上肢障がいを持つ方は、手や腕、指の動作に困難を持つことから、仕事においてもさまざまな制限が生じます。「どのような仕事が向いているのか」「どのような転職先を選択すればよいか」などと悩まれる方もいるのではないでしょうか。
上肢障がいがあっても自身の特性に合った仕事内容や職場環境を選択することで、スキルや経験を活かして活躍することができます。
この記事では、上肢障がいを持つ方の仕事制限や働きやすい転職先の条件、向いている仕事内容、選択できる就労方法などについて解説します。
目次
上肢障がいの特性
上肢障がいは、肩・肘・手などの機能に障がいがあり、モノの操作を伴う日常生活の動作が困難となる状態を指します。
その原因や程度、障がいのある部位、残された機能は人によって大きく異なります。障がいの原因には、生まれつき(先天性)のものもあれば、事故や病気などによって生じる後天性のものもあります。
主な障がいの内容としては、以下が挙げられます。
▼上肢障がいの例
- 上肢の形成不全
- 上肢の欠損
- 運動機能不全 など
身体障害者福祉法における障害程度等級では、上肢障がいは“肢体不自由”に区分されています。障がいの程度に応じて1~7級までの等級が定められており、そのうち1~6級に該当する方は身体障害者手帳を取得することが可能です。この手帳を持つことで、さまざまな公的支援やサービスを利用できるようになります。
出典:厚生労働省『身体障害者障害程度等級表』『身体障害者手帳制度の概要』
上肢障がいを持つ方の仕事の制限
上肢障がいを持つ方は、肩から腕、手首、指などの動作に制限が生じるため、仕事においてもさまざまな影響が出ることがあります。障がいの内容によって動作の制限は異なりますが、一般的に以下のような作業が困難になると考えられます。
手先や道具を使った細かな作業
上肢の機能に制限がある場合は、手先や指先を繊細に使う作業や、道具を精密に操作する作業が難しくなります。例えば、ものを握る・つまむ・隙間に通すなどの動作がスムーズに行えないことがあります。
▼作業の具体例
- 部品の組み立て
- 商品の梱包
- 精密機械の操作など
これらの作業は、指先の微妙な感覚や動きが求められるため、障がいの内容によっては対応が難しい場合があります。
両手を同時に使う作業
上肢障がいがあると、両手を同時に使う作業も困難になることがあります。片方の手で物を固定しながらもう一方の手で作業を進めたり、重い物を両手で持ち上げたり、下ろしたりする動作などが挙げられます。
▼作業の具体例
- 製造ラインでの作業
- 調理
- 荷物の積み下ろし など
これらの作業では、両手の協調した動きが不可欠となるため、片方の手のみでの対応が難しい場合があります。
身体活動量が多い作業
上肢障がいを持つ方にとって、身体活動量が多い作業は避けたほうがよいと考えられます。激しい動作や長時間の肉体労働は、身体的な負担が大きくなるだけでなく、転倒などの事故につながるおそれもあります。
▼作業の具体例
- 重い荷物の運搬
- 立ち姿勢での長時間の作業
- 社外での頻繁な移動 など
これらの作業は体力的な負担が大きく、上肢障がいを持つ方には適さない場合があります。
上肢障がいの方が働きやすい就職・転職先の条件
上肢に障がいを持つ方は、細かな手作業や激しい動作が発生しない仕事や、物理的に安全な環境で働ける仕事を選ぶことが大切です。就職・転職先を選ぶ際に確認しておきたい条件には、以下が挙げられます。
上肢の機能を補う支援機器・ツールを活用できる
上肢の機能を補填・補完したり、残存機能を使った作業を効率化・省力化したりする支援機器・ツールを活用できる職場が求められます。
例えば、パソコンでの作業や電話応対の作業を補助する支援機器・ツールには、以下のようなものがあります。
▼支援機器・ツールの例
- キーボード・マウスの入力補助具
- 音声認識ソフト
- ヘッドフォン式の電話受話器 など
