれかが認定されます。
下肢の短縮における認定基準
| 等級 | 対象 | 認定基準 |
| 4級 | 一下肢 | 健側に比して10センチメートル以上、または健側の長さの10分の1以上短い |
| 5級 | 一下肢 | 健側に比して5センチメートル以上または健側の長さの15分の1以上短い |
| 7級 | 一下肢 | 健側に比して3センチメートル以上または健側の長さの20分の1以上短い |
東京都福祉局「第3 肢体不自由」を基に作成
足の長さが異なると、歩行時にバランスを取りにくくなり、姿勢や腰への負担が大きくなることがあります。
出典:東京都福祉局「第3 肢体不自由」
下肢障害による仕事への影響
下肢障害があると、職場での移動や通勤、業務内容などさまざまな場面で制約を受ける可能性があります。
社内での移動がスムーズにできない
下肢障害を抱えている場合、車いすや義足、松葉づえなどを用いるケースが多くなるため、社内での移動に時間がかかったり、困難が生じたりします。
社内での移動がスムーズに行えないケースの例
- 階段の昇降
- 狭い通路の移動
- トイレや休憩室への移動 など
特に古い建物では段差が多く、エレベーターが設置されていない場合もあるため、フロア間の移動が難しくなりやすいといえます。
社内での移動がスムーズに行えない場合、心身への負担になるだけでなく業務効率の低下も懸念されます。
通勤時に負担がかかる
電車やバスなど公共交通機関を使う場合、特に通勤ラッシュの時間帯には負担が大きくなります。混雑した車内では転倒のリスクが高まり、車椅子や松葉杖を使用している場合は乗降にも時間を要します。
駅構内の移動や階段の昇降も、大きな負担となる要素です。エスカレーターやエレベーターの位置によっては遠回りを強いられることもあります。
加えて、雨天時のように足元が不安定な天候の場合、移動はさらに困難になります。
業務内容が制限される
下肢障害の特性上、業務内容が制限される場合があります。立ち仕事や力仕事、頻繁な移動が必要な業務などは下肢への負担が大きいため、遂行が難しくなりやすいといえます。
下肢障害で制限される業務の例
- 製造業や小売業での立位作業
- 現場仕事や倉庫作業での運搬作業
- 外回りの営業 など
また、股関節に障がいがある場合は長時間同じ姿勢でいることも負担となるため、座り仕事でも職場環境によっては業務に支障をきたす可能性が考えられます。
下肢障害を抱えて仕事をするために必要な職場環境
下肢障害のある方が安心して働き続けるには、物理的な環境整備だけでなく、柔軟な勤務制度や周囲の理解も欠かせません。これらの要素が揃った職場では、障害による制約を軽減できるため、自分の能力を最大限に発揮しやすくなります。
バリアフリーな職場
日常業務を円滑に進めるためには、下肢障がいでも利用しやすいバリアフリーな職場環境が重要です。
バリアフリーな職場環境の例
- バリアフリートイレが設置されている
- スロープ、手すりの設置によって移動がしやすい
- 机や椅子の高さを調節できる
- 駐車場から職場までの動線に段差がない
- 雨天時に濡れずに移動できる など
こうした設備面の充実は、毎日の通勤や業務遂行における身体的負担を大きく軽減し、長期的なキャリア形成を支える基盤となります。
柔軟な働き方ができる職場
下肢障害を抱えて無理なく働き続けるには、柔軟な対応が可能な職場環境が重要です。
時差出勤制度やフレックスタイム制などがあると通勤ラッシュを避けられるため、通勤時の身体的負担を大幅に減らせます。混雑した時間帯を避けることで、転倒リスクの低減や乗降時のストレス軽減が可能です。
また、体調に応じて業務を調整できると負担を軽減できます。このような柔軟な働き方ができる職場は、障がいの有無に関わらず、従業員が最大限のパフォーマンスを発揮しやすい環境といえます。
周囲の理解を得やすい職場
制度や設備だけでなく周囲の助けも必要です。重い荷物の運搬や高所の物の取り出しなど、日常業務の中で発生する細かなサポートは、同僚の協力があってこそスムーズに進みます。
障害特性や必要な配慮について、上司や同僚に適切に伝えられる環境があるかも重要なポイントです。定期的な面談の機会や、困ったときに相談できる窓口が設けられている職場では、問題が大きくなる前に解決策を見出せます。
