
半身麻痺を抱えながら仕事への復帰や継続を考える際、「自分にできる仕事はあるのか」「職場で受け入れてもらえるのか」などと不安に思う方もいるのではないでしょうか。
半身麻痺を抱えながら働くことは、決して不可能ではありません。不安なく仕事に取り組むためには、ご自身の状態を理解し、適切な支援や働き方を知ることが大切です。
この記事では、半身麻痺を抱える方が安心して働くために必要な職場環境や向いている仕事、活用できる就労支援について解説します。
目次
半身麻痺(片麻痺)とは
半身麻痺とは、身体の右半身もしくは左半身が麻痺して自由に動かせなくなった状態です。片麻痺とも呼ばれ、脳の片側に障がいが生じることで、その反対側の身体に運動機能の低下や消失が現れます。
麻痺の程度は個人差が大きく、完全に動かせない場合から、部分的に動かせる場合まで様々なレベルが存在します。日常生活や仕事への影響も麻痺の程度によって異なるため、個々の状態に応じた対応が必要です。
半身麻痺の原因
半身麻痺の主な原因として、脳卒中や脳性麻痺による脳の障がいが挙げられます。脳は身体の運動機能をコントロールする重要な器官なため、脳に損傷が生じると対応する身体部位に麻痺が現れます。
脳卒中
脳卒中の後遺症として半身麻痺になるケースが見られます。
脳卒中とは脳の血管が破れたり、あるいは詰まったりすることで脳に酸素や栄養が行き渡らなくなり、脳の一部に障がいが生じる病気の総称です。脳梗塞や脳出血、くも膜下出血が該当します。
この脳の損傷部位が運動機能を支配する領域だった場合、反対側の身体に半身麻痺を引き起こします。例えば、右脳に損傷が生じた場合、通常は左半身に麻痺が現れます。
脳性麻痺
脳性麻痺の症状の一つとして、半身麻痺が見られることがあります。
脳性麻痺とは、出産する前後の時期に脳へ損傷を受けたことによって生じる、永続的な運動障がいのことです。妊娠中の感染症や出産時の低酸素状態、新生児期の脳炎など、さまざまな要因が脳性麻痺を引き起こす原因となります。
症状の現れ方は個人によって異なり、半身麻痺のほかにも四肢麻痺や両側麻痺など、多様な運動機能障がいのパターンが存在しています。
半身麻痺による症状
右側が麻痺する“右麻痺”と左側が麻痺する“左麻痺”では症状の特徴が異なります。脳は左右で異なる役割を担っていることから、どちらが障がいを受けたかで現れる症状にも違いが生じる仕組みです。なお、右麻痺と左麻痺で共通する症状もあります。
右麻痺の症状
右麻痺は左脳の障がいで生じるため、左脳が司る論理的思考や言語能力に影響が出やすいとされます。
右麻痺の症状例
- 言葉が思うように出てこない
- 文字を読んだり書いたりする能力の低下が見られる
- 複雑な指示の理解に時間を要する
- 計算能力や順序立てて物事を考える力に支障をきたす など
これらの影響で日常生活だけでなく、仕事上のコミュニケーションや事務作業においても困難を感じるケースが見られます。
左麻痺の症状
左麻痺は右脳の障がいに起因することから、右脳が司る空間認識能力や感情コントロールに支障をきたしやすいとされます。
左麻痺の症状例
- 物にぶつかったり転倒したりするリスクが高まる
- 感情の起伏が激しくなる
- 状況を適切に判断する能力が損なわれる
- 左側を認識しにくくなる(半側空間無視) など
仕事の場面においては、運転や精密な作業、感情のコントロールなどに注意が必要な場合があるため、職場に理解を求めることが円滑な就労につながります。
共通の症状
右麻痺と左麻痺で共通する症状としては以下が挙げられます。
右麻痺と左麻痺共通の症状例
- 片側の手足や顔半分に対する麻痺・しびれが生じる
- 左右どちらかしか見えなくなる
- 発音がうまくできなくなる
片側の手足や顔半分に対する麻痺・しびれは、右麻痺と左麻痺の両方に共通して現れる代表的な症状です。また、左右どちらかしか見えなくなる視野障がいも頻繁に見られる症状で、同名半盲と呼ばれます。
さらに、発音がうまくできなくなる構音障がいも共通症状として挙げられ、口や舌の筋肉の麻痺によって明瞭な発話が困難になるケースがあります。
半身麻痺による仕事への影響
