
障がいを持つ方に人気のある職種の一つに「事務職」があります。事務職は、身体的な負担が少なく障がい特性への配慮を受けながら安定して働けることが魅力です。
しかし、事務職と一口にいってもその仕事内容は多岐にわたり、従事する部門や業種によって求められるスキルは異なります。
「事務職はどんな人に向いているのか」「事務職で採用されるにはどのようなスキルが求められるのか」と疑問を持つ方もいるのではないでしょうか。
この記事では、障害者雇用で事務職が選ばれやすい理由や具体的な仕事内容、事務職が向いている人の特徴、転職活動を成功させるためのポイントを解説します。
目次
障害者雇用における事務職での就業状況
障害者雇用において事務職で働いている人はどれくらいいるのでしょうか。
厚生労働省が公表した『令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書』によると、身体障がいを持つ方の障害者雇用での職業は、「事務的職業(26.3%)」がもっとも多く、次いで「生産工程の職業(15.0%)」「サービスの職業(13.5%)」の順に多くなっています。
▼【職業別】障害者雇用者数の割合

画像引用元:厚生労働省『令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書』
このように身体障がいを持つ方にとって、事務職は活躍しやすい職種の一つとなっていることが分かります。
出典:厚生労働省『令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書』
障害者雇用で事務職が選ばれやすい理由
事務職は、身体障がいを持つ方にとって働きやすい環境であることや、身体的な制約をカバーしやすい仕事の特性などから多くの求職者に選ばれています。
障害者雇用で事務職が選ばれやすい理由には、以下が挙げられます。
職場環境が整備されている
事務職は、温度管理や換気が適切に行われているオフィスビルの室内で働くことが一般的です。身体的に安全な職場環境で働けることから、外的要因による影響を避けられます。
▼身体に影響をもたらす外的要因の例
- 低温・高温環境
- 粉塵やほこりの発生
- 空気の乾燥 など
また、エレベーターや階段の手すり、自動ドア、バリアフリートイレなどが備わっている建物も多く、肢体不自由のある方が安全に利用できる物理的な環境が整っています。
デスクワークが中心となる
身体障がいを持つ方にとって、長時間の立ち作業や重い荷物の運搬、連続した広範囲の移動などが伴う仕事は身体的に大きな負担となり、従事が難しいことがあります。
一方、事務職の仕事は、データ入力や書類作成、ファイリングなどのデスクワークが中心となります。体力を消耗する作業が少なく、身体的な負担を抑えながら業務を遂行できるため、無理なく働きやすいといえます。
規則的な勤務ができる
事務職の仕事は、平日の日中に働く勤務形態が一般的です。早朝・深夜といった時間帯での勤務や、シフトによるローテーション勤務がなく規則的な働き方ができるため、生活習慣を整えやすくなります。
日々の体調管理や定期的な通院が必要な方にとって、仕事とプライベートの予定を調整しやすいことから、長く安定して働けることが期待できます。
未経験でも挑戦しやすい
障害者雇用の事務職は、未経験でも応募できる求人が多く見られます。基本的なPCスキルがあれば職歴や資格がなくても採用してもらえる可能性があります。
初めて就職する方のほか、異業種からのキャリアチェンジを検討している方も挑戦しやすい職種といえるでしょう。
障害者雇用における事務職の種類と仕事内容
障害者雇用の事務職は、業種や部署によって求められる役割や仕事内容が異なります。求人によっては「事務補助」という職種名で募集されていることもあり、これは各部門での事務業務のサポートが中心となるため、未経験の方や業務範囲を限定したい方に適しています。
ここでは、事務職の求人で見られる職種の種類と具体的な仕事内容を紹介します。
➀一般事務
一般事務は、社内業務を円滑に進めるための幅広いサポート業務を行う職種です。
会社や部署によって対応する業務の内容や範囲は異なりますが、事業活動の基盤を支える役割を担います。定型的な作業を正確にこなす能力や、タスクの優先順位を柔軟に判断できる能力が求められます。
▼一般事務の仕事内容
- 書類作成
- データ入力・処理
- 電話応対
- 来客対応
- 書類のファイリング
- 備品管理
- 郵便物の管理
- 執務室の清掃 など
②経理事務
経理事務は、企業のお金の流れを正確に記録して管理する職種です。
経営実績や財政状況などを把握して、経営の健全性を維持する重要な役割があります。法令や会計基準に関する知識や、数字を扱う作業について正確性のある処理が求められます。
▼経理事務の仕事内容
- 請求書や領収書などの帳票の作成
- 伝票の処理
- 現金・預金の出入金管理
- 経費精算
- 売掛金・買掛金の管理
- 月次・年次決算 など
③営業事務
