
障害手当金は、厚生年金に加入している方が病気やけがによって障がいが残った際に、一時金として支給される手当です。
支給される金額は一定額ではなく、厚生年金の加入期間や収入によって算出される仕組みとなっており、人によって変動します。
「自分はどれくらいの金額を受け取れるのか」「支給金額はどのように計算されるのか」など、気になる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、障害手当金の仕組みをはじめ、支給金額を計算する方法や最低保障額、転職や休職をした場合の計算について解説します。
障害手当金の基礎知識や申請方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
目次
障害手当金の仕組み
障害手当金は、障害年金制度において厚生年金に加入している方を対象とした手当です。
障害年金制度は、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類があり、そのほかの一時金として「障害手当金」が位置づけられています。
▼障害年金の体系
| 対象者 | 障害等級の区分 | 支給方法 | |
| 障害基礎年金 | 国民年金の被保険者
(自営業の方、学生、専業主婦・主夫) |
1級・2級 | 2ヶ月ごとに継続支給 |
| 障害厚生年金 | 厚生年金の被保険者
(会社員、公務員) |
1級・2級・3級 | 2ヶ月ごとに継続支給 |
| 障害手当金 | 厚生年金の被保険者
(会社員、公務員) |
3級の認定基準よりも軽い障がいの状態 | 1回限り支給 |
また、障害年金では、障がいの状態を認定する障害等級(1級・2級・3級)があり、「どの程度の障がいがあるか」によって支給額が変わります。
障害手当金については、障害厚生年金3級に認定されない程度の軽い障がいが残った方に支給される仕組みとなっています。
なお、障害年金の詳しい支給要件については、以下の記事をご確認ください。
関連記事
No64:障害年金 ※ピラー記事
No68:障害年金がもらえる条件
出典:厚生労働省『年金制度の仕組みと考え方 第12 障害年金』/日本年金機構『障害年金ガイド 令和7年度版』
障害手当金の支給金額を計算する方法
障害手当金の支給金額は、厚生年金を計算する基礎となる「報酬比例の年金額」をベースに算出されます。
▼支給金額の計算式
| 障害手当金の支給金額=報酬比例の年金額×2 |
報酬比例の年金額は、厚生年金の「平均標準報酬額」と「加入月数」に一定の率を乗じて算出されます。ここからは、具体的な計算方法について解説します。
ステップ1|厚生年金の平均標準報酬額を求める
平均標準報酬額は、厚生年金の加入期間中の給与・賞与を合わせた平均額のことです。
2003年4月以降、給与だけでなく賞与(ボーナス)も報酬額に含める「総報酬制」が導入されたため、以下のAとBの2つの期間に分けて計算してから合算します。
▼平均標準報酬額の求め方(A+B)
| 【A】2003年(平成15年)3月以前:平均標準報酬月額 | |
| 2003年3月までの被保険者期間に受け取った給与や手当などの合計(標準報酬月額)を、当該の加入月数で割った額 | |
| 【B】2003年(平成15年)4月以降:平均標準報酬額 | |
| 2003年4月以降の被保険者期間に受け取った標準報酬月額と賞与(標準賞与額)を合算した額(標準報酬額)を、当該の加入月数で割った額 |
上記Bの期間については、給与や手当だけでなく賞与も含めて報酬額を計算します。月々の給与や賞与の額が高い方ほど、受け取れる手当も高くなります。
なお、標準月額報酬や標準賞与額は、日本年金機構から郵送される『ねんきん定期便』やWebサービス『ねんきんネット』で確認することが可能です。
ステップ2|厚生年金の加入月数を求める
次に、厚生年金に加入している月数を確認します。
公務員や会社員として企業に勤めている方は、給与明細などでこれまでに保険料を納付した月数を確認します。現在までの年金記録は、日本年金機構から郵送される『ねんきん定期便』やWebサービス『ねんきんネット』で確認することも可能です。
▼ねんきんネットでの年金記録の具体例

画像引用元:政府広報オンライン『「ねんきんネット」でいつでも最新の年金記録が確認できます!』
