障がい者の就職・転職において注目される特例子会社という制度をご存じでしょうか。特例子会社は、障がい者の雇用促進を目的とした制度で、企業と障がい者双方にメリットがあります。
この記事では、特例子会社の基本的な仕組みからメリット・デメリット、実際の雇用状況まで分かりやすく解説していきます。
目次
特例子会社とは
特例子会社とは、障がい者の雇用促進と安定的な就労を目的として設立された会社のことです。
障がい者が働きやすいように配慮された環境が整備されており、全国には614社(2024年時点)の特例子会社が存在します。特に、大手企業が社会貢献の一環として特例子会社を設立するケースが多く見られます。
特例子会社の目的
特例子会社は、障がい者の雇用促進と就労の安定を主な目的として設立されます。
この制度の大きな特徴は、親会社やグループ企業全体で障がい者雇用率を達成しやすくする点です。また、特例子会社で雇用された障がい者は、親会社やグループ全体の雇用率に含められるため、企業は障がい者雇用義務をより効果的に果たせます。
特例子会社認定の条件
特例子会社として認定されるためには、厚生労働省が定める以下の条件をすべて満たす必要があります。
条件項目 | 詳細 |
親会社による意思決定機関の支配 | 親会社が子会社の議決権の過半数を有しているなど、子会社の意思決定機関を支配していること。 |
親会社との緊密な人的関係 | 親会社から役員が派遣されているなど、親会社との人的関係が緊密であること。 |
障がい者の雇用割合 | 雇用される障がい者が5人以上で、全従業員に占める割合が20%以上であること。また、雇用される障がい者に占める重度身体障がい者・知的障がい者・精神障がい者の割合が30%以上であること。 |
障がい者の雇用管理能力 | 障がい者のための施設の改善や専任の指導員の配置など、障がい者の雇用管理を適正に行うに足りる能力を有していること。 |
その他 | 障がい者の雇用の促進と安定が確実に達成されると認められること。 |
これらの条件を満たすことで特例子会社として認定され、親会社の障がい者雇用率に算入できます。
特例子会社と障がい者雇用の関係
特例子会社における障がい者雇用も一般企業における障がい者雇用も、障がいをオープンにした就職である点では同じです。
一方で、両者にはいくつかの違いがあります。一般雇用で就職する場合、企業から求められるスキルや能力が高くなる傾向にあり、就職活動の難易度も高くなることがあります。
特例子会社は障がい者の雇用を前提に設立されているため、障がい特性に合わせた設備や制度がより整っている可能性も高いでしょう。これにより、障がいのある方が安心して働ける環境が提供されやすいといえます。
企業における特例子会社のメリット
特例子会社の設立は、企業にとって障がい者の雇用率を上げる以外にも、多くのメリットをもたらします。ここでは特例子会社のメリットについて詳しく解説します。
設備投資を集中できる
特例子会社を設立することで、障がい者用の設備投資を特例子会社に集中させることが可能です。親会社やグループ全体の各部署で個別に設備を整えるよりも、効率的な投資が実現できます。
また、障がい者の管理やケアに必要な人員も特例子会社に集中して配置できるため、専門的な知識を持つ人材を育成し、より手厚いサポート体制の構築が期待できます。
組織や制度を独立して構築できる
特例子会社では、親会社とは独立して雇用条件や雇用管理制度などを独自に設定が可能です。
例えば、障がいのある従業員が休みを取りやすいように休暇制度を柔軟にしたり、個々の障がい特性に合わせて労働時間を短くしたりするなどの配慮もしやすくなります。
障がい者の働きやすさを追求した組織や制度を構築することで、従業員の定着率向上にもつながることが期待されます。
職場定着率やブランディングの向上が期待できる
特例子会社は、障がい者にとって働きやすい設備や制度が整っており、同じ立場で働く仲間が多い点も特徴です。このような環境は、従業員の安心感や帰属意識を高め、結果として職場定着率の向上につながりやすい傾向があります。
また、障がい者を含むマイノリティに配慮した会社として、企業のイメージアップやブランディング向上も期待できます。社会的な評価が高まることで、企業全体の採用活動にもよい影響を与えるでしょう。
障がい者雇用のノウハウを積める
特例子会社を運営することで、企業は障がい者がスムーズに働くためのノウハウを体系的に蓄積可能です。
障がいの種類や特性に応じた業務の切り出し方、適切なサポート体制の構築、コミュニケーションの取り方など、実践を通して多くの知見を得られます。障がい者の雇用枠拡大が期待される現代において、特例子会社で培った雇用推進のアドバイスやサポートは、親会社やグループ企業、ひいては社会全体へ貢献できる可能性を秘めています。
従業員側における特例子会社のメリット
特例子会社で働く障がい者にとっても、一般企業での就職と比べて多くのメリットがあります。以下で挙げるメリットが、特例子会社の人気が高い理由の1つです。
設備や環境が整っている
前述したように特例子会社は障がい者の雇用を前提として設立されるため、一般企業よりも設備や環境が整っている点が特徴です。
