
障害年金は、病気やけがによって一定の障がいが残った方に対して、安定した生活を支援するための社会保障制度です。
障害年金を受給するには、障がいの状態や保険料の納付などについて一定の要件を満たすことが必要です。「自分は支給対象に該当するのか」「どのようなタイミングで請求できるのか」など、請求の条件について疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
この記事では、障害年金がもらえる条件と請求できる時期、支給額の目安、よくある問題への対処法などを分かりやすく解説します。
障害年金がもらえる条件とは。必須となる3つのポイント
障害年金を受給するには、3つの要件を満たすことが必要です。請求する際に必須となるポイントを解説します。
➀初診日の要件を満たしている
1つ目は、初診日の要件を満たしていることです。
初診日とは、障がいの原因となった病気やけがで初めて医師の診察を受けた日のことです。
▼初診日の要件
初診日において、以下の1~3のいずれかに該当していること
|
初診日に加入していた年金制度(国民年金または厚生年金)によって、請求できる年金の種類が変わります。
また、初診日は障がいの程度を決める基準になるため、「いつ病気やけがになったか」を客観的に証明することが求められます。
②障害認定日に一定以上の障がいがある
2つ目は、障害認定日に一定以上の障がいがあることです。
障害認定日とは、障がいの程度を認定する日のことです。原則として「初診日から1年6ヶ月経過した日」、または「その期間内に症状が固定した日」を指します。
障害認定日の以後に20歳に達した方は、「20歳に達した日」となります。
▼障害認定日の要件
| 障害認定日の時点において、『障害等級表』に定める1級・2級・3級に該当する程度の障がいがあると判断されること |
障害等級は『国民年金法施行令』および『厚生年金保険法施行令』によって定められており、「日常生活と労働にどの程度の制約があるか」によって判定されます。
▼障害等級における障がいの状態
| 障害等級区分 | 障がいの状態 | |
| 1級 | 一人で日常生活を送ることができない、または極めて困難 | |
| 2級 | 日常生活に著しい制限がある | |
| 3級 | 労働に著しい制限がある | |
上記の等級区分は、身体障害者手帳の等級とは基準が異なります。
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③被保険者期間の3分の2以上で保険料を納付している
3つ目は、3分の2以上の保険料を納付していることです。保険料の納付要件には、「原則」と「特例」があり、以下のどちらかを満たしている必要があります。
▼【原則】保険料の納付要件
初診日のある月の前々月までの公的年金加入期間のうち、3分の2以上の期間について保険料が納付済みまたは免除されていること
画像引用元:厚生労働省『障害基礎年金お手続きガイド』 |
▼【特例】保険料の納付要件
| 初診日が65歳未満で初診日のある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がないこと
画像引用元:厚生労働省『障害基礎年金お手続きガイド』 |
初診日の属する月の前々月以前が20歳未満の場合、国民年金の被保険者期間がなく保険料の納付義務がないため、これらの要件はありません。
ただし、20歳未満でも会社に勤めている場合は、厚生年金に加入していることになるため、納付要件を満たすことが求められます(本人に対する所得制限あり)。
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出典:政府広報オンライン『障害年金の制度をご存じですか?がんや糖尿病など内部疾患のかたも対象です』/厚生労働省『障害基礎年金お手続きガイド』
障害年金を請求できる時期
障害年金は、自身の障がいの状態が障害等級に該当した時期に応じて請求できます。請求可能な時期には、以下のパターンが考えられます。
原則】障害認定日の要件を満たす場合
障害認定日に障害等級表に該当する障がいの状態にある方は、その障害認定日が「受給権発生日(年金を請求できる権利が発生する日)」となります。
障害認定日が属する月の翌月分から、障害年金を受給することが可能です。
【例1】障害認定日が初診日の1年6ヶ月後になる場合

画像引用元:厚生労働省『障害基礎年金お手続きガイド』
また、20歳になる前の傷病によって障害年金を請求する場合は、「20歳に達した日」または「障害認定日」のいずれか遅い日が属する月の翌月分から請求できます。
【例2】障害認定日が20歳に達した日以前になる場合