また、加入月数の合計が300月未満の場合には、300月とみなして計算する「300月保障」という仕組みがあります。厚生年金の加入期間が短い方でも、一定額の手当が受け取れるようになっています。
出典:政府広報オンライン『「ねんきんネット」でいつでも最新の年金記録が確認できます!』
ステップ3|該当する給付乗率を確認する
「平均標準報酬額」と「加入月数」を明らかにしたあとは、給付乗率を確認します。
報酬比例額の算出に用いる給付乗率は、厚生年金に加入していた被保険者期間で異なります。法改正で新たに「総報酬制」が導入されたことで、給付乗率が引き上げられました。
▼報酬比例額の給付乗率
| 【A】2003年(平成15年)3月以前の被保険者期間 | |
| 0.007125(7.125/1000) | |
| 【B】2003年(平成15年)4月以降の被保険者期間 | |
| 0.005481(5.481/1000) |
出典:厚生労働省『年金制度の仕組みと考え方 第3 公的年金制度の体系(年金給付)』
ステップ4|報酬比例額を算出する
上記のステップ1~3で計算した額を基に、報酬比例額を算出します。
▼報酬比例額の計算式
| 報酬比例額=平均標準報酬額×加入月数×給付乗率 |
この計算式で算出した報酬比例額を2乗した額が、障害手当金の支給額となります。
出典:政府広報オンライン『障害年金の制度をご存じですか?がんや糖尿病など内部疾患のかたも対象です』/厚生労働省『年金制度の仕組みと考え方 第3 公的年金制度の体系(年金給付)』
障害手当金に定められている「最低保障額」について
障害手当金の支給金額は、通常「報酬比例の年金額の2倍」で算出されますが、その金額が一定額を下回る場合に「最低保障額」が設定されています。
障害手当金の最低保障額は、障害厚生年金3級における最低保障額の2倍の額となります。2025年度における最低保障額は、以下のとおりです。
▼【2025年度】障害年金の最低保障額
| 種類 | 最低保障額 |
| 障害厚生年金3級 | 62万3,800円(年間支給額) |
| 障害手当金 | 124万7,600円(一時金) |
このような最低保障額の仕組みがあることで、厚生年金の加入期間が短い方や収入が低い方でも、一定の保障を受けられるようになっています。
出典:政府広報オンライン『障害年金の制度をご存じですか?がんや糖尿病など内部疾患のかたも対象です』
転職や退職をした場合の加入期間はどうなる?
転職や退職をしている方は、「厚生年金の加入月数をどのように数えるのか」と悩む方も多いのではないでしょうか。
加入している年金制度の種別に変更があった場合には、その月は「変更後の被保険者区分として加入期間を計算する」という仕組みになっています。
以下の具体例を見てみましょう。
【ケース1】会社を退職して国民年金の第1号被保険者になった月
厚生年金の被保険者期間に含めない(国民年金の第1号被保険者とみなす)
【ケース2】家族の扶養に入っていた方が正社員で就職して厚生年金に加入した月
厚生年金の被保険者期間に含める(厚生年金の第1号被保険者とみなす)
休職中でも障害手当金は請求できる?
現在、病気やけがによって休職中の方でも、障害手当金の受給要件を満たしていれば請求は可能です。
▼障害手当金の受給要件
|
ただし、同一の傷病に対して健康保険の傷病手当金を受給している場合には、併給調整の対象となり、傷病手当金の支給が停止または減額されることがあります。
※障がいの原因となった病気やけがで初めて医師の診療を受けた日
関連記事
No69:障害手当金とは
出典:日本年金機構『障害年金ガイド 令和7年度版』/厚生労働省『年金制度の仕組みと考え方 第12 障害年金』
まとめ
障害手当金の支給金額は、厚生年金に加入している期間や収入によって異なります。加入期間が短い方や収入が低い方の場合は、一定額が支給される最低保障額が支給されます。
支給金額の計算は複雑となっているため、正確な額を知りたい方は年金事務所への問い合わせや社会保険労務士への相談が必要です。
また、障害年金や障害手当金を受給して就労準備を始める方は、『エージェント・サーナ』へご相談ください。障害者雇用に強い転職エージェントとして、あなたの希望や障がいの特性を踏まえた職場とのマッチングを全力でサポートいたします。