半身麻痺を抱えると、運動機能や認知機能、コミュニケーション能力などさまざまな面で仕事に影響が及ぶ可能性があります。
麻痺の程度や現れる症状は個人によって異なりますが、主な影響として細かな作業の困難さや行動の順序の混乱、業務上のコミュニケーションの難しさが挙げられます。
運動機能の障がいによって細かな作業が行えない
片側の手足の動きが麻痺やしびれで制限されるため、両手を使った作業や繊細な指先の動きが求められる業務に困難が生じます。
運動機能の障がいによる影響の例
- パソコンのタイピングが思うようにできない
- 書類整理に時間がかかる
- 機械操作が正確に行えない など
また、自分の意思と関係なく手足が震えたり、動いたりする不随意運動の症状が出るケースもあり、予期しない動きによって作業の精度が保ちにくくなります。
行動の順序が分からなくなり、さまざまな動作に支障をきたす
半身麻痺の原因となる脳の損傷が、特定の動作や行動の手順を記憶・実行する能力に影響を与え、“失行”と呼ばれる状態を引き起こすことがあります。
失行が生じると、運動機能自体に問題がない場合でも、目的に沿ったさまざまな動作や行為を実行する能力が損なわれてしまいます。
失行の種類
| 失行の種類 | 主な症状 |
| 観念運動失行 | 簡単な動作や習慣的に身についている動作について、口頭指示や模倣によって意識的に行えなくなる |
| 観念失行 | 道具の名前や用途は分かるにもかかわらず、それを用いた動作を順序正しく行えなくなる |
| 着衣失行 | 服の前後や裏表が判断できず、正しく着用することが困難になる |
| 歩行失行 | 歩く動作を順序立てられず、床から足を離せなくなる |
| 構成失行 | 図形を模写したり、積み木で形を作ったりする空間的な構成作業ができなくなる |
日常的な動作であっても、いざ実行しようとすると混乱してしまうようになるため、仕事の効率や正確性に大きな影響を及ぼします。
業務上のコミュニケーションが取りにくい
半身麻痺に伴って構音障がいが生じると、発声に必要な筋肉が麻痺するため、発音がうまくできず、業務上のコミュニケーションが取りにくくなります。
また、右麻痺の場合は失語症の症状が現れる可能性もあります。失語症が生じると、言語機能全般に広範な影響が及びます。
失語症による症状
| 機能 | 主な症状 |
| 聴く |
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| 話す |
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| 読む |
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| 書く |
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半身麻痺になった場合の仕事復帰は可能?
半身麻痺を抱えた場合でも、仕事への復帰は十分可能です。現在の職場で十分な配慮やサポートを受けられるようであれば、そのまま働き続けられます。
職務内容や職場環境の調整が難しい場合は、障がい者雇用での転職も選択肢となります。障がい者雇用とは、企業に義務付けられた法定雇用率に基づいて、障がいのある方を雇用する制度です。
障がい者雇用を利用すると、企業側は障がいの特性を理解したうえで採用を行うため、勤務時間の調整や作業環境の整備、業務内容の配慮など、個々の状態に応じたサポートを受けやすくなります。
半身麻痺を抱えて仕事をするために必要な職場環境
半身麻痺を抱えながら安定して働き続けるには、身体的な負担を軽減し、能力を最大限に発揮できる職場環境が必要です。特に、勤務時間の柔軟性と物理的なバリアフリーは欠かせない要素となります。
勤務時間を調整しやすい職場
勤務時間を柔軟に調整できると、負担がかかりやすい通勤ラッシュの時間帯を避けたり、体調に合わせた調整を行ったりしやすくなります。
半身麻痺を抱えている方にとって、混雑した電車やバスでの移動は転倒のリスクが高まるだけでなく、身体的にも精神的にも大きな負担となります。時差出勤制度やフレックスタイム制度があれば比較的空いている時間帯に通勤できるため、安全性を高めることが可能です。
