
障害者手帳をお持ちの方が就職する際に、「就職活動に手帳を持つことを伝えるべきか」「どのような就労形態の選択肢があるのか」と悩む方も多いのではないでしょうか。
企業の応募条件を満たせば誰でもエントリーできる「一般雇用枠」のほかに、障害者手帳を持つ方が応募できる「障害者雇用枠」があります。それぞれの仕組みやメリット・デメリットが異なるため、自分らしく働ける就労形態を選択することが大切です。
この記事では、障害者手帳の基本や一般雇用枠と障害者雇用枠の違い、障害者手帳を利用して就職活動を行うメリット・デメリット、応募のポイントなどについて解説します。
目次
障害者手帳とは
障害者手帳とは、身体や精神などに一定程度の障がいがある人に交付される手帳の総称です。交付を受けた人は、障害者総合支援法に基づいてさまざまな障害福祉サービスによる給付や支援を受けられます。
障害者手帳は3つの種類があり、それぞれ障がいの程度に応じて等級が定められています。
①身体障害者手帳
身体障害者手帳は、身体の機能に一定以上の障がいがあると認められた方に交付される手帳です。身体障害者福祉法に基づいて認定や交付が行われます。
身体障害者手帳の交付対象となる障がいは大きく5つに分類されており、各障がいの程度に応じて1級から7級の等級が定められています(手帳の交付は1級から6級まで)。
▼身体障害者手帳の障がい分類
| 障がい分類 | ||
| 1 | 視覚障がい | |
| 2 | 聴覚・平衡機能の障がい | |
| 3 | 音声・言語・そしゃく機能の障がい | |
| 4 | 肢体不自由 | 上肢不自由
下肢不自由 体幹機能障がい 脳原性運動機能障がい |
| 5 | 内部障がい | 心臓機能障がい
じん臓機能障がい 呼吸器機能障がい ぼうこう・直腸機能障がい 小腸機能障がい ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能の障がい 肝臓機能障がい |
②療育手帳
療育手帳は、児童相談所または知的障害者更生相談所において、知的障がいがあると判定された方に交付される手帳です。
知的障がいの判定基準や療育手帳制度の名称、運用方法については、各自治体によって定められています。知的障がいは、療育手帳制度で定められた一定の知能指数に基づき、日常生活の介助を必要とする人や肢体不自由を持つ人などが判定されます。
③精神障害者保健福祉手帳
精神障害者保健福祉手帳は、一定程度の精神障がいがあることを認定する手帳です。精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づいて交付されます。
障がいの認定は、「精神疾患の状態」とそれによって生じている「能力障がいの状態」の両面から総合的に判断されます。障がいの程度に応じて、もっとも重い1級から3級までの等級が定められています。
▼精神障害者保健福祉手帳の障がい分類
- 統合失調症
- 気分(感情)障がい
- 非定型精神病
- てんかん
- 中毒精神病
- 器質性精神障がい
- 発達障がい
- その他の精神疾患
出典:厚生労働省『障害者手帳』
障害者手帳を持つ人の就職の選択肢
障害者手帳を持っている方は、就職について大きく2つの選択肢があります。
一般雇用枠で働く | オープンまたはクローズ就労
一般雇用枠は、障がいの有無にかかわらず、企業が提示する応募条件や資格を満たすすべての求職者が応募できる雇用枠のことです。
障害者手帳を持つことを企業に公表する義務はないため、オープン就労とクローズ就労のいずれかを選択できます。
▼一般雇用枠での就労方法
| オープン就労 | クローズ就労 |
| 障がいがあることや手帳を持っていることを企業に伝え、配慮を求めながら働く方法 | 障がいがあることや手帳を持っていることを企業に伝えずに働く方法 |
障害者雇用枠で働く | オープン就労
障害者雇用枠は、障害者手帳を持つ方のみが応募して就労できる特別な雇用枠のことです。
障害者雇用枠を選択する場合は、企業に対して障がいを持つことを伝える「オープン就労」のみとなります。一般雇用枠のようにクローズ就労を選択することはできません。
2024年6月1日時点において、民間企業の障害者雇用枠で働く人の数は67.7万人となり、雇用者数は増加傾向にあります。
▼障害者雇用者数の推移
