障がいや病気を抱えている方が周囲への理解と助けを求めるために“ヘルプマーク”を使用することがあります。一方で、障がいや病気、その他の理由で周囲の助けが必要な方のなかには、「自分も使用してよいのか」「勝手に使用すると迷惑じゃないだろうか」などとお悩みの方もいるのではないでしょうか。
この記事では、ヘルプマークの概要や対象、使用方法、活用が有効なケースについて解説します。
目次
ヘルプマークとは
ヘルプマークは、援助や配慮を必要とする方が、周囲にその状況を知らせるためのマークです。
内部障がいや難病、妊娠初期など、外見からは分かりにくい理由で援助や配慮が必要な場合でも、このマークを身につけることで周囲の人に助けを求めやすくなります。
東京都福祉局が2012年に考案・作成して以降、公共交通機関や職場、日常生活のさまざまな場面で活用されており、社会全体での支え合いを促す大切な役割を担っています。
出典:東京都福祉局『障害者に関するマーク』
ヘルプマークの対象
ヘルプマークには特定の障がいや病気の指定はありません。援助や配慮を必要としている方なら誰もがヘルプマークの対象となります。
自己判断で身につけられるため、医師の診断書や許可も必要としません。本人が配慮を求めたいと感じたときにいつでも使用できる点が特徴といえます。
立っていることが困難な方、突然体調が悪くなる可能性がある方、コミュニケーションに不安を抱える方など、見た目で分からないあらゆる困りごとを抱える人々の社会生活をより快適にすることが、ヘルプマークの目的です。
ヘルプマークがよく用いられる障がい・病気一覧
ヘルプマークを活用する方が多い障がいや病気には、以下のようなものがあります。
ヘルプマークがよく用いられる障がい・病気一覧
- 義足や人工関節を使用している方
- 聴覚障がい
- 言語障がい
- 視覚障がい
- 発達障がい
- 知的障がい
- 精神障がい
- がんや難病
- パニック発作を伴う病気
特に見た目では障がいや病気が分からない場合において、ヘルプマークの効果が実感しやすいと考えられます。また、障がい・病気以外の代表的なケースとしては、妊娠初期の方による使用が挙げられます。
ヘルプマークの入手方法
ヘルプマークは、お住まいの地域の自治体や公共交通機関の窓口において無料で受け取れます。具体的な配布場所は自治体によって異なるため、事前に確認することが大切です。
一般的には、以下の窓口で配布しています。
ヘルプマークの配布窓口
- 市区町村の障がい福祉担当課
- 病院の相談窓口
- 都営地下鉄や都営バスなどの交通局窓口 など
郵送対応も可能な場合があるため、直接窓口に行けない場合は、自治体のウェブサイトで確認するか、電話で問い合わせることが有効です。
緊急時におけるヘルプマークの自作
災害をはじめとする緊急時にヘルプマークが必要になった場合、自作が認められています。東京都のウェブサイトをはじめとするインターネット上から、ヘルプマークの公式画像データをダウンロードして印刷する方法が一般的です。
自作する際は公式の正確なデザインを守る必要があります。厚紙に印刷してラミネート加工を施すと、長期間の使用にも耐えられる仕上がりになります。
緊急時の備えとして、事前に自作用のデータを準備しておく方法も有効です。
ヘルプマークの効率的な使用方法
ヘルプマークは、付属のシールやヘルプカードと併用することで、より効果的に使用できます。これにより、周囲に自身の状況や必要な援助について具体的に伝えられます。
付属のシールを活用する
ヘルプマークには、裏面に貼り付けて使用するシールが付属しています。このシールに必要な援助・配慮を記載することで、周囲の人が的確な対応を判断する助けになります。
具体的には、「席をゆずってもらえると助かります」「声をかける時は正面から話しかけてもらえますか」など、個人の状況に合わせて求める配慮の内容を書き込みます。
文字サイズは読みやすい大きさにし、簡潔で分かりやすい表現を心がけることがポイントです。シールの活用によって、より周囲の理解と協力を得やすくなると期待できます。
ヘルプカードを併用する
ヘルプマークと併せて、ヘルプカードを使用する方法もあります。ヘルプカードとは、緊急時の連絡先や必要な援助の内容を具体的に記載するためのカードです。
病名、服用中の薬、アレルギー情報、緊急時の対応方法などを詳しく記載する欄が設けられており、ヘルプマークだけでは伝えきれない詳細な情報を補足できます。
意識を失った場合や言葉で説明が困難な状況において、ヘルプカードは重要な情報源です。財布や手帳に入れて常時携帯することで、緊急時にも適切な対応を受けやすくなります。
周囲に配慮を求めるために利用できるそのほかのマーク
ヘルプマーク以外にも、周囲に自身の状況を知らせ、配慮を求めるために利用できるマークがあります。それぞれのマークが持つ意味を理解することは、互いが気持ちよく過ごすために重要です。
ハート・プラスマーク
ハート・プラスマークは、身体の内部に障がいがあることを示すマークです。心臓、腎臓、呼吸器など、外見からは分かりにくい内部障がいや内臓疾患を持つ方が使用します。
外見上健康に見えても、電車内で優先席を譲ってもらいたい、混雑を避けたいなど、身体的な配慮が必要なことを周囲に静かに伝える役割があります。
耳マーク
耳マークは、聞こえが不自由なことを示すマークです。聴覚障がいがある方が、筆談やゆっくりとした会話など、コミュニケーションの配慮を必要とすることを周囲に知らせるために使用します。
また、聞こえにくい人への配慮を示すために、窓口や公共施設に掲示されることもあります。聞こえないことや聞こえにくいことは外見から判断することが困難なため、このマークが重要な役割を果たします。
