
病気やけがによって日常生活や就労活動に制限が生じる障がいが残った方は、障害年金を受け取ることができます。
心身に障がいのある方のなかには、「自分は障害年金の対象となるのか」「働いていても障害年金を受け取れるのか」など、疑問や不安を持つ方もいるのではないでしょうか。
安心して療養生活や社会復帰の準備を進めるために、障害年金の対象者や支給の仕組み、請求の手続きなどを知っておくことが大切です。
この記事では、障害年金の基礎知識と就職・転職活動への影響、よくある質問への回答について解説します。
目次
障害年金とは
障害年金とは、病気やけがによって日常生活や就労が制限されるような障がいの状態になった場合に、生活を経済的に支えるために支給される社会保障制度です。
公的年金の被保険者で、障害年金の支給要件を満たす場合に受け取ることができます。支給対象には、身体機能の障がいに加えて内部疾患や精神疾患なども含まれます。
▼障害年金の対象となる病気やけが
| 障がい区分 | 内容 |
| 外部障がい | 視覚障がい、聴覚障がい、肢体不自由など |
| 内部障がい | 心機能障がい、呼吸器障がい、腎機能障がい、肝機能障がい、糖尿病、がんなど |
| 精神障がい | うつ病、総合失調症など |
なお、障害年金は、身体障害者手帳を持っていない方でも請求することが可能です。
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No69:障害手当金とは
出典:政府広報オンライン『障害年金の制度をご存じですか?がんや糖尿病など内部疾患のかたも対象です』
障害年金の種類
障害年金には、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類があります。初診日(※)に加入していた年金制度によって、受け取れる障害年金が変わります。
また、障害年金の支給額は、物価や賃金の変動に応じて毎年見直しが行われ、加入している年金制度や障がいの程度、配偶者の有無などによっても支給額が異なります。
※障がいの原因となる病気やけがで初めて病院を受診した日
障害基礎年金|国民年金の加入者が対象
障害基礎年金は、国民年金に加入している被保険者(第1号被保険者・第3号被保険者)に支給される障害年金です。
日本では、20歳以上のすべての国民が公的年金に加入することが義務づけられてます。自営業の方や学生、専業主婦(主夫)などは国民年金に加入します。
障害基礎年金の支給は、国民年金の被保険者期間中だけでなく、加入義務のない20歳未満の方や、被保険者資格を失ったあと(60歳以上65歳未満)も対象に含まれます。
支給要件
障害基礎年金は、初診日のある傷病が原因となって心身に一定以上の障がいが残った場合に支給されます。具体的な支給要件は、以下のとおりです。
▼支給要件
|
初診日が20歳前になる方については、上記2の「保険料納付要件」はなく、20歳に達したとき(※2)に障害等級表1級・2級のいずれかの状態である場合に支給されます。
※1…障害の程度を定める日。障がいの原因となった傷病の初診日から1年6ヶ月経過した日、あるいは1年6ヶ月以内に症状が固定した日を指す。
※2…それ以降に障害認定日がある場合は障害認定日の時点
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No67:障害基礎年金 所得制限
支給額の決まり方
障害基礎年金の支給額は、1級または2級の等級に応じて定額が支給されます。この基本額に加えて、18歳以下の子ども(※)の数に応じて一定額が加算される仕組みとなっています。
▼障害基礎年金の支給額
| 等級区分 | 支給額 |
| 1級 | 老齢基礎年金の満額の1.25倍+子どもの加算額 |
| 2級 | 老齢基礎年金の満額と同額+子どもの加算額 |
2025年度における障害基礎年金の年間支給額は、1級が「103万9,625円」、2級が「83万1,700円」です。子どもの加算額は、1人当たり23万9,300円(3人目以降は7万9,800円)となっています。