画像引用元:厚生労働省『障害者雇用のご案内』
障がいを持つ方が自身の特性や能力を活かして働ける場が広がっていると考えられます。
出典:厚生労働省『障害者雇用のご案内』
一般雇用枠と障害者雇用枠の違い
障害者手帳を持つ方が就職する際には、「一般雇用枠と障害者雇用枠のどちらを選ぶか」が重要なポイントとなります。自分に合った働き方を選択するために、一般雇用枠と障害者雇用枠の違いを理解しておくことが必要です。
法定雇用率に基づく雇用枠
障害者雇用枠では、障害者雇用促進法に基づいて企業に対する障がい者の雇用割合(法定雇用率)が定められています。一般企業の場合、従業員数の2.5%に当たる障がい者を雇用することが義務づけられています(2025年10月時点)。
▼障害者雇用における法定雇用率
| 事業主の区分 | 法定雇用率 |
| 民間企業 | 2.5% |
| 国・地方公共団体 | 2.8% |
| 都道府県の教育委員会 | 2.7% |
障がいを持つ方が活躍できる雇用枠が確保されているため、スムーズに就職が決まりやすいといえます。
一方の一般雇用枠は、このような法定雇用枠の規定はなく、企業が独自の応募条件や採用基準を定めて選考が行われることになります。
障がいに対する合理的配慮の提供義務
障害者雇用枠では、企業による合理的な配慮の提供義務が定められています。
企業が人材の募集や採用を行う際は、障がい者の申し出を踏まえて業務内容や職場環境に関する必要な配慮を行うことが求められています。
これに対して一般雇用枠では、オープン就労であっても合理的配慮の提供義務はなく、あくまで企業が任意で対応可否を判断することになります。
出典:厚生労働省『事業主の方へ』
就職活動に障害者手帳を利用するメリット
障害者手帳を利用して障害者雇用枠での就職活動を行うことには、さまざまなメリットがあります。
就職活動をスムーズに進められる
障害者雇用枠に応募することで、スムーズに就職活動が進みやすくなると期待できます。
一般雇用枠の場合、障がいによって従事できる業務内容が限られたり、職場の配慮が必要になったりすることで、企業の選考基準を満たせないことがあります。
障害者雇用枠の場合、企業が障がいを持つ方の雇用を前提として選考基準を設け、就業上の配慮を行う体制を整えています。そのため、一般雇用では就職が難しい方でも、自分の能力や適性に合った職場に入社できる可能性が高まります。
公的機関による就労支援を受けられる
障害者手帳を持つ方が一般企業への就職を目指す際には、公的機関による就労支援を受けながら就職準備を進めることが可能です。
▼公的機関による就労支援
| 支援の種類 | 概要 |
| 就労移行支援 | 一般企業の就職を目指す方が、ビジネスパーソンとして必要な基礎スキルや知識を習得するための訓練を提供する |
| 就労継続支援A型 | 一般企業で働くことが困難な人が、事業所と雇用契約を締結して最低賃金以上で働く機会を提供する |
| 就労継続支援B型 | 一般企業で働くことが困難な人が、雇用契約を結ばずに体調や能力に応じて働く機会を提供する |
| 就労定着支援 | 就労移行支援を通じて一般企業で雇用された方に対して、日常生活や社会生活での相談・指導・助言を行う |
就職活動の各段階に応じて就労支援のサービスを活用することにより、自分に合った働き方や希望する仕事での就職がスムーズに進みやすくなります。
出典:厚生労働省『障害者の就労支援対策の状況』
通院や体調管理と両立しやすい
合理的配慮の提供義務が定められた障害者雇用枠では、自身の障がい特性や通院の状況などを踏まえて勤務形態や仕事内容を調整してもらいやすくなります。
適切な配慮を受けることにより、仕事と通院、体調管理を無理なく両立しやすい環境となり、長く安定して働けるようになります。
周囲の理解を得やすい
障害者雇用枠で働く際には、職場に対して自身の障がいをオープンにすることから、上司や同僚といった周囲の理解を得やすくなります。
障がいに対する理解が深い職場で働くことで、通院と両立しやすい業務体制や急な体調不良時のサポートなどが期待できます。「自分が受け入れられている」という安心感のなかで働けることは、長期的なキャリアを築くうえで非常に重要といえます。
就職活動に障害者手帳を利用するデメリット