手話マーク・筆談マーク
手話マークと筆談マークは、聴覚や音声機能に障がいを持つ方が、手話や筆談でのコミュニケーションを求めるために使用するマークです。
これらの提示によって、「筆談をお願いします」や「手話で話せますか」などの意思表示をスムーズに行えます。
また、窓口や店舗で手話や筆談に対応可能なことを示す際にも使用されており、適切な意思疎通を図るための重要なツールとして認知度が高まっています。
仕事においてヘルプマークの活用が有効なケース
ヘルプマークは、通勤時や職場内で周囲に配慮を求めるために役立ちます。自身の病気や障がいを静かに知らせることで、より働きやすい環境を整えられます。
通勤に困難を抱えている
障がいや病気によっては、満員電車や長時間の移動が身体的な負担になります。通勤中にヘルプマークを身につけていれば、周囲の人に援助の必要性を伝えることが可能です。
これにより、電車内で席を譲ってもらったり、優先席を利用しやすくなったりする効果が期待でき、通勤時のストレスや体力的な負担を減らすことにもつながります。
立ちっぱなしが困難な方、疲れやすい体質の方、人工関節を使用している方などにとって、通勤ラッシュは大きな負担となります。ヘルプマークを身につけることで、周囲の理解を得やすくなり、快適な通勤が実現します。
職場内で発作を起こす可能性がある
急な発作を起こす可能性のある障がい・病気を抱えて働く場合、発作時に周囲に適切な対応を行ってもらう必要があります。ヘルプマークの裏面やヘルプカードに発作時の対処法や緊急連絡先、服用薬の情報などを記載しておくことが有効です。
これにより、万が一職場で発作が起きた際にも、周囲の人に的確な対応をしてもらいやすくなり、障がい・病気を抱えながらでも安心して働ける環境が実現できます。
業務の遂行に特別な配慮が必要になる
障がいや病気によって業務の遂行に特別な配慮が必要なケースにおいても、ヘルプマークは役立ちます。
業務における特別な配慮の例
障がいの種類 | 特別な配慮 |
視覚障がい | 資料の拡大表示 |
聴覚障がい | 会議での筆談対応 |
発達障がい | 業務指示の明確化 |
ヘルプマークを身につけておくことで、配慮が必要なことを職場の上司や同僚に伝えられるため、業務をスムーズに遂行できる環境を整えやすくなると期待できます。
職場で確実に配慮を受けるには障がい者雇用がおすすめ
ヘルプマークは、周囲に配慮を求めるための有効なツールですが、職場によっては必ずしも完璧な配慮を受けられるとは限りません。より確実な配慮を求める場合は障がい者雇用の活用が有効です。
障がい者雇用とは
障がい者雇用は『障害者雇用促進法』に基づく制度で、企業に一定の法定雇用率での障がい者雇用を義務付けています。
法定雇用率は近年段階的に引き上げられており、2024年には2.5%となりました。2026年7月には法定雇用率2.7%に引き上げられる予定です。また、対象となる企業の要件も従業員数40人以上から37.5人以上に拡大されます。
この制度により障がいのある方の雇用機会が拡大され、社会参加の促進が図られています。
出典:厚生労働省『障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について』
障がい者雇用のメリット
障がい者雇用で働く最大のメリットは、障がいの特性に応じた配慮を安定して受けやすいことです。
企業側も障がいを持つ方の雇用をあらかじめ想定しているため、入社後のミスマッチが起こりにくく、長く働きやすい環境が実現します。個人の能力を活かせる業務の割り当てや職場環境の整備にも積極的です。
業務内容や勤務時間、職場環境など、自身の体調や特性に合わせて調整してもらえるため、安定した就労が期待できます。
障がい者雇用で受けられる配慮の例
障がい者雇用では業務内容や就業時間の調整など、個人のニーズに応じた様々な配慮を受けられます。
障害者雇用で受けられる配慮の例
- 業務内容の調整や軽減
- 勤務時間の短縮や時差出勤
- 通院時間の確保
- 職場環境の改善(照明調整、机の高さ変更など)
- 支援機器の導入 など
社内でのヘルプマークの活用を推進している会社もあり、より包括的な配慮体制が構築されています。これらの配慮により、障がいがあっても自身の能力を発揮しやすい環境で働くことが可能です。
障がい者雇用での転職をお考えの方はキャリア・アドバイザーにご相談を
障がい者雇用での転職を検討している方には、専門のキャリア・アドバイザーへの相談がおすすめです。障がいの特性に応じて配慮を受けられる職場の求人を紹介してもらえます。
障がい者専門の転職エージェント「エージェントサーナ」では、個人の障がい特性や希望条件に合わせた求人を紹介しています。企業との面接調整や条件交渉、入社後のフォローまで幅広くサポートしており、安心して転職活動を進められる環境が整っています。
まとめ
ヘルプマークは特定の病気や障がいに限定されることなく、配慮や援助を必要とする方が自己判断で使用できるマークです。日常生活だけでなく、職場での通勤支援や発作時対応にも有効活用されています。
一方で、すべての職場で障がい者への配慮を十分に行えているとは限りません。より確実な配慮を求める場合は障がい者雇用での転職も有効な選択肢です。自身の障がいの特性を理解し、それに合った職場で働くことで、無理なく長くキャリアを築けます。
障がい者雇用専門の転職エージェント「エージェント・サーナ」では、プロのアドバイザーがあなたに寄り添い、障がいの特性に合った求人のマッチングや面接対策のサポートなどを実施いたします。現在の職場で十分な配慮を受けられずに転職を検討している方は、ぜひご相談ください。