そしゃく機能障がいを持つ方は、食事の際に時間がかかったり、食後に体調不良を起こしたりするなど、日常生活や仕事中にさまざまな悩みを抱えることがあります。
就職・転職を考えている方は、そしゃく機能障がいへの理解があり、安心して働ける就労環境づくりを行ってくれる職場を選ぶことが大切です。
この記事では、そしゃく機能障がいによる影響や仕事で直面しやすい悩み、職場環境や仕事内容の選び方、転職活動をスムーズに進めるポイントについて解説します。
目次
そしゃく機能障がいによる日常生活への影響
そしゃく機能障がいとは、食べ物を口に入れる・かみ砕く・飲み込むといった一連の動作に困難があり、うまく食事を摂ることができない障がいのことです。障がいの状態や程度は人によって異なりますが、日常生活でさまざまな影響があります。
▼そしゃく機能障がいによる日常生活への影響
- 食事の内容が制限される
- 経管での栄養摂取が必要になる など
「食事に時間がかかる」「食べられないものがある」といった物理的な問題だけでなく、周囲の人と同じ食事を楽しめないことによる孤独感や、食事自体にストレスを感じるなどの精神的な影響も少なくありません。
食事は単なる栄養補給ではなく、人との大切なコミュニケーションの場でもあることから、こうした障がいは日常生活の質に大きく関わります。
身体障害者福祉法に基づくそしゃく機能障がいの等級
身体障害者福祉法において、そしゃく機能障がいは「音声機能、言語機能又はそしゃく機能の障害」に位置づけられています。障がいの程度に応じて、3級または4級の身体障害者手帳が交付されます。
各等級の判定基準は、以下のように定められています。
▼そしゃく機能障がいの等級
等級 | 障がいの内容 | 判定基準 |
3級 | そしゃく機能の喪失 | 食べ物を口に入れても噛むことができず、固形物を摂取できない状態 |
4級 | そしゃく機能の著しい障害 | 食べ物を噛む力が著しく弱く、刻み食や流動食でなければ食事ができない状態 |
これらの等級は、医師の診断に基づいて決定されます。身体障害者手帳を取得することで、公的な支援制度やサービスを受けられるようになります。
出典:厚生労働省『身体障害者手帳制度の概要』『身体障害者障害程度等級表(身体障害者福祉法施行規則別表第5号)』
そしゃく機能障がいを持つ方が仕事で直面しやすい悩み
食事に関する困難を持つそしゃく機能障がいの方は、職場での昼食や会食などについて悩みを抱えやすくなります。
職場の人と昼食に同席しづらい
食事の内容が制限されると、職場の人との昼食に同席できないことがあります。
昼休憩は、同僚や上司と交流する機会でもあるため、自分だけ参加できないことによって孤立感を覚える方もいます。
また、流動食での食事やチューブを使った経管栄養が必要な方は、周囲の目が気になり、職場の食堂やデスクで食事を摂ることが精神的な負担になることもあります。
昼休憩の時間に制約がある
そしゃく機能障がいを持つ方は、食事に時間がかかりやすくなります。昼休憩の時間が決まっている職場では、「時間内に食事が終わらないかもしれない」という不安や焦りがストレスにつながることがあります。
また、食事をゆっくりと楽しむことができず、昼食の時間が「つらい」と感じてしまう人も少なくありません。
体調管理が難しい
そしゃく機能障がいは、食事の制限や食欲不振などによって栄養不足や体重の減少、消化器への負担などを引き起こすことがあります。その結果、体力が低下して疲れやすくなったり、頻繁に体調不良を起こしたりと、体調管理に悩みを抱えやすくなります。
このような体調不良が続くと、仕事のパフォーマンス低下や急な欠勤につながることも考えられます。そしゃく機能障がいへの理解が不十分な職場では、体調不良への配慮が得られにくく、働きづらさを感じてしまうことがあります。
そしゃく機能障がいの方が安心して働ける職場の選び方
そしゃく機能障がいを持つ方が安心して働くためには、障がいへの理解があり、物理的・心理的に配慮してくれる職場を選ぶことが大切です。ここでは、職場を選ぶ際に確認しておく3つのポイントを紹介します。
➀周囲を気にせず昼食をとれるスペースがある
流動食や経管栄養などの特別な食事が必要になると、周囲の目が気になってしまうことがあります。個室やプライベートな空間で昼食をとれるスペースを提供してくれる職場を選ぶと、周囲の目を気にせずに安心して食事ができ、精神的な負担を感じにくくなります。
▼安心して昼食をとれるスペースの例
- パーテーションで仕切られた休憩ブース
- 昼食時に利用できる未使用の会議室 など
面接や職場見学の際には、休憩スペースの環境について確認しておくと安心です。
②昼休憩の時間を柔軟に調整できる
「12時から13時まで」といったように昼休憩の時間が決まっている職場よりも、自分で昼休憩の時間を柔軟に調整できる職場のほうが働きやすいといえます。
▼昼休憩の時間を調整しやすい職場の例
- シフト制の職場
- フレックスタイム制度を導入している職場
ゆっくりと落ち着いて食事ができることで、時間の制約による焦りやストレスを避けられます。また、職場の人と昼休憩を同席しづらい人は、時間をずらして食事をとれるため、精神的な負担を軽減できます。
③社内イベントや飲み会への配慮がある
「飲食を伴う社内イベントが頻繁にある」「頻繁に食事会や飲み会が開催される風土がある」といった職場は、食事に困難を抱える方にとって働きづらいと感じることがあります。
障がいを持つ方に配慮したイベント企画や、飲み会への参加を断っても受け入れてくれる多様性のある風土が見られる職場は、ストレスなく働くことができます。
選考を受ける際には、職場の雰囲気や社内イベントについて確認しておくことが大切です。
そしゃく機能障がいの方が働きやすい仕事