また、リハビリテーションのスケジュールに合わせた勤務時間の調整も行いやすくなります。
バリアフリーが整備されている職場
バリアフリーが整備されている職場は移動が行いやすくなり、日常的な業務遂行における物理的な障壁が減少します。
バリアフリーが整備された職場環境の例
- エレベーターやスロープが設置されている
- 床面に段差がなく、通路幅が確保されている
- バリアフリートイレが設置されている
- 駐車スペースが確保されている など
移動をスムーズにする設備が揃っていると、杖や装具を使用している方でも安全に職場内を移動できる環境が整います。また、電動車椅子での出勤が可能になる点もメリットです。
半身麻痺を抱えている方に向いている仕事
半身麻痺を抱えている方には、デスクワーク主体の仕事が向いています。座った姿勢で業務を行えるため、身体への負担が少なく、移動の頻度も抑えられる環境が整っています。
また、パソコンを使った作業が中心となる職種であれば、片手でも操作しやすい支援機器やソフトウェアを活用することで、効率的に業務を進めることが可能です。
半身麻痺を抱えている方に向いている仕事の例
- 事務職
- データ入力・データ管理
- カスタマーサポート
- プログラマー・システムエンジニア
- Webデザイナー・グラフィックデザイナー
- ライター・編集者 など
障がい者雇用での転職を目指す際に活用できる就労支援
半身麻痺を抱えながら障がい者雇用での転職を目指す際には、専門的な知識とネットワークを持つ就労支援サービスの活用が成功への近道です。
専門的な知識を持つ支援機関を利用することで、求人情報の入手だけでなく、就職活動全般にわたる手厚いサポートが受けられます。
ハローワーク
ハローワーク(公共職業安定所)には、障がいのある方々を対象とした専用窓口が設けられています。この窓口では、障がいの特性や希望する条件に合った求人の紹介を受けられるだけでなく、就職に関するさまざまな相談も可能です。
職業相談員の方に履歴書の書き方や面接対策、職場への配慮事項の伝え方などについて、個別のサポートをしてもらえます。全国各地にあるため、地域に根差した情報を得やすい点も特徴です。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、障がいをお持ちの方が利用できる職業訓練施設です。ここでは、一般企業への就職に向けて、ビジネスマナーやパソコンスキル、コミュニケーション能力など、仕事で必要となる知識やスキルを習得するためのサポートが受けられます。
また、就職活動の支援や企業とのマッチング支援、就職後の定着支援まで一貫したサポートを受けられるため、安心して就職を目指せる体制が構築されています。
障がい者専門の転職エージェント
障がい者専門の転職エージェントは、障がい者雇用に特化した求人情報を多数保有し、キャリアアドバイザーが転職活動全般をサポートしてくれます。
「エージェント・サーナ」は、障がい者の転職支援に長い実績を持つ転職エージェントです。専任のキャリアアドバイザーが個別に面談を行い、これまでの経験や希望条件、障がいの状態を踏まえたうえで、最適な求人を紹介しています。履歴書や職務経歴書の添削、面接対策、企業との条件交渉など、転職活動全般にわたる手厚いサポートも可能です。
まとめ
半身麻痺を抱えながらでも、適切な支援と職場環境が整っていれば仕事を続けることは十分に可能です。麻痺の程度や症状は個人によって異なるため、自分の状態を正確に把握したうえで、必要な配慮を受けられる職場を選ぶことが欠かせません。
デスクワーク主体の仕事を中心に検討し、勤務時間の柔軟性やバリアフリー環境が整った職場を探すことで、長期的に安心して働ける基盤が作れます。現在の職場での復帰が難しい場合には、障がい者雇用での転職も有効な選択肢です。
「エージェント・サーナ」では、プロのアドバイザーがあなたに寄り添い、障がいの特性に合った求人のマッチングや書類作成、面接対策のサポートなどを実施いたします。半身麻痺を抱えていても仕事を続けたいとお考えの方はぜひご相談ください。






