
病気やけがによって障がいが残った場合には、障害年金を受け取ることができます。
障害年金を受給するには、日本年金機構への申請が必要です。この手続きは非常に煩雑となっており必要書類も多岐にわたるため、不備が発生することも少なくありません。
これから障害年金の申請準備を始めるにあたって「何の書類が必要なのか」「どのような流れで手続きを進めるのか」など、疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
この記事では、障害年金の申請前に確認しておく要件や申請手続きの流れ、申請時に押さえておくポイントなどについて解説します。
目次
障害年金とは
障害年金とは、国民年金・厚生年金の被保険者が日常生活や労働が大きく制限されるような障がいの状態になった場合に、生活の安定を図るための給付を行う社会保障制度です。
障害年金には、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類があり、どの公的年金制度に加入していたかによって受け取れる年金の種類が変わります。
▼障害年金の種類
| 種類 | 主な支給対象者 | 該当する障がい程度 |
| 障害基礎年金 | 自営業の方、学生、専業主婦(主夫) | 障害等級1級・2級 |
| 障害厚生年金 | 会社員、公務員 | 障害等級1級・2級・3級 |
会社員として厚生年金に加入しており、障害等級が1級または2級の場合は、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の両方を受給できます(3級は障害厚生年金のみ)。
障害年金を受け取るには、窓口での申請を行い、日本年金機構の審査を受けて等級の判定を受ける必要があります。
出典:政府広報オンライン『障害年金の制度をご存じですか?がんや糖尿病など内部疾患のかたも対象です』/厚生労働省『年金制度基礎資料集』
障害年金の申請前に確認しておく3つの要件
障害年金を受給するには、主に3つの要件を満たしていることが前提となります。申請前に確認しておく要件について解説します。
➀初診日要件
初診日とは、障がいの原因となった病気やけがについて初めて病院を受診した日のことです。障害年金を受け取るには、初診日に国民年金に加入している必要があります。
公務員や会社員で厚生年金の被保険者になる方は、同時に国民年金の保険料も納付しているため、自動的に国民年金の第2号被保険者になります。
▼国民年金における被保険者の区分
| 区分 | 対象者 |
| 第1号被保険者 | 自営業の方、学生など
(厚生年金に加入していない方) |
| 第2号被保険者 | 会社員や公務員など
(厚生年金に加入している方) |
| 第3号被保険者 | 専業主婦(主夫)
(第2号被保険者の配偶者で扶養されている方) |
なお、国民年金の被保険者期間中だけでなく、加入義務がない20歳未満の方や被保険者資格を失った60歳以上65歳未満の方も対象に含まれます。
②障害認定日要件
障害認定日とは、障がいの程度を認定する基準日のことです。
以下の2つのいずれかが基準日として扱われます。
▼障害認定日
| 原則 | 障がいの原因となった病気やけがの初診日から1年6ヶ月経過した日 |
| 例外 | 初診日から1年6ヶ月以内に病気やけがによる症状が固定した日 |
障害年金の支給審査は、障害認定日の時点における障がいの程度で判断されます。受給に必要な障害認定日要件は、以下のとおりです。
▼障害認定日要件
| 障害認定日に障害等級表1級・2級・3級のいずれかに該当する程度の障がいがある |
障害等級については、厚生労働省が定める障害認定基準に基づいて判定される仕組みになっており、「日常生活や労働にどの程度の制約があるか」によって決まります。
③保険料納付要件
障害年金の要件には、国民年金の保険料に関する納付要件も設けられています。
▼保険料納付要件
初診日の前日において、以下のいずれかの要件を満たしていること
|
保険料免除期間とは、保険料の納付義務が免除または猶予された期間を指します。
障害年金がもらえる条件については、以下の記事で詳しく解説しています。
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No68:障害年金がもらえる条件
出典:政府広報オンライン『障害年金の制度をご存じですか?がんや糖尿病など内部疾患のかたも対象です』/厚生労働省『障害基礎年金お手続きガイド』
障害年金の申請から受給までの流れ
障害年金の申請手続きは、複雑で時間を要します。
手続きに不備があり修正が必要になると、障害年金を受け取れる時期が遅れてしまうため、準備をしっかりと行っておくことが大切です。
ここからは、申請から受給までの具体的な流れについて解説します。
➀年金請求書を入手する
まずは障害年金の申請に必要な「年金請求書」を入手します。
年金請求書は、市区町村の役所や近くの年金事務所、年金相談センターの窓口で入手するほか、日本年金機構のWebサイトからダウンロードすることが可能です。