営業事務は、営業部門のバックオフィス業務や顧客対応などをサポートする職種です。
営業担当者や顧客と密に連携を取りながら業務を進めるため、相手の意図を正確に理解して的確に伝えるコミュニケーション能力が求められます。また、顧客の納期や営業のスケジュールに合わせた事務的なサポート力も必要です。
▼営業事務の仕事内容
- 受発注管理(注文受付や納期管理)
- 見積書・請求書・契約書・納品書などの帳票作成
- 営業資料の制作補助
- 顧客の問い合わせ対応 など
④人事・労務事務
人事・労務事務は、社内の従業員に関する管理を担当する職種です。従業員が安心して働くための環境を整える、企業活動の根幹に関わる仕事といえます。
勤怠や給与、人事評価などのプライベートな情報を扱うことへの責任感や公平性のある判断などが求められます。
会社によっては人事部門と労務管理部門が分けられている場合もあります。
▼人事に関する仕事内容
- 採用活動
- 入社・退社手続き
- 教育・研修の実施
- 人事評価管理
- 人員配置管理 など
▼労務に関する仕事内容
- 勤怠管理
- 給与計算
- 社会保険に関する手続き
- 福利厚生の手続き など
⑤医療事務
医療事務は、病院やクリニックにおいて受付・会計や診療報酬請求などを行う職種です。
医療機関の顔として患者と接するため、ホスピタリティのある対応が求められます。医療保険や診療報酬に関する複雑なルールに基づいて、正確に情報を処理する能力も必要です。
▼医療事務の仕事内容
- 患者の受付・会計業務
- カルテの管理
- 診療報酬計算・レセプト作成
- 備品管理 など
レセプトの作成業務についてはさまざまな民間資格があり、取得することでスキルや知識をアピールすることが可能です。なお、勤務時間は医療機関の営業時間内となるため、事前に勤務日時を確認する必要があります。
⑥法務事務
法務事務は、企業活動において法律に関わる事務処理全般を担当する職種です。
契約書のチェックや法的トラブルへの対応などを行い、企業のコンプライアンスを強化する重要な役割を担います。各種法令に関する深い知識や、複雑な契約書や規定の内容を理解して適切に判断する論理的な思考力が求められます。
▼法務事務の仕事内容
- 契約書の作成・審査
- 法改正に伴う社内規定や業務フローの修正
- コンプライアンス研修の実施
- 行政機関への許認可申請・更新手続きの管理 など
障害者雇用の事務職が向いている人
次のような特徴を持つ人は、障害者雇用の事務職で活躍しやすいと考えられます。
▼事務職が向いている人の特徴
- PCのタイピングができる
- 正確かつ丁寧な入力作業が得意
- 定型的なルーチンワークが好き
- 円滑なコミュニケーションがとれる など
事務職では、PCを使った入力作業が基本となるため、タイピングの正確性・スピードが重視されます。上肢に障がいがありタイピングが難しい方でも、補助器具やデジタルツールを活用することでスムーズに入力できる場合は、事務職で働くことができます。
また、数値の入力やシステムの処理、書類作成などには正確性が求められます。細かな作業を正確に丁寧にこなすことが得意な方は、事務職に向いているといえます。
日々変化する業務を行うよりも「定型的な作業や決まったルールに基づいて処理を行う仕事のほうが好き」「一つのことに集中したい」という方は、事務職が働きやすいでしょう。さらに、ほかの部門のサポートをしたり、電話や来客対応が必要になったりするため、円滑なコミュニケーションをとれる方が向いています。
事務職への転職活動を成功させるためのポイント
障害者雇用で事務職への転職を目指す際は、企業に求められる実務能力を身につけるとともに、「どのような役割や仕事で自身の能力を活かせるか」をアピールすることが重要です。
ここからは、事務職での転職を成功させるためのポイントを解説します。
基礎的なPCスキルを習得しておく
事務職の仕事内容は業種や部門によって異なりますが、基本的にPCでの操作が必須となります。タイピングのスキルのほか、Office系のソフトウェアの操作スキルを身につけることで、採用担当者に実務能力をアピールすることが可能です。
事務職が未経験職種であっても、選考で有利になることが期待できます。
▼事務職に役立つPCスキル
| スキル | 習得しておきたいレベル |
| タイピングスキル | 正確かつスピーディに日本語を入力できる |
| Word | 文書の作成や表の挿入、基本的な書式設定ができる |
| Excel | データ入力、表作成、基本的な関数(SUM、AVERAGEなど)が使える |
| PowerPoint | プレゼン資料や社内資料を作成・編集できる |
事務職に役立つ資格を取る
障害者雇用の事務職は未経験でも応募できる求人が多く見られますが、資格を取得しておくと自身の知識・スキルを客観的に証明でき、「即戦力として貢献できる」ことをアピールすることが可能です。
従事したい仕事内容に応じて役立つ資格を取得しておくと、応募できる求人の幅が広がったり、入社後のキャリアアップを目指したりできます。