これらの支援機器・ツールを用意している職場を選ぶことにより、上肢障がいがあっても従事できる業務の選択肢が広がります。
バリアフリー環境が整備されている
物理的な制約を取り払うバリアフリー環境が整備されていることも職場に求められる条件の一つです。上肢障がいを持つ方に必要な設備や環境には、以下が挙げられます。
▼上肢障がいを持つ方に求められるバリアフリー環境
- 階段やトイレへの手すりの設置
- 自動ドア
- センサー式の蛇口 など
歩行時に身体を支えるための設備や非接触で操作できる設備があると、スムーズに社内を移動することができ、円滑な業務遂行と安全性の向上につながります。
柔軟な勤務・通勤方法を選択できる
上肢障がいを持つ方は、歩行や段差の昇り降りに時間がかかったり、身体に負担がかかったりすることがあります。
毎日の通勤に心身の負担を感じやすい方は、通勤・帰宅ラッシュを避けて通勤できる制度を利用できる勤務形態を導入している企業を選びましょう。
▼勤務形態や通勤制度の例
- 時差出勤制度
- フレックスタイム制度 など
柔軟な働き方を選択できる会社を選ぶことは、電車やバスの乗り降りや混雑する駅構内での転倒事故を防ぐことにもつながります。
就業上の配慮やサポートを受けやすい風土がある
入社後も安定して長く働くためには、障がいへの理解があり、就業上の配慮やサポートを受けやすい企業風土がある職場を選ぶことが大切です。
例えば、「同僚や上司にサポートを依頼しにくい」「通院のために休暇を取ることに後ろめたさがある」といった職場は、働きづらさを感じてしまうことがあります。従業員一人ひとりを大切にする企業風土があるか、以下を確認しておくことが必要です。
▼企業風土をチェックするポイント
- 障がい者の雇用実績がある
- 障がいを持つ人と働くことに関する社内研修がある
- 社内に相談窓口がある
- 定期面談を実施している など
上肢障がいを持つ方に向いている仕事4選
上肢障がいがあっても補助具や支援機器・ツールを活用したり、職場での適切なサポートを受けたりすることで自身の能力を活かした就労が可能です。ここでは、上肢障がいを持つ方が働きやすい仕事と向いている人の特徴について紹介します。
➀事務職
事務職はデスクワークが中心のため、上肢の機能に制限がある場合でも働きやすい仕事といえます。障がいの特性に合わせて、パソコン操作を補助する支援機器・ツールを活用することで、スムーズに業務を進めることが可能です。
一般事務のほか、経理や人事労務、法務などのさまざまな仕事があります。
▼事務職の主な業務内容
- 業務システムへのデータ入力・処理
- 書類や帳票の作成
- ファイリング
- 電話応対・メール対応 など
定型的な業務を正確にコツコツとこなすことが得意な方や、事業活動を支える裏方としてサポートする仕事にやりがいを感じる方に向いています。
②オペレーター
カスタマーサポートのオペレーターは、手先を使った複雑な作業が発生しないため、上肢障がいを持つ方が活躍しやすい職種の一つです。
▼オペレーターの主な業務内容
- 電話対応
- 応対履歴の作成
- システムへのデータ入力 など
受話器を持つ必要がないヘッドセットや、キーボードへの入力を支援する補助具などを活用することで、動作の制約を感じにくくなります。さまざまな業界や雇用形態の求人があるため、自身が興味のある分野や無理のない働き方を選択できます。
③Webクリエイター・プログラマー
Webクリエイターは、パソコンやタブレット、専用ソフトウェアを使ってコンテンツを制作する専門職です。プログラマーは、コードを入力してシステムを開発する技術職です。
これらのIT関連の専門職は、タッチパネル式のデバイスやペンを用いた入力を行える補助機器を用意することで、上肢の機能を補助しながら業務を行うことが可能です。
▼Webクリエイターの主な業務内容
- Webコンテンツの企画
- 文章・画像・動画などのコンテンツの制作
- クライアントとの打ち合わせ・連絡対応 など