※1級・2級の障がいの状態にある20歳未満の子ども含まれる
出典:政府広報オンライン『障害年金の制度をご存じですか?がんや糖尿病など内部疾患のかたも対象です』/厚生労働省『年金制度基礎資料集』
障害厚生年金|厚生年金の加入者が対象
障害厚生年金は、公務員や会社員で厚生年金に加入している方に支給される障害年金です。
厚生年金の被保険者は、国民年金の第2号被保険者にも同時に該当しており、障害厚生年金の1級・2級に該当する方は障害基礎年金も一緒に支給される仕組みになっています。
支給要件
障害厚生年金は、被保険者期間に初診日があり、障害認定日に障害等級表1級・2級・3級に該当する程度の状態になった際に支給されます。
▼支給要件
|
1級または2級に該当する場合は、「障害基礎年金+障害厚生年金」の両方が支給されます。3級に該当する軽い程度の障がいにおいては、障害基礎年金の支給はなく「障害厚生年金のみ」が支給されます。
保険料納付要件については障害基礎年金と同じ内容となっています。
支給額の決まり方
障害厚生年金の支給額は、厚生年金に加入している期間中の標準報酬額と加入期間(報酬比例の年金額)によって算出されます。
また、1級・2級に該当する方で65歳未満の配偶者がいる場合には、配偶者加算(※)として一定額が加算される仕組みとなります。
▼障害厚生年金の支給額
| 1級 | 2級 | 3級 | |
| 障害厚生年金 | 報酬比例の年金額×1.25倍 | 報酬比例の年金額 | 報酬比例の年金額 |
| 障害基礎年金 | 老齢基礎年金の満額×1.25倍 | 老齢基礎年金の満額 | なし |
障害厚生年金の場合、勤続年数が長く年収が多い方ほど受け取れる年金額が増えます。
ただし、3級については「障害基礎年金の4分の3の額」が最低保障額として定められており、勤務年数が短く収入が低い方でも一定の年金を受け取ることができます。
※令和7年改正により、厚生年金においても基礎年金と同じように「子どもの加算」が新たに創設されます(令和10年4月施行)
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No66:障害厚生年金3級 月額
No68:障害年金がもらえる条件
出典:政府広報オンライン『障害年金の制度をご存じですか?がんや糖尿病など内部疾患のかたも対象です』/厚生労働省『年金制度基礎資料集』
障害年金が支給される障害等級と障がいの程度
障害年金が支給されるのは、「障害等級表に該当する程度の障がいが長期にわたって存在する場合」となります。
障がいの程度については、厚生労働省が定める障害認定基準に基づいて、「日常生活能力の制約」と「労働能力の喪失」の2つの観点から1級から3級の判定が行われます。
▼障害等級表に該当する障がいの状態
| 障害等級区分 | 障がいの状態 | |
| 1級 | 一人で日常生活を送ることができない、または極めて困難 | |
| 2級 | 日常生活に著しい制限がある | |
| 3級 | 労働に著しい制限がある | |
なお、障害等級表で定められる認定基準は、身体障害者手帳の等級とは区分や判定基準が異なることに注意が必要です。
障害等級1級
障害等級1級は、日常生活を送るうえで不可欠な動作(食事・入浴・排せつ・移動)を自力で行うことが困難または全くできない程度の障がいに認定されます。
▼障害等級1級に該当するケース
- 身の回りのことがほとんどできず、常に他人の介助が必要になる
- 入院や在宅介護が必要になり、活動範囲がベッドの周辺に限られる
障害等級2級
障害等級2級は、日常生活が著しく制限される程度の障がいに認定されます。
日常生活を送るうえで必ずしも介護を必要としないものの、食事や入浴などに援助が必要な方や、就労によって収入を得ることが難しい方などが該当します。
▼障害等級2級に該当するケース
- 家庭内での軽い作業や家事はできても、それ以上の活動が困難または制限される
- 活動の範囲が病院内や自宅内に限られる
障害等級3級
障害等級3級は、障害等級のうち障がいの程度がもっとも軽く、労働において著しい制限を受ける、または制限を加える必要がある程度の障がいに認定されます。