画像引用元:厚生労働省『障害基礎年金お手続きガイド』
【ケース1】障害認定日に障害等級1級・2級に該当しない場合
障害認定日に障害等級1級または2級に該当しなかった方でも、その後に障がいの程度が悪化した場合には、障害年金を請求することが可能です。
これは「事後重症による障害基礎年金」と呼ばれ、請求するには以下のすべての要件を満たす必要があります。
▼事後重症による障害基礎年金の受給要件
|
障害年金を請求できる権利が発生するのは「請求日の受付日」となり、翌月分から障害年金を受け取ることができます。
【例】60歳の誕生日を迎える前に症状が悪化した場合

画像引用元:厚生労働省『障害基礎年金お手続きガイド』
なお、事後重症による障害基礎年金の請求書は、65歳に達する日の前日までの間に提出することが必要です。
【ケース2】新たな傷病によって初めて2級以上に該当した場合
障害等級に該当しない障がいを持っていた方が、新たに別の傷病によって1級または2級に該当する程度の障がいの状態になった場合は、障害年金の請求を行えます。
新たに生じた別の傷病は「基準傷病」と呼ばれます。このケースで障害年金を請求するには、以下の4つの要件をすべて満たすことが必要です。
▼初めて2級以上に該当した場合の受給要件
|
受給権の発生日は「初めて2級以上となる程度の障がいを確認できた日」となり、受け取りは請求月の翌月分からとなります。
【例】先発の障害Aと後発の基準傷病Bを併合して1級・2級に該当する場合

画像引用元:厚生労働省『障害基礎年金お手続きガイド』
ただし、新たな傷病によって障がいを併合しても障害等級に該当しないケースもあります。
【ケース3】障害認定日に2つ以上の障がいがある場合
障害認定日に認定対象となる障がいが2つ以上ある方は、複数の障がいを併合した状態で障害等級を認定することが可能です。
例えば、障害等級2級に該当する程度の障がいが2つある場合には、併合認定によって1級と認定されるケースがあります。
【例】障害認定日に障害等級1級・2級に該当する障がいが2つある場合