バリアフリー設備が充実していたり、各障がい者の能力や特性に合わせた業務が用意されていることも期待できます。また、専門的な知識を持つ指導員やサポート体制も整備されているため、安心して働けます。
環境が変わりにくい
一般企業で就職した場合、配置転換や上司の交代など、業務内容や人間関係といった環境が変化するタイミングも少なくありません。このような変化は、障がい特性によっては大きなストレスとなるおそれがあります。一方で、特例子会社は障がいのある方が安定して働けることを重視するため、業務内容や上司などの環境が比較的変わりづらい傾向にあります。
また、特例子会社の設立は大企業が多いことから、職場としても安定しており、長期にわたって安心して働けるでしょう。
同じ立場の同僚が多い
特例子会社では職場における障がい者の割合が高いため、疎外感を感じにくい環境があります。同じような悩みや課題を抱えた同僚が多く、お互いに支え合いながら働けます。
また、将来的な目標やキャリアのモデルとなる先輩社員も見つけやすく、自分の成長につなげられるでしょう。
特例子会社のデメリット
特例子会社にはメリットがある一方で、企業と従業員の両方にとってデメリットも存在します。これらのデメリットを理解した上で、特例子会社での就職を検討しましょう。
企業における特例子会社のデメリット
企業側から見た特例子会社のデメリットとして、主に以下の点が挙げられます。
特例子会社の設立には、初期費用として施設改修や設備導入などにコストがかかります。
また、運営後も障がい者の雇用管理や定着支援のための費用が発生するため、経営の維持には安定した資金力が必要です。
他には、親会社が特例子会社に障がい者雇用を一任することで、親会社全体の障がい者雇用に対する意識が希薄になるおそれも懸念されます。さらに、特例子会社では一般企業に比べて生産性が低い傾向にあるため、安定した売り上げの維持が難しい場合もあります。
従業員における特例子会社のデメリット
従業員側から見た特例子会社のデメリットは、主に以下の点です。
特例子会社では、障がい特性に合わせて業務内容が限定されていることもあります。これにより、仕事に変化が少なく、自身のスキルアップやキャリアアップの機会が限られる可能性もあります。また、一般企業と比較して給与が低い傾向にあることもデメリットとして挙げられるでしょう。
さらに、特例子会社自体の求人数が少ない現状もあり、特に地方では特例子会社そのものが少ないため、就職の選択肢が限られてしまう課題があります。
特例子会社の現状
2024年(令和5年)の厚生労働省のデータから、特例子会社の現状を見ていきましょう。特例子会社の設立数は着実に増加しており、障がい者雇用を推進する上での重要な役割を担っていることが分かります。
特例子会社の設立数と障がい者雇用数
特例子会社の設立数と障がい者雇用数を、以下の表にまとめました。
特例子会社の設立数 | 598社 |
身体障がい者の雇用数 | 12,134.5人 |
知的障がい者の雇用数 | 24,062.0人 |
精神障がい者の雇用数 | 10,652.0人 |
障がい者の雇用者数の総計 | 46,848.0人 |
特例子会社によって非常に多くの障がい者が雇用されており、その中でも知的障がい者の雇用数が多いことが特徴です。
特例子会社における障がい種別の雇用状況
障がいの種類と程度ごとの雇用状況を、詳しく見ていきます。
身体障がい者の雇用者数
障がいの程度と労働時間 | 雇用者数 |
A:重度身体障がい者 | 4,818人 |
B:重度身体障がい者である短時間労働者 | 114人 |
C:重度以外の身体障がい者 | 2,356人 |
D:重度以外の身体障がい者である短時間労働者 | 56人 |
身体障がい者の雇用者総計* | 12,134.0人 |
* 障がい者の雇用者総計はA×2+B+C+D×0.5で計算されます。重度身体障がい者は、雇用率の算定上、1人を2人とみなす特例があります。
知的障がい者の雇用者数
障がいの程度と労働時間 | 雇用者数 |
A:重度知的障がい者 | 6,409人 |
B:重度知的障がい者である短時間労働者 | 112人 |
C:重度以外の知的障がい者 | 11,059人 |
D:重度以外の知的障がい者である短時間労働者 | 146人 |
知的障がい者の雇用者総計* | 24,062.0人 |
* 障がい者の雇用者総計はA×2+B+C+D×0.5で計算されます。重度知的障がい者も、雇用率の算定上、1人を2人とみなす特例があります。
精神障がい者の雇用者数
障がいの程度と労働時間 | 雇用者数 |
A:精神障がい者 | 10,192人 |
B:精神障がい者である短時間労働者 | 460人 |
精神障がい者の雇用者総計* | 10,652.0人 |
* 障がい者の雇用者総計はA+B×0.5で計算されます。精神障がい者については、短時間労働者であっても雇用率の算定対象となります。
これらのデータから、特例子会社では特に知的障がい者の雇用が進んでおりさまざまな障がい種別に対応した雇用が行われていることが分かります。
特例子会社の取り組み事例