▼障害等級3級に該当するケース
- 家庭内での日常生活は問題なくできるが、社会生活には援助を必要とする
- 一般的な労働者と比べて、仕事内容や業務量、働き方などに大きな制約がある
出典:政府広報オンライン『障害年金の制度をご存じですか?がんや糖尿病など内部疾患のかたも対象です』/日本年金機構『第2 障害認定に当たっての基本的事項』
障害年金の申請から受給までの流れ
障害年金を受け取るには、申請に必要な書類を提出して、日本年金機構での審査を受ける必要があります。申請から受給までには4~5ヶ月程度の期間がかかるため、早めに手続きの準備を始めることが大切です。
▼申請から受給までの流れ
| 流れ | 内容 | |
| 1 | 年金請求書の入手 | 市区町村の役所や近くの年金事務所、年金相談センターで年金請求書を入手する |
| 2 | 医師の診断書の作成依頼 | 現在通っている医療機関で、所定様式の診断書を作成してもらう |
| 3 | 病歴・就労状況等申立書の作成 | 障がいの経過や日常生活・就労の状況について詳細に記載する |
| 4 | 窓口に書類一式を提出する | 年金請求書の必要事項を記入して、添付書類と一緒に年金事務所または市区町村の窓口に提出する |
| 5 | 通知書・年金証書の送付 | 日本年金機構の審査を経て、支給が決定されたあと、通知書・年金証書が送付される |
| 6 | 障害年金の受給 | 通知書に記載された受取開始年月から、2ヶ月分ごとに障害年金が指定口座に振り込まれる |
また、申請時には本人確認書類の添付が必要です。本人の状況や障がいの内容によって必要書類は異なるため、事前に窓口で確認しておくとスムーズに手続きを進められます。
詳しい申請手順や必要書類については、こちらの記事をご確認ください。
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No65:障害者年金 申請
障害年金を受給しながら就労はできる?
障害年金の申請準備を進めている方のなかには、「働いても大丈夫なの?」と疑問を持つ方もいるのではないでしょうか。
障害年金は、「労働しているかどうか」ではなく「生活や仕事にどの程度の制約が生じているか」といった基準で支給の審査が行われます。そのため、受給しながら働くこと自体は可能となっています。
2019年度の『障害年金受給者実態調査』によると、身体障がいのある受給者の就業率は48.0%となっており、半数近くの人が働いています。受給者の就業率は、年齢が下がるほど高くなる傾向が見られています。
▼年齢階級別の就業率

画像引用元:厚生労働省『障害年金制度』
このように、障害年金を受給している方でも、自分に合った働き方によって社会生活を送っている人が多くいることが分かります。
出典:厚生労働省『障害年金制度』
障害年金と就労を両立させることによるメリット
障害年金を受給しながら就労するメリットには、以下が挙げられます。
安定した生活基盤を構築できる
障がいによって正社員やフルタイムで働くことが難しい場合、「収入が減っても生活を続けられるのか」と不安を抱える方も少なくありません。
障害年金を受けとることによって、就労による収入に公的な支援が加わるため、生活費を賄うことができます。その結果、経済的な不安が軽減され安定した生活基盤を整えられます。
キャリアを継続できる
障害年金を受給するという理由で仕事を辞めることなく、現職を継続したり、就職・転職によって新たなキャリアを目指したりすることが可能です。
障がいを持っていても自分らしく働き続けることにより、将来的なキャリアアップのチャンスが広がる可能性もあります。
社会的なつながりを維持できる
就労を通じて社会的なつながりを維持できることもメリットの一つです。自宅に閉じこもりがちになると、孤立感を覚えたり、やる気が低下したりする人も少なくありません。
障害年金で生活の安定を図りながら、自分のペースで働ける職場を選ぶことで、職場の仲間や社会との接点が生まれ、生きがいの創出や生活の質向上につながります。
障害年金には注意もある。働くことによる影響は?