また、ダイバーシティ研修や障害理解研修を実施している企業では、自然な形でサポートし合う文化が醸成されており、働きやすさにつながっています。
下肢障害をお持ちの方に向いている仕事の例
下肢障害のある方には、基本的には座ってできる仕事がよいとされています。座位を中心とした業務であれば、移動の負担を最小限に抑えながら、専門性や能力を活かして働けます。
下肢障害をお持ちの方に向いている仕事の例
- 一般事務
- 経理
- 人事
- 法務
- ITエンジニア
- Webデザイナー など
ただし、座り仕事でも負担がかかる症状の場合には、長時間座り続けることが求められる職場は避けた方がよいといえます。特に股関節に障害がある方は、定期的に姿勢を変えられる業務内容や、立位と座位を切り替えられる環境を選ぶことが重要です。
下肢障害を抱えて転職に成功した事例
下肢障害があっても、適切な支援を受けながら転職活動を進めることで、自分に合った職場を見つけられます。ここでは、実際に転職を成功させた方の事例を紹介します。
W.A(44歳 男性)さんのケース
W.Aさんは前職で約10年間勤務していましたが、倉庫での業務に異動となり、移動が多い仕事内容が身体に大きな負担となったため、転職を決意しました。
転職活動では移動を伴う業務が少ない職場を最優先に考え、通勤時間の短縮も希望条件として掲げました。転職エージェントのサポートを受けながら、複数の企業に応募し、面接での受け答えの仕方などを丁寧に指導してもらったことが成功につながっています。
最終的に日用品メーカーの人事部に正社員として採用され、デスクワークが中心となったことで身体への負担がほとんどなくなりました。さらに週に2~3日の在宅勤務が認められ、通勤負担も大幅に軽減されています。
K.M.(42歳 男性)さんのケース
K.M.さんは18年間勤務した会社で、障がいへの理解が得られず苦しい思いをしていたため、転職を決意しました。
転職においては、公共交通機関での長距離通勤を避けるために車通勤が可能なことと、前職と同程度に福利厚生が充実していることの2点を重視して活動を進めました。
現在は事務サービス関連の特例子会社(※)に勤め、障がいの有無関係なく活躍できる環境のなかでさまざまな業務を任されています。
最初は特例子会社への応募に消極的だったものの、転職エージェントのアドバイザーから丁寧な説明を受けたことが応募の決め手となりました。
※特例子会社とは、障がい者の雇用促進と安定を目的として設立される子会社のこと
S.H(24歳 女性)さんのケース
S.Hさんは前職では下肢障がいを考慮してコールセンターに就職しましたが、実際に働いたところ座り続けることによる下肢への負担があり、自由に休憩も取りにくいことで仕事の継続が難しくなりました。
より障がいへの配慮を得られる環境を求めて転職エージェントのキャリア・アドバイザーに相談したところ、希望に合う職場への紹介を受けられました。
現在の職場では、総務と経理の両方で事務サポートを担当し、社外宛ての郵便手配、伝票記入、郵便物の配布などの業務を行っています。これらの仕事では負担にならない程度に身体を動かせるため、座りっぱなしにならず快適に働けています。
キャリア・アドバイザーへの転職相談がおすすめ
下肢障害を抱えながらの転職活動では、専門的な知識と経験を持つキャリア・アドバイザーのサポートを受けることが成功への近道となります。
障害者雇用に特化した転職エージェントであれば、バリアフリー環境や柔軟な働き方が整った企業の情報を豊富に持っており、キャリア・アドバイザーから一人ひとりの障害特性や希望条件に合わせた求人を紹介してもらえます。
「エージェント・サーナ」は、身体障がい・内部障がいのある方の転職を30年間支援してきた実績があり、企業との信頼関係も厚い転職エージェントです。書類作成のアドバイスや面接対策、企業との条件交渉など、転職活動の各段階で丁寧なサポートを提供しています。
まとめ
下肢障害があっても、適切な職場環境と周囲の理解があれば、自分の能力を十分に発揮して働けます。座位を中心とした事務職やIT関連職種など、下肢への負担が少ない仕事は多数存在しています。
転職を成功させるには、バリアフリー設備や柔軟な勤務制度が整った企業を選ぶとともに、自分の障害特性や必要な配慮を適切に伝えることが重要です。
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