実際に特例子会社がどのような取り組みを行っているのか、具体的な事例を見ていきましょう。
株式会社OSBSの事例
株式会社アウトソーシングビジネスの特例子会社である株式会社OSBSは、バックオフィスを主とした鳥取Branchと、農業と福祉の連携を実践する鳥取Farmの2つの事業を展開しています。
鳥取Branchでは、親会社やグループ企業のバックオフィス業務を担当し、全員が正社員として雇用されています。フレックスタイム制度や在宅勤務制度も導入されており、働きやすい環境です。
一方、鳥取Farmではオフィスワークが困難な障がい者向けに、種植えや収穫などの屋外作業から、苔テラリウムの製作や郵送対応などの屋内作業まで多様な業務を提供しています。
日本パーソネルセンター株式会社の事例
UCCジャパン株式会社の特例子会社である日本パーソネルセンター株式会社は、グループ各社の事務関連業務を集約して行っています。
2024年(令和6年)6月1日時点で、従業員243名のうち69名が障がい者として雇用されており、その内訳は身体障がい19名・知的障がい14名・精神障がい2名・発達障がい34名です。
従業員の業務を指導するサポーターには、障害者職業生活相談員や精神保健福祉士などの専門資格を持つ職員も含まれており、専門的なサポート体制が整備されています。
特例子会社の求人例を紹介
転職エージェント「エージェント・サーナ」に掲載されている、特例子会社の求人例をご紹介します。これらの求人例から、特例子会社でどのような仕事があるのかが具体的に分かるでしょう。
人材・コンサルティング・BPOサービス会社における求人例
求人概要
項目 | 内容 |
職種 | 一般事務・営業事務 |
雇用形態 | 契約社員 |
仕事内容 | ・オンライン端末を利用したデータ入力業務 ・情報の照会、及び一部書類のPDF化 ・顧客宛重要書類等の封入及び梱包、発送 ・名刺、発刊物の作成及び梱包、発送 ・複写式原本のドット印刷及び梱包、発送※いずれかの業務をお任せしますが、業務はシングルタスクで行えるような体制を整えています。 |
スキル | PC操作に抵抗が無い方(Word、Excel、PowerPoint、outlookなど) |
給与 | 170,000円~218,000円 |
年間休日 | 年間休日121日、週休二日制/土・日・祝日 |
勤務時間 | 09:00〜18:00/実働8時間00分/ 休憩時間60分/
時短勤務可_10時~17時(6時間)or 9時~17時・10時~18時(7時間) |
金融機関のグループ会社における求人例
求人概要
項目 | 内容 |
職種 | 一般事務・営業事務 |
雇用形態 | 契約社員(正社員登用制度あり) |
仕事内容 | ・オンライン端末を利用したデータ入力業務
・情報の照会、及び一部書類のPDF化 ・顧客宛重要書類等の封入及び梱包、発送 ・名刺、発刊物の作成及び梱包、発送 ・複写式原本のドット印刷及び梱包、発送 |
スキル | 就業経験 |
給与 | 160,000円~200,000円 |
年間休日 | 120日、完全週休二日制/土・日・祝日 |
勤務時間 | 08:40〜17:10/実働7時間30分/ 休憩時間60分/ 残業月平均5時間程度 |
特例子会社への転職方法
特例子会社は、障がいのある方にとって働きやすい環境が整っている一方、求人数自体が少なく、就職や転職は難易度が高いといわれています。特例子会社は離職率が低く、一度入社すると長く勤める方も多く、新規の求人があまり出ない傾向にあるためです。
特例子会社への転職を成功させるためには、以下の施設やサービスが役立ちます。
- ハローワーク
公的な就職支援機関で、障がい者向けの求人も多数扱っています。 - 障害者職業センター
障がいのある方の職業リハビリテーションを専門に行う機関です。 - 障害者支援・生活センター
障がいのある方の地域生活をサポートする機関で、就労に関する相談も可能です。 - 就労移行支援事業所
障がいのある方が一般企業への就職を目指すための訓練やサポートを提供しています。 - 転職エージェント: 障がい者専門の転職エージェントは、非公開求人やサポートが充実しているためおすすめです。
特に、障がい者雇用に特化した転職エージェントでは、履歴書や職務経歴書の添削・面接対策・企業との条件交渉など、きめ細やかなサポートが受けられます。
まとめ
本記事では、特例子会社について、その目的や認定条件、企業側と従業員側のメリット・デメリット、そして現状や具体的な求人例まで詳しく解説しました。
特例子会社は、障がいのある方が安心して、そして安定して働くための環境が整っている魅力的な選択肢の1つです。しかし、特例子会社への転職は、求人数の少なさから狭き門であるともいわれています。
自力での転職活動に不安を感じる方は、専門的なサポートの利用がおすすめです。
障がい者の転職に特化したエージェント・サーナでは、あなたのスキルや経験、障がい特性に合った求人を紹介してもらえるだけでなく、履歴書添削や面接対策などきめ細やかなサポートを受けられます。
まずは、気軽にWeb面談を申し込んでみてはいかがでしょうか。