▼事務職に役立つ代表的な資格
| 資格 | 概要 |
| MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト) | WordやExcelなどのOffice系ソフトウェアを扱うPCスキルを証明する資格 |
| ビジネス実務マナー検定 | ビジネスパーソンとしてのマナーや社会常識、コミュニケーション能力などが身についていることを証明する資格 |
| 日商簿記検定 | 経理事務に必要な会計に関する知識と簿記の技能を証明する資格 |
| 秘書検定 | 社会人としての一般常識や敬語の使い方、来客・電話対応のマナーなどが身についていることを証明する資格 |
自身の強みを仕事と紐づけてアピールする
事務職の選考を受ける際には、「障がいがあっても問題なく業務を遂行できるか」「事務職の仕事で支障はないか」といった業務適性が特に重視されます。
自身のスキルや職歴を伝えるだけでなく、「事務職の仕事にどう活かせるか」「障がいによる制約にどう対処するか」を具体的にアピールすることが重要です。職務経歴書や面接では、自分の性格や障がいの特性が事務職がマッチしていることを伝えましょう。
▼【具体例】採用担当者へのアピールの仕方
- 補助器具を使用すれば正確な入力作業ができる
- 細かい確認作業で集中力を維持することが得意
- 周囲をサポートする役割にやりがいを感じる など
就職支援機関のサポートを活用する
障害者雇用の転職活動で「選考が進まない」「一人では不安」という方は、専門的な就職支援機関や転職エージェントに相談することも一つの方法です。
▼転職活動のサポートを受けられる支援機関・サービスの例
| 支援機関・サービス | 主なサポート内容 |
| ハローワーク | 障害者専門の求人紹介、職業相談、面接練習、就職後の定着支援など |
| 地域障害者職業センター | 専門的な職業リハビリテーション、職業能力の評価、職場適応援助(ジョブコーチ支援)など |
| 就労移行支援事業所 | 障がい特性に合わせた職業訓練、PCスキル習得、応募書類の作成指導、職場実習など |
| 障がい者向け転職エージェント | 非公開求人の紹介、応募書類の添削、企業への配慮事項の交渉代行、面接対策など |
『エージェント・サーナ』は、障害者雇用を支援してきた30年以上の実績を持つ転職エージェントです。企業とのネットワークを活用して求職者の条件に合った求人を紹介します。あなたの特性や強みを企業に正しく伝え、精度の高いマッチングを実現します。
障害者雇用で事務職に転職した方の体験談を紹介
ここからは、エージェント・サーナを活用して事務職に転職した方の体験談を紹介します。
【51歳/女性/営業事務】上肢障がいを持つ方の事例
営業事務に転職してキャリアアップを実現した事例です。
▼転職理由
IT企業のグループ会社に8年間勤めていましたが、給与の減給や単調な業務などを理由に「少しでも給与がよく、もっと色んな業務を経験したい」と考えるようになり、転職活動を始めました。
▼転職活動の状況
複数の転職サイトに登録しましたが面接までいかず諦めかけていました。エージェント・サーナの登録後は、職務経歴書の書き方や企業研究の重要性を教えてもらったことでスムーズに選考が進み、求職者と向き合う姿勢に好感を持った企業への入社を決めました。
▼転職後の感想
前職と同じIT業界の会社ですが、営業事務として幅広い仕事やプロジェクトに携わることができ、やりがいを感じています。また、前職で減給される前の給与水準に戻り、待遇面にも満足しています。
【36歳/男性/金融機関での事務】下肢障がいを持つ方の事例
前職の経験を活かした金融機関の事務職に転職した事例です。
▼転職理由
金融機関で契約書の原本コピーや顧客情報のデータ入力などの業務を行っていましたが、ペーパーレス化によって自分の能力を活かせる仕事がなくなり、転職を決めました。
▼転職活動の状況
インターネットで見たエージェント・サーナに登録し、「金融機関で働きたいこと」「通勤時に体への負担が少ない職場であること」という2つの条件希望に沿った企業を紹介してもらい、選考を受けた企業で内定をもらいました。
▼転職後の感想
エージェント・サーナに登録したことでさまざまな企業と出会う機会が増えて、転職の選択肢が広がりました。その結果、障がいのことを親身に考えてくれる今の職場と出会えたと感じています。
まとめ
事務職は、オフィスでの規則的なデスクワークが中心となるため、身体的な負担が少なく体調管理や通院との両立がしやすいという大きなメリットがあります。
転職を成功させるには、基礎的なPCスキルの習得や資格の取得をはじめ、「事務職で自分の特性や強みを活かして貢献できる」ことを具体的にアピールすることがポイントです。転職活動に不安を感じる方は、ハローワークや転職エージェントなどの外部のサポートを積極的に活用しましょう。
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