障害年金の種類によって年金請求書の様式が異なるため、「初診日に加入していた年金制度」に合わせて選択しましょう。
▼年金請求書の様式
| 障害年金の種類 | 様式 |
| 障害基礎年金 | 年金請求書(国民年金障害基礎年金)様式第107号 |
| 障害厚生年金 | 年金請求書(国民年金・厚生年金保険障害給付)様式第104号 |
②初診日を確認できる書類を用意する
障害年金の審査に欠かせないのが「初診日の特定」です。
この初診日を特定するための書類として、初めて受診した医療機関で「受診状況等証明書」の作成を依頼する必要があります。
▼受診状況等証明書のイメージ(一部切り取り)

画像引用元:厚生労働省『障害基礎年金お手続きガイド』
ただし、初診の医療機関と現在通院や治療を受けている医療機関が同じ場合には、「受診状況等証明書」の取得は不要です。
③医師に診断書の作成を依頼する
現在通っている医療機関の医師に、所定様式の診断書を作成してもらいます。
医師の診断書は、初診日の確認をはじめ、診療科や傷病の診断名、傷病の原因、治療の経過など「どのような程度の障がいの状態にあるか」を判定するための情報となります。
障がいの種類に応じた所定様式の診断書を提出する必要があります。
▼診断書の指定
- 原則として障害認定日の3ヵ月以内のもの
- 障害認定日と年金請求日が1年以上空く場合は、年金請求日以前3ヵ月以内のもの
また、診断書に記載される疾患によっては、レントゲンフィルムや心電図のコピーなどの添付が求められるものもあります。
④病歴・就労状況等申立書を作成する
病歴・就労状況等申立書は、障害年金を請求する本人が、障がいの発生から現在までの経過や、日常生活や就労において抱える困難・制約について具体的に伝えるための文書です。
障がいの程度を判断する重要な情報となるため、実際の生活状況について正確に分かりやすく書くことが求められます。
▼病歴・就労状況等申立書の主な記載項目
- 病気やけがが発生した日
- 傷病名
- 初診日
- 治療の経過や入院・通院の状況
- 障害認定日の状況
- 日常生活での困難や制約
- 就労の状況(職種・就労していない理由・配慮事項) など
⑤必要書類を準備する
年金請求書に必要事項を記入して、添付書類を準備します。不備や漏れがあると再提出が必要になるため、申請前にチェックしておきましょう。
▼申請時に提出・添付が必要な書類
| 書類 | 指定内容 |
| 1.年金請求書 | 加入する年金制度に応じた様式(様式第107号または様式第104号) |
| 2.年金手帳 | 提出できない場合は理由書の添付が必要 |
| 3.戸籍抄本 | ・生年月日が記載されたもの
・受給権の発生日以後で提出日から6ヵ月以内のもの ※戸籍謄本を添付する場合は不要 |
| 4.医師の診断書 | 原則、障害認定日より3ヶ月以内の現症のもの |
| 5.受診状況等証明書 | 初診の医療機関と診断書の医療機関が異なる場合に必要 |
| 6.病歴・就労状況等申立書 | 本人の障がい状態や治療の経過などを漏れなく記入 |
| 7.金融機関の通帳等 | 障害年金を受給する本人名義の口座情報がわかるもの(預金通帳、キャッシュカード) |
| 8.印鑑 | 認め印でも可 |
障がいの内容や本人の状況によって、追加の添付書類が求められる場合があります。年金事務所の窓口や「ねんきんダイヤル」に問い合わせて確認することが可能です。
⑥窓口に書類一式を提出する
市区町村の指定窓口で年金請求書の書類一式を提出します。初診日に加入している年金制度によって窓口が異なります。
▼障害年金の請求窓口
| 年金制度 | 請求窓口 |
| 第1号被保険者 | 市区町村窓口 |
| 第2号被保険者 | 年金事務所 |
| 第3号被保険者 | 年金事務所 |
| 未加入者(20歳前障害や60歳以降の場合) | 市区町村窓口 |
⑦年金決定通知書・年金証書が送付される
年金請求の手続きを終えたあとは、日本年金機構で審査などが行われます。
支給が決定されると、日本年金機構より年金決定通知書・年金証書が送付されます。障害年金の申請から支給決定までは、3ヶ月程度かかることが一般的です。
支給が認められなかった場合には、不支給決定通知書が送付されます。
⑧障害年金を受け取る
年金決定通知書・年金証書が送付されたあと、障害年金の支給が開始されます。受け取りの開始年月は年金決定通知に記載されているため、確認しておきましょう。
▼障害年金の支給方法
| 支給時期 | 支給方法 |
| 初回 | 1~2ヶ月程度で指定口座に入金される |
| 2回目以降 | 偶数月の15日(土日祝日の場合は直前の営業日)に2ヶ月分の年金が入金される |
2回目以降の支給についても、年金振込通知書や年金支払通知書が送付されます。
2つ以上の年金を受ける場合や年金給付に調整がある場合は、初回の受け取りまでにさらに日数がかかる可能性があります。
出典:政府広報オンライン『障害年金の制度をご存じですか?がんや糖尿病など内部疾患のかたも対象です』/厚生労働省『障害基礎年金お手続きガイド』/日本年金機構『障害基礎年金を受けられるとき』『障害厚生年金を受けられるとき』
障害年金の請求で押さえておく重要なポイント