そしゃく機能障がいを持つ方が無理なく働くには、勤務場所や休憩時間を柔軟に調整できる仕事や、食事を伴う交流が少ない職種を選ぶことが大切です。
事務職
事務職は、そしゃく機能障がいを持つ方が活躍しやすい職種の一つです。
移動中の外食やクライアントとの会食が頻繁にある営業職のような習慣がないため、「食事に同席することにストレスを感じる」という方も安心して働くことができます。
また、デスクワークが中心となることから、自分のデスクで昼食をとることを許可している企業も多く見られます。
IT業界の専門職
プログラマーやWebデザイナーなどの専門職は、パソコンを使って一人で黙々と作業することが多い仕事です。
フレックスタイム制を導入している企業が多く、昼休憩の時間を自分で調整しやすいため、食事の不安を感じにくくなります。フレックスタイム制を導入している職場を選びたい方は、ITに関する知識・スキルを身につけて専門職を目指すことも一つの方法です。
工場での軽作業
工場での軽作業は、身体的な負担が少なく、体調に不安がある方でも働きやすい仕事です。チームが連携して業務を進行するため、急な体調不良や通院の際にも職場の人にフォローしてもらいやすい利点があります。
また、シフト制を導入している企業も多く、「昼食の時間をずらしてもらう」「体調に合わせてシフトを調整してもらう」といった配慮もお願いしやすいと考えられます。
工場の軽作業には、以下の仕事が挙げられます。
▼仕事の具体例
- 部品の組立
- 製品の検査
- 仕分け・梱包 など
オフィスビルや施設の清掃
オフィスビルや施設の清掃業務は、シフト制を導入している職場が多く見られるため、昼休憩の時間を柔軟に調整してもらいやすいと考えられます。
また、さまざまな勤務形態があり、「体調面を考慮して短時勤務で働きたい」「昼休憩を挟まない午前中や深夜に働きたい」といった働き方を選択しやすくなります。
エリアや作業内容ごとに清掃業務の担当者が分かれていることが一般的のため、一人で黙々と作業したい方にも適しています。
そしゃく機能障がいの方が就職・転職活動に取り組むポイント
そしゃく機能障がいを持つ方が就職・転職活動を行う際は、自分に合った就労形態を選択するとともに、企業に対して必要な配慮を具体的に伝えることがポイントです。
➀障害者雇用枠での就労を検討する
身体障害者手帳を取得している方は、企業の障害者雇用枠での就労が可能です。
障害者雇用枠とは、障害者雇用促進法に基づいて定められている障がい者の雇用枠です。企業には、雇用する障がい者の特性に応じて、職場環境の整備や業務の調整などの“合理的配慮”を提供することが義務づけられています。
障害者雇用枠で就労するメリットには、以下が挙げられます。
▼障害者雇用枠で就労するメリット
- 内定までスムーズに進みやすい
- そしゃく機能障がいをオープンにするため、周囲の理解を得やすい
- 業務内容や働き方について調整を求められる
障がいを持つことを企業に伏せて働く「クローズ就労」と比べて、適切な配慮やきめ細かなサポートを受けられるため、長く安定して働くことが期待できます。
出典:厚生労働省『障害者雇用対策』
②障がいの特性や必要な配慮を具体的に伝える
求人応募や面接の際は、そしゃく機能障がいの特性や、職場で必要となる配慮について具体的に伝えることが重要です。
そしゃく機能障がいは外見からは分かりにくいため、企業側がどのようにサポートすればよいか分からないことも少なくありません。積極的に自分の状態や不安を伝えることで、企業が受け入れを検討しやすくなります。
▼採用担当者に伝えること
- 食事の制限や取り方
- 食事にかかる時間と休憩時間の調整
- 昼食をとるスペースの確保
- 体調不良の原因や症状
- 社内イベントや会食の参加 など
また、そしゃく機能障がいの内容だけでなく、「何ができるか」「どのような強みやスキルがあるか」をアピールして、働く意欲や自身の価値をしっかりと伝えることも大切です。
③就労支援制度やサービスを活用する
ひとりで就職・転職活動を進めることが難しい場合には、就労支援制度やサービスを活用することも一つの方法です。
▼ハローワーク
ハローワークには、障がい者専門の窓口があります。障害者雇用枠の求人紹介だけでなく、応募書類の書き方や面接対策のアドバイス、面接同行などのサポートを受けられます。
▼就労継続支援事業所
就労継続支援事業所は、一般企業での就労が難しい障がい者が支援を受けながら働くための福祉サービスです。雇用契約を結ぶ「A型」と雇用契約を結ばない「B型」があり、障がいの状況や体調の波などを踏まえて選択できます。
▼障がい者向けの転職エージェント
転職エージェントでは、専任のキャリアアドバイザーによる個別相談を通じて、求人の紹介から選考対策、入社後のフォローまで一貫したサポートを受けられます。
『エージェント・サーナ』は、障がい者のための転職エージェントです。障がいを持つ方の転職を支援してきた30年以上の実績があり、多数の非公開求人と高精度のマッチングにより、2ヵ月以内の内定率は60%以上、入社後の定着率は99.5%を実現しています。
まとめ
そしゃく機能障がいを持つ方が安心して働くためには、昼食への配慮があり、柔軟な働き方を導入している職場が適しています。人によって悩みごとは異なるため、自身の食事内容やストレスの原因などを踏まえて、無理なく働きやすい仕事を選ぶことが大切です。
また、一般雇用のほかにも、障害者雇用枠や就労継続支援事業所で就労する選択肢もあります。「何から始めてよいか分からない」「選考に不安がある」という方は、外部の支援制度・サービスを活用するとよいでしょう。
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