画像引用元:厚生労働省『障害基礎年金お手続きガイド』
受給権の発生日は「障害認定日」となり、請求月の翌月分から受け取ることが可能です。
なお、すでに障害年金を受給している方が、新たな傷病によって認定対象となる障がいが生じた場合には、それぞれの併合認定によって等級が上がるケースがあります。
出典:厚生労働省『障害基礎年金お手続きガイド』『年金制度の仕組みと考え方 第12 障害年金』
障害年金はいくらもらえる?年金額をシミュレーション
障害年金で受け取れる年金額は、加入している年金の種類や認定された障害等級(1級・2級・3級)によって決まります。
障害基礎年金の場合は、毎年定められる定額(老齢年金を基準とした額)が支給され、子どもの数に応じて一定額が加算される仕組みとなっています。
2025年度における障害基礎年金の年間支給額を、以下にまとめました。
▼【2025年度】障害基礎年金の年間支給額
| 等級 | 子どもの数 | 基本額 | 加算額 | 年額 | 月額 |
| 1級 | 0人 | 103万9,625円 | 0円 | 103万9,625円 | 約8万7,000円 |
| 1人 | 23万9,300円 | 127万8,925円 | 約10万7,000円 | ||
| 2人 | 47万8,600円 | 151万8,225円 | 約12万7,000円 | ||
| 3人 | 55万8,400円 | 159万8,025円 | 約13万3,000円 | ||
| 4人目以降 | 63万8,200円以上 | 167万7,825円以上 | 約14万円以上 | ||
| 2級 | 0人 | 83万1,700円 | 0円 | 83万1,700円 | 約6万9,000円 |
| 1人 | 23万9,300円 | 107万1,000円 | 約8万9,000円 | ||
| 2人 | 47万8,600円 | 131万300円 | 約10万9,000円 | ||
| 3人 | 55万8,400円 | 139万100円 | 約11万6,000円 | ||
| 4人目以降 | 63万8,200円以上 | 146万9,900円以上 | 約12万2,000円
以上 |
一方、障害厚生年金の支給額は、厚生年金に加入期間中の標準報酬額と加入期間(報酬比例の年金額)で算出されるため、収入額や勤務年数によって変動します。
厚生年金に加入しており、障害等級1級または2級に認定された場合には、障害基礎年金と障害厚生年金の両方を受給することが可能です。また、65歳未満の配偶者がいる場合には、一定額を加算して支給されます。
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No66:障害厚生年金3級 月額
出典:政府広報オンライン『障害年金の制度をご存じですか?がんや糖尿病など内部疾患のかたも対象です』/厚生労働省『年金制度基礎資料集』
障害年金の請求によくある問題と対処法
障害年金の請求には複雑な手続きが発生します。書類の不備や情報の不足があると、障がいの認定が正しく行われず不支給になる可能性があるため、注意が必要です。
ここでは、障害年金の請求でつまずきやすい3つの問題と対処法を解説します。
初診日の特定や証明ができない
障がいの原因となった傷病の初診日を特定・証明できない問題があります。
初診日の特定は、障がい程度の認定や受給要件の審査において欠かせないため、客観的な証明ができなければ障害年金を請求できなくなります。
▼初診日の特定・証明ができなくなる原因
- 病院が閉院した
- カルテの保存期間が過ぎて廃棄された
- 複数の医療機関を転々としたために初診の病院が分からない など
このような場合は、初診日を確認できる医療機関の証明書や補足資料の提出が必要です。
■初診の病院が分からない場合
お薬手帳や健康診断結果の通知書、診察券、領収書などを探す
■初診日の病院がない・診察記録が残っていない
- 2番目以降に受診した病院で受診状況等証明書を作成してもらう
- 初診日を確定するうえで必要な補足資料を提出する
初診日の証明に用いられる補足資料には、障害者手帳や生命保険等の申請時の診断書、交通事故証明書、ほかの医療機関への紹介状などが挙げられます。
出典:厚生労働省『障害基礎年金お手続きガイド』
医師の診断書に障がいの程度が正しく反映されていない
障害年金の請求手続きでは、医師に作成してもらった診断書の添付が必要です。
この診断書は、日本年金機構が障害等級の認定を行ううえで重要な情報となります。自身の障がい程度が正しく記載されていない場合には、不支給または実際よりも軽い等級に認定される可能性があります。
医師に診断書を作成してもらう際は、医学的な所見や検査結果だけでなく「日常生活や労働においてどのような支障・制限があるか」を記載してもらうことが重要です。
▼診断書の作成を依頼するときのポイント
- 医師に症状や日常生活や仕事での困りごとを具体的に伝える
- 働いている場合は、就労の制限や配慮事項を記載してもらう
病歴・就労状況等申立書に記入不足や矛盾がある
障害年金を請求する本人が作成する「病歴・就労状況等申立書」は、医師の診断書では伝えきれない日常生活や就労の実態を伝えるための書類です。
この書類の記載内容に不足があったり、医師の診断書の内容と矛盾があったりすると、初診日の証明や障がいの認定が難しくなり、不支給となってしまう可能性があります。
特に働いている方は、「障がいが軽度で労働に支障がない」と判断される可能性があるため、仕事や職場環境に関する制限の状況を具体的に記載することが重要です。
▼病歴・就労状況等申立書を書くときのポイント
- 医師の診断書との整合性を確保する
- 通院歴や就労状況の変化を漏れなく時系列で記載する
- 医療機関を受診していない期間がある場合もその内容を記入する
- 「できないこと」や「援助が必要なこと」を具体的に記載する
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No65:障害年金 申請
まとめ
障害年金の受給には、「初診日を証明すること」や「障害等級に該当する障がい状態であること」「保険料を3分の2以上納付していること」といった条件があります。
請求手続きの際は、必要書類や補足資料を漏れなく添付するとともに、日常生活や仕事で生じている制限を具体的かつ分かりやすく記載することがポイントです。
また、働いている方や就労準備を始める方は、障害年金を請求する際に仕事内容の調整や職場に求める配慮などを伝えることも重要です。
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