障害年金を申請する際は、初診日や障がいの状態を明確に伝える必要があります。押さえておきたい重要なポイントには、以下が挙げられます。
病歴・就労状況等申立書と診断書の整合性を確認する
病歴・就労状況等申立書は、診断書の内容と矛盾しないように記載することが重要です。
医師が作成した診断書と、本人が作成する病歴・就労状況等申立書の内容が矛盾していると、実際よりも軽い等級に認定されたり、不支給が決定されたりする可能性があります。
▼病歴・就労状況等申立書を作成するポイント
- 傷病名・発病日・初診日は診断書の内容と合わせる
- 医療機関ごとの通院期間や受診回数、治療経過などは具体的に記載する
- 受診していなかった期間の理由や生活状況も漏れなく記載する
初診日の証明が難しい場合は補足資料を添付する
障害年金の請求でよくある問題が「初診日が分からない(証明できない)」ことです。
療養期間が長い方は、初診病院の閉院やカルテの廃棄などによって「受診状況等証明書」の作成を依頼できず、初診日の証明が難しくなることがあります。
初診日を特定できない場合には、障害年金を受け取れない可能性があるため、初診日を確認するための複数の補足資料を添付することが必要です。
▼初診日を確認する補足資料の例
- 初診時の病院の診察券や領収書
- 身体障害者手帳を申請した際の診断書
- 生命保険や医療保険の給付請求に使用した診断書
- 交通事故証明書、労災事故証明書
- 別の医療機関への紹介状 など
就労の制限や配慮事項を具体的に記載する
障害年金を受け取るには、障がいの程度が障害等級1級・2級(障害厚生年金は3級)に該当する状態と判定される必要があります。
現在働いている方は、「労働に著しい制限がない状態」とみなされて不支給となる可能性があるため、就労の制限や配慮事項は具体的に記載することが重要です。
診断書の作成を依頼する医師には、就労上の困難や職場で受けている配慮、通勤時の負担などを具体的に伝えることがポイントです。
▼就労制限や配慮事項の伝え方
- 体調の波があり療養が必要になるため、1日4時間の短時間勤務で働いている
- 持ち上げ動作や移動が難しく、身体への負担が少ない業務に調整している
- 集中力が続かず疲れやすいため、1時間に10分は特別に休憩を取得している など
障害年金の受給中に手続きはある?
障害年金は、支給が決定したあとも手続きが必要になる場合があります。ここでは、受給中に発生する手続きについて解説します。
有期認定の場合は「障害状態確認届」を忘れずに提出する
障害年金の認定には、一生涯にわたって受給できる「永久認定」と、1~5年の期間ごとに障がいの状態を再認定する「有期認定」があります。
有期認定に該当する方は、日本年金機構から「障害状態確認届(診断書)」が送付されるため、期日までの医師の診断と書類の提出を行うことが必要です。
また、支給決定後に働き始めた方は、再認定で「障がいの状態が軽くなり、働ける状態になった」と判定され、支給停止になることも考えられます。障害年金を受給しながら働きたい方は、就労上の制限や職場での配慮事項などを正確に記載することが重要です。
出典:日本年金機構『障害状態確認届(診断書)が届いたとき』
障がいが重くなったときは年金額の改定請求を行う
障害年金の受給中に、症状の悪化などによって障がいの状態が重くなった場合には、年金額の改定請求を行うことが可能です。
改定請求は、原則として「障害年金の受給権が発生した日」または「前回の審査を受けた日から1年を経過した後」でなければ行えません。
ただし、障がいの程度が明らかに重くなったと認められる特定のケースについては、1年を待たずに請求できる例外も設けられています。
出典:厚生労働省『障害基礎年金お手続きガイド』
障害年金の申請は社会保険労務士に依頼することが可能
障害年金における請求書の記載項目や添付書類は多岐にわたります。本人だけで作成すると、書類の不備が発生したり、障がいの程度が正確に判定されなかったりすることも少なくありません。
特に働いている方やこれから就職・転職活動を始める方は、就労について「一定の制限や配慮が必要なこと」を客観的かつ具体的に明記することが重要です。
「自分だけで書類を作成できるか不安」「障がいの状態をどのように書けばよいか分からない」という方は、社会保険労務士への相談が有効です。
障害年金の申請をサポートしてくれる社会保険労務士に依頼することで、スムーズな手続きが可能になるほか、支給審査に通る可能性を高められます。
まとめ
障害年金を申請する際は、初診日・障害認定日・保険料納付に関する要件を満たすとともに、障がいの状態を正確に伝えるための書類を提出する必要があります。
「初診日を証明できない」「病歴・就労状況等申立書の書き方が分からない」などの問題がある場合には、社会保険労務士に相談してみることも一つの方法です。
また、障害年金を受給しながら就労を希望する方は、障がいについて理解のある職場選びや、無理のない働き方の調整が必要になります。
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