▼プログラマーの主な業務内容
- 設計書に基づいたコーディング
- 動作テストの実施・修正
- システムやデータベースの保守管理 など
定型的な業務よりも「自身が持つ創造力を発揮したい」「専門スキルで安定したキャリアを築きたい」という方に向いています。
④法務や会計に関する専門職
法律や会計などに関する専門職は、専門的な知識と資格を活かせる仕事です。デスクワークが中心となり、複雑な手作業や身体的な運動が少ないため、上肢障がいを持つ方が働きやすい職種といえます。
▼有資格者が従事できる専門職の具体例
- 公認会計士
- 司法書士
- 行政書士
- 宅地建物取引士 など
国家資格を取得することで、就職・転職活動で自身のスキルをアピールができるほか、キャリアアップも目指せます。待遇のよさを求める方や安定したキャリアを築きたい方に向いています。
上肢障がいの方が選択できる就労方法
上肢障がいがある方は、一般雇用だけでなく自身の障がいの特性に合わせたさまざまな働き方を選択できます。ここでは、選択できる主な就労方法について解説します。
障害者雇用枠
障害者手帳を持っている方は、企業の障害者雇用枠を利用して就労することが可能です。
障害者雇用促進法では、従業員を一定数以上雇用する民間企業に対して、従業員の2.5%に相当する障がい者の雇用が義務づけられています。
厚生労働省の『令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書』によると、障害者雇用者数のうち、上肢障がいを含む肢体不自由の割合が35.4%ともっとも多く、上肢障がいを持つ方が一般企業で活躍しています。
障害者雇用枠での就労には、一般雇用と比べてさまざまなメリットがあります。
▼障害者雇用枠で就労するメリット
- 上肢障がいの特性に応じて業務内容や配置を検討してもらえる
- 仕事において必要な配慮やサポートを受けられる
- 障がい者雇用の実績があるため、周囲の理解を得やすい
- トライアル雇用を利用してマッチ度を見極められる など
出典:厚生労働省『障害者雇用対策』『令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書』
特例子会社
特例子会社とは、企業が障がい者の雇用を促進するために、特別な配慮のもとに設立した会社です。障がいのある方が働きやすいように、職場環境や業務内容が工夫されています。
特例子会社で働くことで、上肢障がいの特性を理解してもらいやすい環境のなかで自身の能力を最大限に発揮することが期待できます。
出典:厚生労働省『「特例子会社」制度の概要』
就労継続支援A型・B型
障害総合支援法に基づいて提供される就労継続支援は、障がいを持つ方が一般企業での就労が難しい場合に、適切な支援を受けながら働くことができる福祉サービスです。
A型とB型の2種類から選択でき、雇用契約や目的などに違いがあります。
▼就労継続支援A型・B型の概要
A型 | B型 | |
雇用契約 | 雇用契約を結ぶ | 雇用契約を結ばない |
支援の目的 | 就労を通じて一般企業で長く安定して働くことを目指す | 社会とのつながりを持ち、自立した生活を送ることを目指す |
A型では、企業と雇用契約を結び、最低賃金以上の賃金が保障された働き方ができます。安定した勤務形態で働ける方に適しています。
B型では、雇用契約を結ばずに自分のペースで働くことができます。作業量や勤務時間に制約がある方や、まずは社会参加から始めたい方に向いています。
出典:厚生労働省『障害者の就労支援対策の状況』
就職・転職活動で選考を受けるときのポイント
上肢障がいを持つ方のなかには「どのように障がいを伝えればよいか」「配慮やサポートはどこまでお願いしてよいのか」と悩むことも少なくありません。就職・転職活動で選考を受ける際には、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