障がいの程度や状態の変化などによって、障害年金を受給できなくなったり、停止や減額が行われたりする可能性があります。
障害等級に該当しないと判断される可能性がある
障害年金には、働くことの制限は設けられていません。
しかし、以下のようなケースにおいては、「日常生活や労働において支障がない程度の障がい」と判断される可能性があります。
▼労働に支障がないと判断される可能性があるケース
- 正社員として働いていて安定した収入を得られている
- 一般の労働者と同じ業務内容や勤務形態で働いている
障害年金の審査において、障がい障害等級に該当しない程度の障がいと判断されると、支給の対象外となってしまいます。
受給が決定したあとも再認定(更新)が必要になる
障害年金の制度では、受給が一度決定したあとも「障がいの状態に変化がないか」を確認するために1年~5年の期限が設定され、再認定が行われます。
受給決定後に働き始めた場合には、「労働能力が向上した」と判断され、等級が変わったり、支給が停止されたりする可能性があります。
「正社員として働くことが難しい」「労働時間や仕事内容について一定の配慮を受けている」など、労働の制限や就労環境の配慮が必要な方は、再認定の際に正確な就労状況を記載することが重要です。
障害年金を受給して働きたい方の就労の選択肢
障害年金を受給しながら就労を目指す方は、無理なく安定して働ける就労形態や働き方を選ぶことが大切です。検討したい就労の選択肢には、以下が挙げられます。
➀障害者雇用枠で働く
障害者雇用枠は、障害者雇用促進法に基づいて、一定以上の障がい者の雇用が企業に義務づけられている雇用枠のことです。
身体障害者手帳を取得している方は、障害者雇用枠での応募・就労が可能です。一般雇用枠とは異なり、企業による合理的な配慮を受けながら働くことができます。
▼合理的配慮の具体例
- 通院日に応じた短時間勤務やフレックスタイム制度の選択
- 障がい特性や能力に適した業務への配置
- 情報共有や業務指示に関する手段の柔軟な調整
- 支援器具・ツールの提供 など
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②アルバイト・パートとして働く
正社員やフルタイムでの勤務に不安がある方は、アルバイト・パートとして働く方法もあります。アルバイト・パートの求人では、週2〜3日から短時間で働ける仕事も多く、生活リズムや体力に合わせて無理なく仕事を始められます。
また、シフト制の職場を選択すると、通院や体調の変動などを考慮して勤務する日時を調整できるため、障害年金の受給者の方にとって安心して働きやすい形態といえます。
③就労継続支援事業所を活用する
就労継続支援事業所は、一般企業での就労が難しい障がいを持つ方に、働く場所を提供するとともに、知識や能力向上のための訓練を行う福祉サービスを提供する施設です。
障がいによって労働に大きな制限がある方でも、能力・適性に応じた仕事の提供や、就労上の必要な配慮を受けられます。
就労継続支援事業所には、A型とB型の2種類があります。
▼就労継続支援事業所の種類
| 特徴 | 適している方 | ||
| 就労継続支援A型 | 事業所と雇用契約を結び、最低賃金以上の給与が保証される | 一般企業への就労に近い形態で働く習慣を身につけたい方 | |
| 就労継続支援B型 | 雇用契約を結ばずに、働いた分の工賃をもらう | 体力や体調の都合により、A型での勤務が難しい方や、自分のペースで無理なく働きたい方 | |
出典:厚生労働省『障害者の就労支援対策の状況』
障害年金に関するよくある質問
ここからは、障害年金の受給に関するよくある質問について回答します。
働いていると再認定(更新)に不利になる?
障害年金の再認定(更新)が行われる際に、「働いている」という理由だけで不支給になるわけではありません。しかし、働いていることにより、実際よりも障がいの程度が軽い、または支給対象外と判断される可能性はあります。
再認定の際は、就労の状況(雇用形態・勤務時間・仕事内容)や企業側に依頼している配慮事項などを医師に具体的に伝え、診断書に明記してもらうことが重要です。
就労による所得制限はある?
原則として障害年金の受給に所得制限はなく、働いていても満額が支給されます。ただし、初診日が20歳前の障害基礎年金については、前年度における本人の所得額に応じて年金の減額や支給停止が行われる制限が設けられています。
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再認定で支給停止が決まったらどうすればいい?
再認定の結果、障害年金の支給停止が決定された場合には、地方厚生局内に設置された社会保険審査官に再審請求を行うことが可能です。ただし、再審請求を行える期間は、支給停止の決定日の翌日から3か月以内となります。
障害年金を受給すると生活保護に影響する?
障害年金と生活保護は一緒に受給することが可能です。ただし、障害年金は収入として扱われるため、生活保護としての支給額は「障害年金を差し引いた差額分」となります。また、働いていて収入が増える場合には、生活保護の支給対象外となる可能性もあります。
まとめ
障害年金は、障がいを持つ方が安心して日常生活を送るための経済的な支えになります。
働くことに制限はありませんが、就労状況によっては支給対象外と判断される可能性もあるため、自身の症状や体調などに応じて無理なく働ける方法を選択することが大切です。
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