障害者手帳を持つ方が就職活動をする際に「障がいをクローズにして一般雇用枠で働くべきか」「障がいをオープンにして障害者雇用で働くべきか」と悩むことも少なくありません。
入社後に後悔しないために、デメリットも理解しておくことが重要です。
職種が限定されやすい
障害者雇用枠は、一般雇用枠に比べて求人数が少ない傾向にあり、特に専門職やハイキャリアの求人は見つけにくいことがあります。
また、障がいを持つ方が安定して働けるように、業務内容や職場環境に配慮しやすい定型的な「デスクワーク」や「軽作業」での求人募集が多く見られます。
個々の障がい特性や能力によって従事できる業務は異なりますが、特定の専門職種やより高度な業務を希望している場合には、専門スキルや資格を習得したり、実務経験を積んだりすることが求められます。
昇給・昇格の機会を得られない場合がある
障害者雇用枠では、障がいを持つ方への配慮として業務内容や勤務時間が制限されることがあります。その結果、一般雇用で働く従業員と同じ評価基準で昇給・昇格ができず、給与アップの幅や目指せるキャリアパスが限定される場合があります。
自身のスキル・経験を活かしてキャリアアップを目指したい方は、入社前にキャリアパスや人事評価制度について具体的に確認しておき、必要に応じて労働条件や昇給・昇格に関する交渉をすることが必要です。
障害者手帳を持つ方が自分に合った働き方を選択するポイント
障害者手帳を持つ方が自身の能力を最大限に発揮して長く安定して働き続けるためには、就職活動の準備段階で自己理解を深めることが重要です。押さえておきたいポイントには、以下の3つが挙げられます。
➀得意なこと・難しいことを整理にする
就職活動を始める前に、自分の得意なこと・難しいことを整理する必要があります。
業種・職種を限定し過ぎずに、自身の強みと弱みを客観的に整理することで、適性のある仕事内容や職場の条件を絞り込みやすくなります。
▼リストアップしておく内容
- 無理なく続けられる動作
- 集中して取り組める得意な作業
- 補助器具やツールを活用すれば対応できる作業
- 対応が難しい作業 など
②働くうえでの優先順位を決める
応募先を選定する際には、「働くうえで何を重視したいか」「譲れないポイントは何か」を明確にして、希望条件に優先順位をつけることがポイントです。
優先順位を決めることで「障がいをオープンまたはクローズにするか」「どのような基準で応募先を選ぶか」が明確になり、スムーズに就職活動を進められます。自身のキャリアプランに基づいた軸を定めることが大切です。
▼具体的な軸の決め方
- 正社員雇用または正社員への登用制度があること
- 昇給制度があること
- 通院しやすい柔軟な勤務形態があること
- 前職の経験を活かせる仕事内容であること など
③企業に求める配慮事項を明確にする
障がい特性や身体機能などは人によって異なるため、企業に求める配慮の内容について明確にしておくことが必要です。
一般雇用枠でも、障がいを伝えることで業務内容や勤務形態の調整に応じてくれる企業もあります。より手厚いサポートを必要とする場合には、合理的配慮を受けられる障害者雇用枠での就職が適していると考えられます。
障害者雇用枠での就職は転職エージェントへの相談が有効
障害者雇用枠での就職活動を成功させるためには、障がい者専門の転職エージェントを活用することも一つの方法です。
転職エージェントを活用することにより、求職者の障がい特性や能力に応じた非公開求人を含む豊富な情報を提供してくれるほか、選考対策や労働条件の交渉まで全面的なサポートを受けられます。
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まとめ
障害者手帳を持つ方が就職する際は、一般雇用枠と障害者雇用枠という2つの選択肢があり、それぞれメリットとデメリットが存在します。自分の得意なこと・難しいことを整理して、働くうえでの優先順位と必要な配慮事項を明確にすることが、自分に合った働き方や仕事を見つけるヒントとなります。
長く安定して活躍するためには、合理的配慮を受けられる障害者雇用枠での就労が適しています。障害者雇用に特化した転職エージェントを活用することで、自身の障がい特性や能力を活かせる職場への就職をスムーズに進められます。
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