▼選考時に押さえておくポイント
- 障がいを伝える際は前向きなアピールを入れる
- 求める配慮や職場環境を明確に伝える
上肢障がいについて伝える際は、「~ができない」といったように仕事上の制限を説明するだけでなく、「できること」や「強みを生かせる作業」などのポジティブな面をアピールすることが大切です。
また、上肢障がいの特性について説明する際は、求める配慮や就労環境、必要な支援機器・ツールなどを具体的に伝えることも欠かせません。選考段階で密な情報共有を行うことで、企業側とのミスマッチを防げるほか、適切なサポートを受けやすくなります。
もし一人での就職・転職活動に不安を感じる場合には、障がい者雇用に特化した転職エージェントを活用することも一つの方法です。
『エージェント・サーナ』では、専任のキャリアアドバイザーが求職者の希望や障がいの特性を丁寧にヒアリングして、最適な求人探しから企業への交渉までをサポートします。
上肢障がいを持つ方が転職に成功した体験談を紹介
ここからは、上肢障がいを持つ方が『エージェント・サーナ』を活用して転職を成功させた体験談を紹介します。
【46歳/男性/高校職員】やりがいを重視した転職事例
金融機関の総務部で働いていた方が学校法人へ転職された事例です。
▼転職理由
左半身にマヒがありデスクワークが中心の総務部で働いていましたが、正社員の登用がなく待遇面にも差があったことから、安定して働ける職場への転職を決意しました。
▼転職活動の状況
「正社員の登用がある」「勤務地が近い」「昇給がある」といった3つの軸を決めて、エージェント・サーナから希望に沿った会社を紹介してもらいました。障がいの有無に関係なく、意欲や主体性を重視してくれる学校法人と出会い、内定後すぐに転職を決めました。
▼転職後の感想
人と接する仕事に就きたかったため、高校職員として生徒や保護者とかかわることができる業務にやりがいを感じています。企業に障がいのことを伝え、電話機用のヘッドフォンや自動車通勤を認めてもらえたことで、自分の能力を最大限に発揮できていると思います。
エージェント・サーナの「利用者ファースト」で、より良い職場に出合えました
【34歳/女性/企画部】職種や評価基準を軸にした転職事例
書籍・DVD・CDなどの流通事業で勤めていた方がIT会社の企画部に転職された事例です。
▼転職理由
従来の仕事内容に満足していましたが、組織体制の変化に伴って新設部署への異動になり、仕事へのモチベーションを維持できなくなったことで転職を決断しました。
▼転職活動の状況
上下肢障がいがあり立ち仕事が困難なため、デスクワークの職種を第一条件として「正社員としての雇用」「健常者と同じ仕事を任せてくれること」「適正な評価」といった3つの軸に沿った会社を紹介してもらいました。面接での自己PRでは具体的な実績を数字で説明し、内定の獲得につながりました。
▼転職後の感想
オープンに話せる職場の雰囲気があり、働きやすさを感じています。前職と異なる職場環境に不安を感じていましたが、アドバイザーから対面面接をセッティングしてもらったことで安心して入社を決意できました。
3つの軸を決めて、やりがいのある仕事ができる企業を選びました
まとめ
上肢障がいを持つ方でも、自身の障がいの特性を理解して、それに合った仕事や働き方を選択すれば多様な分野で活躍することが可能です。一般雇用に限らず、障害者雇用枠や特例子会社、就労継続支援といった制度の活用も検討してみましょう。
大切なのは、自身の「できること」や「強み」を最大限に活かせる職場を見つけることです。「どんな仕事が向いているか分からない」「職歴やスキルがなく選考が不安」という方は、転職エージェントの活用もおすすめです。
『エージェント・サーナ』は、障がい者のための就職・転職支援サービスです。専門知識を持つキャリアアドバイザーが、個別の相談を通じて希望やスキルに合った求人を紹介し、応募書類の添削や面接対策、企業との条件交渉まで一貫してサポートします。